第209話 新しい仕事
そうした円盤関係の資料を整備するのと並行して、智香子たちは他の仕事も進めていた。
具体的には、扶桑さんの会社を提携する準備として、探索部のSNSに手を加える作業になるわけだが、実際の作業は外部の企業に委託している。
智香子たちの仕事は校内探索部の意見をまとめて、その外部の企業に伝え、新しく改良する部分の使い勝手を少しでもいいものにする、フィードバックの部分ということになる。
提出された意見を集計し、そのうちのどの意見を外部の企業に伝えるのか選択する、という内容になるわけだったが、あがって来た意見のほとんどは内容的に重複した物であり、さほど忙しいというわけでもなかった。
アンケート形式で集計された意見に目を通す過程が煩雑といえば煩雑ではあったが、まだ試験運用期間になるので、そのSNSを実際に使っている人数もかなり限られている。
四人も人数がいれば分担もできるし、さほど負担でもなかった。
円盤に関する資料をまとめながら、何度かそうして外部の企業と情報交換をするうちに二月に入る。
智香子たちが実際に迷宮に入るのは、相変わらず週に一度け二度程度の頻度であり、委員会の仕事しながらでも無理なく続けられる程度の忙しさに留まっていた。
量的な問題もさることながら、智香子たちはまだ中学一年生でしかなく、先輩方も顧問の勝呂先生も、その一年生四人組に処理できる範囲内の内容しか、任せようとはしていない。
そうでなければ、そもそも委員会の仕事などすぐに破綻してしまうはずであった。
だから割と、智香子たちとしてはのんびりとそうした仕事を進めている。
あくまで放課後に集まってだべりながら手を動かしているような感じであり、やっている当人たちとしてはあまりシリアスに「お仕事」としては受け止めていなかった。
「冬馬さん」
そうして放課後に集まって作業をしていた時、智香子は高等部一年の千景先輩に声をかけられた。
「そっちの仕事、もうすぐ終わりそう?」
「終わり、の定義にもよりますけど」
智香子は、そう答える。
「試験運用中の打ち合わせに関していえば、こちらの意見はほとんど出尽くして、相手に提出していると思います」
ただ、これはあくまで今の段階、「試験運用中」だけのことであり、春から本格的に運用を開始すれば、これまで想定していなかった不具合とか意見とかも出てくるのではないか。
などと、智香子は予想している。
システムとはおおむね、そういうものだと、智香子は自分の父親から重ねて聞かされていた。
「つまり、順調ということだよね」
千景先輩は、そういう。
「新学期に入ってからなんだけど、冬馬さんたちには引き続き、新しい仕事を頼んでもいいかな?」
「新しい仕事、ですか?」
智香子は首を傾げた。
「それ、わたしたちにやれるようなことなんでしょうか?」
「というか、冬馬さんたちに任せた方が、いい結果が出ると思う」
千景先輩は、そう続ける。
「円盤関連の実績とか、委員会の中ではかなり評価されているし」
「ってことは」
智香子は、推測を口にする。
「円盤の件と似たようなことをやれ、っていうわけですか?」
「まあ、そうだね」
千景先輩は、そういって頷いた。
「保管場所に残っている意味不明な武器。
あれらの適切な使い方を、冬馬さんたちに考えて欲しいかな、って。
期限とかノルマは特に設けるつもりはないから、気長に取り組んで貰えばいいし」
三学期のこの時期、智香子以外の委員会の人たちは、割合忙しくしていた。
新入生用の装備品、あるいは在庫の備品を確認したり、補充したり。
新年度に向けての準備が、結構あるのだった。
智香子たちだけが、委員会に所属していながらそうした通常の業務からは外されている。
別の仕事を、智香子たちだけが手がけているためだった。
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