第210話 死蔵品
「なんか、うちらだけ別動舞台になっているね」
「委員会に入った時期が、他の人たちとはずれているんだから仕方がないよ」
「それに、なんだかんだで実績あげちゃっちているし」
「まあねえ。
他の一年生の人たち、ほとんど先輩方から割り振られた仕事をこなしているだけのようだし」
委員会が使用している教室の隅で、それぞれの仕事をしながら智香子たち四人はそんなことをだべる。
「なんか、委員会の中でも妙な専門部隊に思われている節があるような」
「そうそう。
放っておけばなにかしら、目新しいことをやってくれる、みたいな」
「扶桑さんのところのと、今やっている円盤と、立て続けに二つもその目新しいことをやっちゃったんだから。
そう見なされても仕方がないよ」
そうした実績がなければ、そもそも入学したばかりの一年生にこんな仕事まで割り振ることはなかっただろう。
「だけど、備蓄の武器に関して、使い方を考えろ、か」
ノートパソコンにその武器のリストを表示させながら、佐治さんがそういう。
「例のちょー重たいメイスなんかも、チカちゃんが工夫しなけりゃそのまま死蔵されていたんだよなあ」
「うちは稼働人数が多いから」
同じように、パソコンの画面を眺めながら香椎さんがその先を引き取る。
「このデータによると、一月にひとつかふたつの割合で増えているみたいね。
その、行き場のないアイテム」
松濤女子探索部では、ドロップしたアイテムの優先権は、そのアイテムを見つけたパーティの構成員に与えられる。
外部の探索者と同様、発見者がアイテムの所有権を持つことを基本原則としており、しかし実際にはパーティ内部の中の誰が所有するべきなのか、明確ではないことが多い。
部活という性質上、また、松濤女子の場合は兼部組との混合でパーティが編成されているので、パーティ内での上下関係が比較的緩いことも関係しているようだ。
武器や装備品のアイテムがドロップした場合、まずパーティ内部の人員で、
「誰かこのアイテムを使いたい人はいないのか?」
と確認され、複数の人間が名乗りをあげた場合はその場で話し合って決める。
装備品はともかく、武器の方は長く使っていればそれだけ扱いにも習熟するわけであり、実質的には一度持ち主が決まったら、以降は「特定個人の所有物」として扱われることが多い。
発見したパーティ内で欲しがる者が名乗り出なかったアイテムは一時的に委員会預かりになり、その上で、そのアイテムについての情報を公開して、他に欲しがる生徒がいないかどうかを確認する。
委員会に長く所蔵されているようなアイテムとは、つまりは、
「それまで、誰にも欲しがられなかった」
代物である、ということになる。
例の、ちょー重たいメイスも、最終的に智香子が引き取るまでは、そうした死蔵品の一部であった。
「問題なのは」
黎が、そう指摘をする。
「これまで誰も使いたがらないだけあって、今の所蔵品はどれもこれもかなり難があるってことなんだよね」
「例のメイスみたいに、取り回しに問題があるってだけなら工夫のしようもあるんだけどさ」
佐治さんが、いった。
「基本性能は無難でも、外見が悪いから誰も使いたがらないアイテムなんかも、ぼちぼちあるんだよね」
「この、ナンバー八六七七六五二番」
香椎さんが、そう指摘をする。
「こんなもの、誰も持ち歩きたがらないでしょ」
「ええっと」
智香子はその番号を備品リストの中から検索し、出て来た写真を目にしてのけぞった。
「なにこの卑猥な形!」
「ああ、これ、モロ男性のアレだなあ」
佐治さんが、のんびりした声でいう。
「わたしも実物を見たことがあるわけじゃないけど。
長さは、一メートルちょいか。
意外に大きい」
「こんな物を持ち歩きたがる人、少なくともうちの生徒ではいないでしょうね」
黎も、そういって小さく頷いた。
「こういうアイテムこそ、優先的に処分をするべきでは?」
「校外でも、誰も使いたがらないんじゃないかなあ」
香椎さんがいった。
「巨大なアダルトグッズみたいな鈍器、好んで使いたがる人っていうのが思いつかない」
「じゃあ、いっそのことスクラップ扱いで」
智香子は、そういった。
「早い時期に処分するように、先輩方に提案しておきますか」
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