第211話 考察

「捨てるのはいつでもできるから、もうちょい使い方を検討してみようよ」

 智香子は、そう提案する。

「外見こそアレだけど、他のドロップ・アイテムにはない特性を持っていることは確かなんだから」

「金属にはあるまじき柔軟性、ってやつ?」

 佐治さんが、パソコンの画面に視線を落としながら確認をする。

「ええっと、成分的にはほとんど鉄、なはずなんだけど、妙に柔らかくてびよんびよん撓る、と」

「これもって振り回しているところを想像すると、なおさら自分では使いたくない」

 香椎さんは、そういって顔を顰める。

「モロ変態じゃない」

「否定はできないけど」

 黎は、冷静な態度を保ちながらそういった。

「で、チカちゃんは、これのなにが気になっているのかな?」

「ううんと、ね」

 智香子は、考えつついった。

「こういう外見だから、このアイテムについてはこれまで、ほとんどまともに使用法を考えてきた人がいなかった。

 それで、そういうアイテムについて、適切な使用法を考えるのが、わたしたちに与えられて役割だと思うんだよね。

 なのに、ろくに検討もしないまま最初から使わない方に断定してしまったら、それこそこの役割の意味がないっていうか」

「ああ」

 香椎さんは、ため息混じりにそう呟いた。

「それは、そうなんだけど」

 なんらかの事情によりほとんど使われることがなかったアイテムの利用法を検討するのが、智香子たち別働部隊の役割であり、最初からその役割を放棄してしまったら、それは智香子たち自身が自分の役割を全否定してしまったことになる。

「で、冬馬さんはこれのうまい使い方、なにか思いついたのかな?」

 佐治さんは、そう確認をして来た。

「っていうか、普通に考えれば、持って振り回してエネミーに叩きつける、鈍器として使うことをまず思い浮かべるけど」

「うん、鈍器」

 智香子は、そういって頷く。

「ちょっと調べてみたら、こういう柔軟性のある鈍器は、メイスというよりはブラックジャックに近いと思うんだけど」

「ああ、だから」

 パソコンの画面を見ながら、香椎さんは頷いていた。

「これ、ブラックコックジャックって通称なんだ」

 その通称は、委員会データベースの備考欄に記載されている情報だった。

 このアイテムは過去に何度か松濤女子の内部で回収されていて、そのほとんどは外部に売り払われていたらしい。

 まあ、誰も使おうとはしなかったんだろうな。

 と、智香子は想像をする。

 だから、校内で持て余されて、そのまま売り払われた。

 ドロップ率はそんなに高くはなく、例の円盤のドロップ率の十分の一以下。

 ある種のレアアイテムであるといっても、決して間違いではない。

 ほとんどは〈武器庫〉内でドロップしているけど、ごくまれにそれ以外の場所かでドロップすることもあるようだ。

 そうした校外でこのアイテムを使用した誰かがそうした、見たまんまな通称をつけて、それが定着した形だろう。

 智香子としては、松濤女子の関係者がそうした卑猥な意味を持つ通称をつけたで堂々と広めたとは思いたくなかった。

「このアイテムの特性は、さっきもいったように振り回すと撓る、柔軟性があるということ」

 智香子は説明を続ける。

「それと、意外とリーチが長いこと。

 一般的な片手剣の刃渡りが七十センチ前後といわれているから、それよりほんの少し長いことになる」

「ああ」

 黎が、智香子の説明に頷く。

「いわれてみれば、確かに」

 黎が普段使用している武器は、その片手剣だった。

「でも、剣系の武器やアイテムも、その程度のリーチを持つ物はそんなに珍しくもないけど」

 香椎さんが、そんな指摘をした。

「実際、ドロップ・アイテムの武器は、人間が扱うにしては大き過ぎる物が多いくらいだし」

「そう」

 この指摘に、智香子は頷く。

「でも、そうしたほとんどの武器、武器として使用出来るドロップ・アイテムは、これとは違って撓らない。

 撓ることによる、武器としてのメリットってどこにあるんだろう?」


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