第42話 スキルの生え方
「スキルの生え方って、完全にガチャなの?」
智香子がそう訊ねると、黎は、
「……ガチャ……」
といったきりしばらく絶句してから、気を取り直したように後を続ける。
「完全にランダムとはいえないみたいだけど。
意外に探索者の性格とか、それに特技や経歴なんかも反映しているみたいだし」
「つまり、その人に似合いのスキルが生えるってこと?」
「生えやすい、という傾向はあるみたいだね。
それも、絶対的な基準ではないようだけど」
黎は語尾を濁す。
迷宮内で起こる出来事に、絶対ということはないのだ。
経験的、統計的な事例を見て「だいたいの傾向」を推し量ることはできても、それ以上のことを断言することはできない。
「性格、かあ」
智香子は、そう呟く。
黎の発言のうち、「特技や経歴」の部分を省いたのは、まだ中学一年生でしかない自分にそんな個性がないことを知っているからだ。
そう聞くと、あまり好戦的な性格ではない智香子に、戦闘用のスキルが生えていないことはなんとなく納得ができる。
これから、迷宮内で経験を積んでいけば、また変わってくるのかも知れないが。
でも、それだと。
「黎ちゃん」
智香子は、黎に訊ねた。
「なにか武道とかやっているの?」
「別になにも」
黎は即答した。
「親類には、そういうのが好きな人が多いんだけどね。
強いていえば、〈二刀流〉ってのはわかるかな。
わたし、もともとぎっちょで、今は矯正して両手が利くんだよね。
箸やペンは右手で持つようにしているけど」
なるほど。
と、智香子は納得をする。
そういうことなら、〈二刀流〉は生えやすいのかも知れない。
「でもそれだと」
智香子はそういって、首を傾げた。
「〈俊敏〉はまだわかるけど、一番最初に生えた〈強打〉は、よくわからないねえ」
「そうなんだよね」
黎も、智香子の言葉に頷いた。
〈強打〉とは、簡単にいえば、攻撃をする際にクリティカルが発生しやすくなるスキルだった。
クリティカルが発生する確率は、例によって探索者自身の能力によるようだったが。
〈俊敏〉の方は、スキルの名称そのままの効能なわけだが、これもやはり探索者自身の能力によって、動きが早くなる割合が変わってくるらしい。
黎は陸上など、競技的なスポーツの経験こそなかったが、智香子とは違って体を動かすのが苦にはならず、走力その他、基本的な身体能力も高かった。
同年配の女子の中で比較をすれば、体を使う競技だったら、なにをやらせてもかなり上位の成績になるだろう。
器用で飲み込みも早く、運動神経もいい。
そんな黎が〈俊敏〉のスキルを生やしても、智香子はなにも不思議には思わない。
「あんまり戦闘向けではないスキルばかりが生えても、この先困るっていうか」
智香子は、自分のことに、話題を戻した。
「さっきもいったけど、まだ焦るような段階ではないよ」
黎は、静かな、智香子を説得するような口調で、そういう。
「わたしたち、まだ迷宮に入り始めて一月にもならないんだから」
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