第32話 配布会
「一年生の皆さんが迷宮に入るようになってからそろそろ一月になろうとしています」
迷宮活動管理委員の千景先輩は、拡声器を構えながらそういった。
「スキル構成などもそろそろ固まって来た頃だと思いますので、これから皆さんに初心者用の装備を在庫の中から配布したいと思います」
千景先輩がそこで言葉を句切ると、集まった一年生たちが一斉にどよめく。
そういえば千景先輩、迷宮のホールで初めて会った時もそんなことをいっていたな、と、智香子は思い出した。
「これから装備類を順番に渡しますので、ここに列を作ってください。
早く来ればいい装備が渡せる、というものでもありません。
初心者にふさわしい装備というのは、迷宮の中では比較的高い確率で入手できます。
数は十分にありますから、列を作ったら焦らずに、自分の順番が来るのを待っていてください」
その後の一年生たちの動きは早かった。
真っ先に動いていたの、例によってガチ勢の子たちだろう。
この子たちは智香子とは違って、松濤女子や迷宮のことについて、事前に情報を収集して動いている。
この配布会についても、むしろいつ始まるのかと待ち構えていた感があった。
そこまでの熱意はない智香子は、自分から長い列の後ろの方へと歩いて行く。
千景先輩が説明していた通り、多分、ここで配られるような装備はむしろ十分な数があるはずだ、と、そう予想押していたこともあった。
そもそも希少な装備類ならば、こんな形で配布したりするわけがないのだ。
この松濤女子では何百人単位の探索者毎日のように稼働をしているわけで、それだけの人数が動いていれば、それなりの確率でドロップするが上級者にとっては物足りない、そんな装備品もすぐに数が集まるはずだった。
こうした新入生に配っているのも、ただ廃棄するよりは多少マシ、程度の感覚なのではないか。
それでも、そうしたドロップしたアイテムをほとんどなにも持っていない、智香子たち新入生にとっては十分にありがたいのだが。
結局、智香子は列の最後尾近くの場所に並んだ。
移動の途中で三嗣黎がやってきて、
「やあ」
などと何食わぬ顔をして挨拶をして来たので、いっしょに並ぶ。
この黎も、どうやら智香子と同じく、今回配布されるアイテムにはあまり過剰な期待をしていない側であるらしかった。
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