第116話 智香子の選択

 スキルは、使用者の希望や願望が形になった物。

 次のウサギの群れに向かって移動する最中に、智香子は早川さんがいった内容を思い返す。

 面白い仮説であり発想だとも思ったが、智香子はその正否を判断するだけの知識を持っていない。

 ただ、その仮説を採用すると、これまで腑に落ちなかった点がいくつか、解消される。

 スキルの中に、どうしてわかりやすい「生やし方」が伝わっている物とそうでない物の二種類が存在をするのか。

 レアなスキルを生やせる人と、そうでない人との差異はどこにあるのか。

 智香子に、攻撃用のスキルがなかなか生えなかったのはなぜなのか。

 スキルとは、使用者の内面を強く反映した物だと、そう考えるとなんとなくしっくりとは来るのだ。

 早川さんは、

「使用者が効果を想像することができないスキルを生やすことはできない」

 といった意味のこともいっていた。

 普段から銃を使用している人たちは、銃撃に似た効果を持つスキルを生やすことができている。

 智香子たち松濤女子だって、先輩方がスキルを使用する場面を見て、迷宮の内部ではそうしたスキルが当たり前に存在するのだと信じ切っているわけだから、同じようなスキルが生えやすい。

 先輩から後輩へと代々そうして受け継がれて来るような環境だったので、スキルが固定化、定型化しやすかったのではないか。

 弓道部組の〈梓弓〉がいい例で、あのスキルは松濤女子以外の場ではほとんど発生した例がないと、そう聞いている。

 この現代で弓を日常的に扱っている探索者が極端に少ないから、というのも大きな原因だが、それ以外に〈梓弓〉とはどういうスキルなのか、身近にその実例を示してくれる人物の有無が、スキルの生えやすさに関係していたのではないか。

 想像力や発想力、それに個人的な願望に差異が存在することを考えれば、レアなスキルが存在することにも納得がいく。

 早川さんの仮説は、なかなか妥当な物なのではないか。

 智香子としては、そう思わないわけにはいかなかった。

 そして、自分自身のパターンを振り返ってみると。

「……無意識のうちに、エネミーを攻撃することを嫌っている?」

 どうも、そういう結論になってしまう。

 現在、智香子がかろうじて生やしている攻撃用スキル〈ライトニング・バレット〉も、攻撃用のスキルであるといい切るにしては、直接的な殺傷性能の面では、弱いような気がした。

 なにせ電気、なのである。

 エネミーを感電させて麻痺をさせる、他のパーティメンバーのために隙を作る補助的な役割としては十分に実用的なスキルではあったが、〈ライトニング・バレット〉だけで倒せるエネミーはかなり小型の、弱いエネミーに限られていた。

 今相手にしているウサギ型でも、一発で仕留めることは難しいのではないか。

 その性質が自分の内面に由来しているとなると、智香子としては少し考えなければならない。

 どうやら智香子は、探索者にまるで不向きな性格であるのにもかかわらず、なにかの間違いで探索者になってしまった。

 そんな、存在であるらしい。

 そして智香子が松濤女子に入学するまで探索者のことをほとんど知らなかったことを考えれば、この仮定もそんなに無理筋なものだとは思えないのであった。

 この後の選択肢は、大まかに分けて二つ。

「そもそも、性格的に向いていなかった」

 という事実を認めて、あっさりと探索部から足を洗う。

 もう一つは、自分自身にそういう傾向があるということを認めた上で、その条件を前提にして、今後も探索者として前向きにやっていく。

 考えるまでもなく、結論は出てしまった。

 なんといっても、智香子は負けず嫌いなのである。

 自分でエネミーを殺すことに抵抗があるのならば、その事実を前提に組み入れて自分を育てていけばいい。

 智香子はごく自然に、そういう結論を出していた。


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