第347話 松濤女子の特殊性について

 意識が高い、といういい方もなんだが、松濤女子に通う生徒たちは、同年代の子たちと比較すると自分の未来についてかなり真面目に考え、早い段階から地道に取り組んでいる子が多いような印象を、智香子は受けていた。

 部活が盛んなのも、結局はそこなんだろうな。

 と、智香子は思う。

 文化系も体育会系も盛んな方だったが、全国大会などで評価されているのはどうも前者の文化系クラブの方が多いようだ。

 演劇部、吹奏楽部などは毎年、とはいわないものの、数年に一度は名のある大会で優勝かかなり上位に食い込んでいる実績がある。

 そうした部活を目当てに松濤女子を受ける生徒たちも、それなりにいるようだった。

 体育会系の部活についていえば、全国レベルでは今ひとつぱっとしない成績ながらも、まずまずの実績を維持してはいるようだ。

 しかしこちらは、その部活に参加することを目当てに松濤女子を受験する、ほどの目立った成績ではない。

 そうした部活関係についていえば、探索部と兼部して部費を稼いでいるクラブがほとんどだったから、他の学校よりは予算が潤沢であり、それだけなにかと余裕がある活動が可能になっている、といった事情もあるようだ。

 卒業生の中には、プロの歌手や役者、演奏家などになった人たちもそれなりにいて、そのことが、文化部系の志望者を集める要因になっている。

 それと比較すると、体育会系のクラブ活動はあまり目立っていなかった。

 どうも松濤女子の、そうした競技系の部活は、いい成績を残すことよりも競技そのものを楽しむことを重視するような傾向があることに、智香子は気づいている。

 部活自体には真剣に取り組んでいるように見えたが、もっと真摯にいい成績を取りにいっている他校の強豪校ほどガツガツしたところがない、という感じか。

 とにかく、真剣は真剣でも、松濤女子のそれはどこかおっとりと落ち着いたところがあって、そうした雰囲気がマイナスの方向に働いているのではないか。

 そうした競技で上位にいこうと思えば、どうしてもある程度のハングリーさは必須になってくるわけで、松濤女子の生徒たちにはそうしたメンタリティが足りていないように、智香子には感じられる。

 一方、智香子が所属している探索部の方は、あまり「所属している」という実感がない。

 それは智香子だけに限らず、探索部に属する生徒たちが共通して持っている心性だろう。

 と、智香子は推測する。

 兼部組の人数が非常に多いことからもわかるように、探索部であるということは帰属意識を求められることは意味せず、どちらかというと、「単なる属性」に過ぎない。

 そう、意識されていることが、多いような気がした。

 なにしろ人数からいえば、全校生徒の三分の一前後の生徒たちが、探索部としての活動をしている勘定になる。

 その中には、迷宮に入る頻度が極端に少ない、活動実績があまりない生徒たちも多く含んでいるので、その人数だけを見て大規模で熱心な部活動だと見なすことはできなかった。

 興味本位に、あるいは、部費稼ぎの都合で、必要と思った時にのみ迷宮に入る。

 そんなタイプの生徒たちが大半を占めているのだ。

 むしろ、継続してコンスタントに迷宮に入る、智香子たちのような探索部員の方がどちらかというと少数派であるといえる。

 ただ、そうした迷宮を探索する頻度が極端に少ない生徒たちをフォローする仕組みも、松濤女子という学校は長い時間をかけて構築して来ているわけで、それで困ることはほとんどなかった。

 ある程度人数が揃っていれば、なんとかなる。

 迷宮内でも、そうした傾向はそれなりにあり、松濤女子はその人数だけには不自由しなかった。

 だから、これまでどうにかやってこられている、ともいえる。

 よくよく考えると、微妙なバランスの上に成立している状況なんだな。

 改めてこうした周辺の状況を考えてみて、智香子はそんな感慨を抱く。

 探索者全体からみても、松濤女子の方法論というのは、かなり特殊なんだろうな。

 松濤女子でしか成立しない条件というのが、どう考えても多すぎるのだ。

 例の〈スローター〉氏ほど極端ではないものの、普通の探索者というのはもっと個人的な資質に頼っている部分が多いように思う。

 松濤女子の方はというと、そうした個人的な資質よりも、人数で殴ってたいていの困難は克服してしまう。

 そうしたメソッドを、堅持していた。

 いいか悪いか、という問題ではなく、中学とか高校生が学業や他の部活の傍ら、片手間で気軽に探索者として活動を可能にするためには、そういうメソッドに頼るしかないのだ。

 なにより、生徒たちの安全を守る、という目的が前提にある以上、そうなるしかない。

 松濤女子の子たちのあり方は、探索者として見るとかなり特殊で異端である。

 ということは、強く意識しておく必要はある。

 智香子は、一人でそう結論した。


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