第223話 血筋
家庭環境というものは、案外あなどれないんじゃないかと最近の智香子は思いはじめている。
地元の、つまりは同じような収入、家族構成の一員ばかりが通っていた小学校とは違い、私立の松濤女子は様々な家庭環境の子どもが通っていた。
智香子くらいの年齢では、発想や思想の偏りはどうしたって家庭の、つまりは両親の影響が大きいと、最近の智香子は痛感している。
同級生の子たちを見ていると、どうしてもそういう結論になってしまうのだった。
私学である松濤女子の場合、必然的に比較的裕福な家庭の子が通っていることになるわけだが、そんな前提の中でも生徒たちの価値観は、意外にバラついている。
その中でも黎は、松濤女子理事長の親類になるらしい。
本人いわく、
「直系ではない」
とのことで、どれくらい近い血筋なのか智香子も知らなかった。
世代的に見れば、理事長の曾孫くらいに該当するはずだが。
そんな黎の家庭環境であれば、親類とか知り合いの大人に複数の探索者がいても不思議ではなく、現に城南大学に通っている黎の従姉、葵御前は現役の探索者であり松濤女子の卒業生でもあった。
そんな黎は、当然のことながら校外の探索者事情についても詳しく、なにかの機会にその手の知識や裏事情などを披露してくれる。
裏事情、というより、探索者の社会はあまり情報をオープンにするような習慣がなかったらしく、ごく基本的な知識以外にはなかなか外部から知ることが難しい側面があった。
そうした探索者周辺の情報は、同業者や関係者以外に関心を持ちにくい性質があったし、それに探索者自身も、自分たちの手の内をごく限られた仲間や知り合いの中だけに留めておくような傾向が強かった。
今はネットの発達により、基本的な方法論などを共有する流れが出来てきているので大昔よりはかなりマシになって来たというが、それでも探索者の社会は、情報的な側面から見ればまだまだ閉鎖的な性質を留めている。
そうした情報を共有するにしても、それなりに時間や手間を必要とするわけであり、探索者がわからしてみれば、その手のただ働きをするべき積極的な理由もないからだ。
また、マスコミやジャーナリズムも個々の探索者に対して関心を持つことはほとんどなく、迷宮関連の情報は大抵、公社経由で公表された内容をそのまま流すだけで済ませている。
探索者の社会とは、世間的に見てもさほど注目も関心も集めていない、かなりニッチな場所だといえた。
そんな中、身内の探索者を見てきた黎経由の情報はかなり貴重だと、智香子は思っている。
校外の探索者について、智香子はこれまでほとんど実態を知る機会がなかったことも、大きかった。
この手の情報について黎が口にする内容は実感が籠もっていて、信憑性も高いように思える。
そうした事情通であるという側面以外にも、この黎は、
「探索者の家系の子だな」
と感心することが多い。
特に迷宮の中での行動は、なんというか、アクティブでありながら同時に合理的、低リスクな行動を即座に取る傾向があった。
それも、本人はあまり考えずに行動しているらしい。
こうした資質は、本人が鍛えようと思ってもなかなか得られないものではないのか、とか、智香子は思う。
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