第6話 バッタの間の攻略

 バッタの間は広い、そうである。

 しかし、今その中にいる新入生たちは、その広さが実感できない。

 なぜならば、びっしりと巨大なバッタがその空間を埋め尽くしており、視界がまるで効かないからだ。

 仕方がなく、新入生たちはばたばたと手にした得物を振って、とりあえず手近のバッタを叩き落とし続ける。


 新入生たちは、武器も防具もあり合わせの物を身に着けていたのだが、ヘルメットだけはフェイスガード付きの、しっかりとした物を着けていた。

「頭や顔だけは、しっかりと守らなければいけない」

 と、先輩方が、口を揃えて助言していたからである。

 別に顔に傷をつけないために、というわけではなく、いやそういう意味合いもまったくないわけでもないのだろうが、単純に、

「顔になにか当たると、痛い」

 からだった。

 頭部を保護するのはもちろんだったが、顔の真ん中にある鼻は、軽い力でなにかぶつかってもかなり痛みを感じる急所だった。

 経験上そのことを知っている先輩たちは、

「まずはそこだけは保護するように」

 と、代々後輩たちに伝えていたのだった。

 最悪、軽い打撃でしばらく戦闘不能になることもあり得る部位であり、迷宮の中でそんなことになれば、それこそ命取りにもなりかねない。


 そんな理由により頭部と顔面だけはしっかりと保護されていた新入生たちは、引率役の先輩が保証していた通りに、バッタの間のただ中に入っても、行動を妨げられることはなかった。

 無数のバッタがヘルメットや体のあちこちにぶつかるが、それとて打撲を作るほどの強い衝撃でもなく、さして苦痛も感じない。

 実質、一方的に、新入生の側が無数のバッタたちを叩き落とし続けるだけの作業だった。

 単調で、強いていえばその単調さが障害となり得る要素であったが、同じ作業に従事している人数が多いのと、それにバッタを倒すたびに蓄積されている経験値のおかげで、むしろ時間が経つほど疲れが軽減されていくような体感さえ、存在する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る