第331話 感覚付加系のスキル
「多分、このアイテムは」
智香子は、慎重な口ぶりでそう続けた。
「感覚、みたいなものを拡張するスキルをサポートする。
あるいは、その機能を増幅して、使用者の負担を軽くする道具だと思う」
スキルにせよアイテムにせよ、迷宮由来の物品は、人間に本来なかった能力を付加する。
あるいは、もともとあった能力を大幅に増幅する。
基本的な性質として、そうした傾向があるような気がした。
累積効果による身体能力の向上という、探索者全般に見られる効果は、このうちの後者、
「もともとあった能力を大幅に増幅する」
の機能として、一番よく知られている例になる。
スキルやアイテムを使用することにより、人間には不可能な、魔法じみた現象を使用者の意思によって起こすことができるようになる。
ということも、探索者周辺ではごく普通に観測でき、そのことに誰も、なんの疑問にも思わないほどに、知れ渡っている現象だ。
〈鑑定〉にせよ〈察知〉にせよ、このうちの、
「人間に本来なかった能力を付加する」
効果を持つスキルであり、さらに詳しく分類すれば、使用者に新たな感覚を与えるスキル、ということになる。
特に慣れない、スキルを生やしたばかりの時期は、その新しい感覚に慣れるまで、使用者は相応に苦労する傾向があった。
慣らすのに、多少の時間が必要なのだ。
それまでまったく感じ取れなかった情報をいきなり受け止められるようになり、結果、使用者の脳がそうした情報を処理する回路を作るまで、多少の時間が必要になるのではないか。
というのが、その辺の機序についての、智香子の推測になる。
慣れるあでの時間については、同じ種類のスキルであっても、かなり個人差があるようだが。
脳の処理系、といっても、智香子の感覚としてはそこまで複雑なことをしているわけではなく、泳ぎや自転車の乗り方をはじめて学び、できるようにあるまで多少苦労する、といった経験と同じような感覚があった。
実際にできるようになるまでは、多少苦労するが、一度成功してコツをおぼえてしまえば、意識するまでもなく、体が自然に動くようになる。
そういう、体におぼえさせるタイプの学習に似たなにかが、そうしたスキルを使いこなす際に必要になった。
そうしたスキルを使うのに苦労をしなくなる、といっても、だからといってスキルを使っても疲弊しない、というわけではない。
むしろ、そうした本来、普段感知できない情報を受け止め、処理するタイプのスキルを使用すると、かなり頭が疲れる感覚がある。
単純に、頭の中にある、普段ほとんど使わない機能を駆使するからだろうと、智香子は推測していた。
長時間連続でその手のスキルを使用したりすると、その疲れはかなり深刻なものになる。
そうした感覚付加系のスキルは、使用者にも相応に負担を強いるスキルであるらしかった。
しかし、この〈透徹者の眼力〉というアイテムを使用すると。
「〈鑑定〉と〈察知〉。
二種類のスキルを同時に発動するできる上、より詳しい情報が、鮮明に読めるようになる」
智香子はみんなに説明をした。
「さらにいうと、スキルを使うこちらの負担は、かなり軽くなっている。
というより、ほとんど感じない」
「いいことずくめじゃないか」
佐治さんが、感心したような口調でいった。
「なにか、デメリットとかないの?」
「今のところ、感じないかな」
智香子は、即答する。
「あくまで、この時点では、ってことだけど。
長く使い続ければ、今後、なにかしら困った性質を見つける可能性はあるね」
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