第332話 相乗効果?

 迷宮内でドロップするアイテムにも様々な性質を持つ物が存在し、そのうちの一部に、

「探索者の能力を一部分、大幅に制限する代わりに、別の能力を底上げする」

 という性質を持つ物が存在する。

 佐治さんがわざわざ、

「デメリットとかないの?」

 と口にしたのは、〈透徹者の眼力〉にその手の制限があるのかどうか、確認したかったからだ。

 どんなに便利で高性能なアイテムであっても、場合によっては使用するのを躊躇うことも、普通にあった。

 それに対する智香子の反応は、

「今のところ、そうしたデメリットは確認できない」

 であり、

「デメリットがない」

 とは、明言できない。

 智香子が感知できない部分で、なんらかのデメリットが生じている可能性も、完全には否定できなかったからだ。

 ドロップ・アイテム、それもあまり他に使用されている例がないアイテムというのは、そうした危険性を常に孕んでいるといえる。

 たいていの探索者は、そうしたリスキーな要素を呑み込んだ上で、自分に必要な機能なり性能なりを持ったアイテムをあえて使用し続ける傾向が大きかったが。

 そもそも、そうしたリスクを避ける安全志向の人間は、探索者になることが少ない、ということもある。


「使い続ける価値はあるアイテム、ってことだよね?」

 黎が、智香子に確認をする。

「だったら、警戒しつつ、使うしかないんじゃないかな」

「そうだね」

 智香子は、素直に頷いた。

「死蔵するには、ちょっと惜しいアイテムだし」

 この二人の反応は、探索者としては一般的な態度といえた。

「それじゃあ、今度はウサ耳つけてみようか」

 香椎さんが智香子をうながす。

「〈透徹者の眼力〉と同時に装着したら、どうなるのか」

「いいけど」

 智香子は〈フクロ〉から黎のウサ耳型アイテムを取り出し、頭に乗せた。

「これ、〈察知〉可能な範囲を拡張するだけのアイテムだから、そんなに変わらないと……」

 思う、と続く言葉を、智香子はそのまま呑み込んでしまう。

「どうしたの?」

 そのまま固まってしまった智香子に、佐治さんが訊ねた。

「ええっと、ねえ」

 智香子は、戸惑った様子で答えた。

「ウサ耳で感知できる範囲は、変わっていないと思う。

 ただその、〈察知〉できる内容が、随分と濃くなった」

「濃くなった?」

 黎が、すかさず訊き返す。

「具体的に、どういう状態?」

「〈察知〉であると同時に、〈鑑定〉」

 智香子は、説明する。

「読み取れる情報量が、いきなり多くなった。

 具体的にいうと、今、校内にいる人たちの位置はもちろん、各人の身長や体重などもおおよそ、把握することができるようになっている」

「……はぁ?」

 佐治さんが、大きな声を出す。

「〈察知〉とか〈鑑定〉って、そこまで詳しいことまで読み取れるスキルだったっけ?」

「それぞれ単独では、そこまでの機能はない。

 はず」

 智香子は、そう答える。

「仮にそこまで詳しいことが読み取れるようなら、それはもう別のスキルだよ」

「それも、〈透徹者の眼力〉の効果?」

 香椎さんが、確認する。

「おそらく、たぶん」

 智香子は、曖昧ないい方をする。

「確証はないけど」

「なんでそうなるか、って問題はこの際脇においといて」

 佐治さんは続けた。

「そこまで読み取れるんなら、エネミーの種類なんかも事前に予想できるってことにならない?」

「それまで、対戦したことがあるエネミーなら」

 智香子は即答する。

「ほとんど、特定できるだろうね」

 個体差はあるものの、大きさや体重、動き方などを事前に観測できれば、どんな種類のエネミーか特定することは、そんなに難しいことではない。

「便利だなあ」

 柳瀬さんが、そう感想を述べる。

「どんなエネミーと遭遇するのか事前にわかれば、それなりの準備をすることもできるようになる」

 狩りをするには、極めて便利な特性といえる。


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