第59話 迷宮の広さと〈察知〉のスキル
「意外に見落とされやすいのが、〈察知〉の重要性ね」
宇佐美先輩はいった。
「だってほら、知っての通り、迷宮内って広いでしょ」
そう。
迷宮の中は、広いのである。
人間の尺度を基準にすると、ということなのだが。
道幅と高さが数十メートル単位の回廊が縦横に走り、延々と続いている。
しっかりと計測された例はほとんどないということだったが、一つの階層だけでも軽く数百キロくらいはある道が、複雑に分岐、交錯しながら存在している形だった。
その形状は入るたびにリセットされ、ランダムに変化し、地図などを記録、保存をする意味もない。
そんな様子であるから、そもそも任意の場所に移動できる〈フラグ〉のスキルがなければ迷宮内でまともに活動をすることはできないし、それに〈察知〉のスキルがなければエネミーとエンカウントすることすら難しい。
探索者のほとんどはエネミーを倒した時にドロップするアイテムを目当てに迷宮に入るわけで、つまり、〈察知〉のスキルを持たないパーティが迷宮に入るのは、限りなく意味がない行為といえた。
この迷宮の広さということについていえば、迷宮に入りはじめた当初、うまく実感ができなかった智香子はいくつかの出来事により印象を改めている。
迷宮内を走り回っている時というのは、つまりは迷宮の影響下にあって身体能力も底上げされている。
だから、中で活動している時はなかなか実感しにくいのだが、ただ単に先輩方の後をおって走り回っているだけでも、実際にはかなりの運動をしているのだった。
特に最初の頃は迷宮に入る前に全身を汗で濡らしていたし、迷宮から出た後は、食欲が凄いことになってもいた。
そしてその翌朝には、かなり重篤な筋肉痛に悩まされた。
この筋肉痛については、回数を繰り返すたびに体の方が慣れたのか、徐々に軽いものになっていったが。
これはおかしいと思った智香子は、スマホに歩数計のアプリをインストールした上で、そのスマホを〈フクロ〉に収納せずに携帯して迷宮に入ってみた。
すると、一回迷宮に入っただけで智香子は、数十万歩という単位で歩いていた。
何度か試してみたが数十万歩から場合によっては百万歩以上、という数値に間違いはないらしく、つまり智香子は、迷宮に入るたびに数十キロから場合によっては百キロ以上も自分の足で移動をしていた計算になる。
どおりで、お腹が空くし、筋肉痛にもなるわ。
と、智香子は呆れつつ、感心もした。
毎回、フルマラソンを何セット分かの距離を自分の足で移動している勘定になるわけで。
下手に身体能力が底上げされているから楽々とそういうことができてしまう、という反動は、それなりに大きい。
また、それほど走り回らないとエネミーともまともに接触できないことを考えると、やはり〈察知〉のスキルはパーティ内に最低一人は生やしていないとどうにもならないのだった。
また、新入生にたいして、迷宮というかなり特殊な環境を、かなり念入りに、時間をかけて慣らしている松濤女子の方法論は、それなりに必然性があるものだということも智香子は納得をした。
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