第72話 智香子の武器遍歴
智香子は、香椎さんのような強い動機があって迷宮に入っているわけではない。
黎のように身内や身近な人の中に探索者がいるわけでもない。
なのに、引き留める人も存在せず、いつでも辞められる部活を今になっても続けている。
いや、香椎さんのように、部活をやるのにそんなに強い動機がある人の方がどちらかというと少数派ではあるのだろうが、智香子がまだ探索部を辞めていない理由は、智香子自身にもよくわからなかった。
一学期もこの時点になると、智香子のように興味本位で探索部に入部をした生徒たちも大勢脱落して、部活に顔を出さなくなっているというのに。
……ま、いいか。
少し考えた、
「こりゃ、結論が出ないな」
と結論をした智香子はそこで思考を中断して、箒を持ち直した。
この時、智香子と久美は掃除当番の最中だったのである。
これまで智香子は、武器として貸与された物を何度か破損している。
別に壊そうと思って壊したわけではなく、使っている最中に自然と折れたのだ。
最初、智香子はグラスファイバー製の長い棒を武器として使用していた。
軽くてそこそこの強度があり、なおかつリーチがあったからである。
しかしこのグラスファイバー製の棒は、バッタの間に挑戦している最中に何度が折れている。
酷使された末、素材が疲弊した結果であった。。
この手の初心者用の棒はもともと安価な物なので、委員会、迷宮活動管理委員会に申請をしさえすればすぐに代わりの物が支給された。
その申請も何度か繰り返すと今度はいっぺんに三本くらいの棒をまとめて渡されるようになり、その次にはグラスファイバーよりも強度があるカーボン製の棒を渡されるようになった。
このカーボン製の棒は、グラスファイバー製の物よりも丈夫で少し重く、そしてしならなかった。
長さや間合いはほぼ同一だったが、この「しならない」という性質のおかげで使い始めた当初は智香子もかなり違和感を持った物だが、今ではすっかり手に馴染んでいる。
このカーボン製の棒を何度か自然と折った頃に、今度は例の〈電撃の杖〉という代物を渡されていた。
この〈電撃の杖〉がこれまでの棒とは違って片手で扱う長さであり、間合いも使い勝手も大きく違っていて最初のうちはやはりかなり戸惑ったが、これまで使ってきた棒とは違い、人類が製造したわけではない迷宮産の、いわゆるドロップ・アイテムということになる。
それゆえ、使用者の意思によって不明な原理によって電撃を放つ(ただし、射程距離は極めて至近)という特性があり、これもまた使い慣れさえすれば、それなりに重宝をする物といえた。
今のところ、智香子は長さ二メートル弱の棒とこの〈電撃の杖〉を適宜〈フクロ〉の機能で持ち替えつつ、使用している。
「チカちゃん、ぼちぼち新しい武器とか欲しくない?」
期末試験直前のある日、青島先輩からそう声をかけられた。
この青島先輩は高等部三年生で、なぜか智香子と黎のパーティを引率する回数が多い。
「いや、欲しいか欲しくないかっていったら、そりゃあ欲しいですけど」
できればいかにも武器っぽい、かっこいいやつ。
智香子は、心の中でそうつけ加える。
黎は二振りの短剣、香椎さんは長剣。
それぞれに、なんかいかにも武器っぽいアイテムを委員会から与えられていた。
智香子だけが棒だの杖だの、なんだかそれっぽくない装備ばかりで、智香子としては内心忸怩たる思いを抱えてないわけでもない。
「そうかそうか」
青島先輩はうんうんと頷いて見せた。
その後、
「それじゃあ次回からこれ、練習しておいてね」
といって、さりげなくパチンコを手渡される。
「チカちゃんの適性だと、これからショット系のスキルを生やすとクルと思うんだよね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます