第73話 ショット系

 智香子が本格的にショット系の、いや、パチンコの練習に入るのは、結局期末試験が明けてからのことになった。

 弓道部と兼部している一年生たちのパーティに入れて貰うような形だった。

 智香子以外にも新しい武器やスキル開発のためにそれまでと別の、その目的のために編成されたパーティに組み入れられた一年生も多かった。

 この時期、一年生それぞれの適性を見極めた上で、性格やそれまでに生やしたスキル構成を見て上級生たちで勘案し、最適と思えるパーティに入れているらしい。

 一般的な特定のスキルについては、

「迷宮内部でどういう行動をすればスキルが生えやすいのか」

 というメソッドがすでに周知の物になっており、そのメソッドを一年生に体験させるためのパーティ編成になる。

 ここで初めて、智香子は黎と別のパーティに組み入れられた。

 両手に持った短剣を主体とした攻撃が特徴となる黎は、当然、ショット系のスキルを習得する必要が薄く、智香子と行動をともにするメリットも存在しない。

 ショット系のスキルとはなにかといえば、要するに属性を帯た飛び道具系スキルのことだった。

 青島先輩にいわれた後、自分でネットを検索してみて、智香子はそのことをはじめて知った。

 距離のあるエネミーに炎をぶつけるのが、〈ファイヤ・ショット〉。

 同じく、電撃系のそれが〈ライトニング・ショット〉。

 ショット系の上位互換として、バレット系のスキルというのも存在するのだが、これはショット系と比較すると飛距離と威力が向上した物であるらしい。

 その飛び道具系スキルの第一段階として、まずはショット系のスキルを習得しろ、というのが、今回の智香子のミッションということになる。

 なぜ今回智香子が弓道部と兼部している子たちのパーティに放り込まれたのかといえば、こうした飛び道具系のスキルを身につけるためには、なんらかの飛び道具で一定数のエネミーを倒すことが条件となる、とされていたからだった。

 とはいえ、今から弓道部の子たちに交ざって智香子が弓を習い始めてもすぐに物になるとも思えず、そこで青島先輩から渡されたパチンコを使うことになる。

 パチンコ。

 二股になったアームの間にゴムを張った、あれである。

 弾は、青島先輩から専用の鉛玉を渡されていた。

 パチンコと弾、どちらも公社の売店で普通に購入できる物だという。

 ちなみに、日本の法律だとこのパチンコは、所有にも使用にもなんの制限もないそうだ。

 ……近距離ならそれなりの殺傷能力があるそうだけど、それでいいんだろうか。

 などと、智香子は思う。

 青島先輩からその弾が入った袋を手渡された時、智香子はずしりとした重たい手応えに、内心で少しびびっていた。

 その重さが、一見しておもちゃのようなこのパチンコが紛れもない武器である証明になっているような、そんな気がしたのだ。


「うちの子たちも他の子たちも揃いましたかー!」

 迷宮前のロビーで宇佐美先輩がそう叫んだ。

 このパーティを引率役を勤めるのは、宇佐美先輩らしい。

 弓道部の一年生以外にも、智香子のようなパチンコ組が何名か見える。

 しかし、比率にすれば弓道部の子の方が圧倒的に多かった。

 人数比でいうと八対二といったところか。

 気のせいかも、智香子のような弓道部員でない子たちはどことなく所在なげな、心細そうな様子に見えた。

「皆さんをこれから、例のバッタの間に連れて行きます。

 そこでとにかく、バッタを倒しまくってください。

 より多くのエネミーを倒した方が、スキルの習得は早くなる傾向があるようです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る