第339話 相談の結果

 条件その一。

 智香子が六人の中で最大数を装着すること。

 可能ならば、両手の指すべて、つまり十個同時に装着することが望ましい。

 条件その二。

 他のメンバーは、最低でも、智香子の装着数から三個ほど引いた数量を装備する。

 この条件は、三個以上、指輪の装備数に差がつくと、行動時のコミュニケーションに支障を来すことが実証されたため、設定された条件だった。


 現状、智香子たちが使用できる〈叡智の指輪〉は十八個しかなく、「条件その二」の内容を考慮すると、残念なことに智香子に指輪を最大数の十個、装備させることは不可能だった。

 智香子自身は、

「公平に、全員で三つずつ装備すればいいじゃないか」

 と提案したのだが、他の五人全員からかなり強固に反対された。

 どうも他の面子は、なにがなんでも智香子のブーストを最優先にしたいらしい。

「部活で潜る程度の階層なら、今の実力でも十分というのもあるしね」

 などと、佐治さんはいう。

 別に自分たちの実力を過信しているわけではなく、松濤女子の方針として、迷宮に入る際には普段からかなり安全マージンを取って活動することになっているためだ。

 ロストを経験した結果、現在の智香子たちは、少なく見積もっても高等部の探索部員に匹敵するほどの累積効果を得ている。

 よほど油断をしたり、特殊な条件が発生したりしなければ、この六人が迷宮内で困ることはなさそうだった。

 それに、六人とも、性格的な問題として、あまりリスキーな選択をしない傾向がある。

 無理をして実力不相応の階層に挑むような性格ではないのだった。

 結局、彼女たちが迷宮内に入る目的は、一種の自己探求ということになる。

 自分たちの力で、どこまでのことができるのか。

 それを確かめるために、迷宮に入る。

 あえて言語化すると陳腐に響くかも知れないが、実際は、そんなところなのだ。

 だから、智香子のブーストを最優先に考えるのも、決して智香子の身を案じているだけ、ではなく、そうすることが、彼女たち全員の実力を最大限に引き出す方法であると、そう考えているからだった。

 少なくとも智香子以外の五人は、どうも本気でそう考えている様子だった。

 それから少し議論した後、

「智香子に五個。

 黎、柳瀬さん、世良月が、それぞれに三個。

 佐治さんと香椎さんが、それぞれに二個」

 という配分に落ち着いた。

 黎は、現状では六人の中で一番大きな攻撃力を持つ要であり、柳瀬さんと世良月は、まだ一年生であり、他の四人と比較をすると探索者としての経験が浅い。

 当面、智香子を除けば、この三名を優先的に強化しておいた方がいい。

 と、そう判断された形だった。

 今後、この〈叡智の指輪〉がもっと増えた場合は、また改めて話し合いが持たれることになる。


「指輪の配分だけでも、結構揉めるね」

 智香子がため息混じりにいった。

「こういうところで真剣にならないと、かえって駄目でしょ」

 黎が、即座に返した。

「装備品とか、そうしたものも含めた前準備の段階で、かなり差がつくんだから」

「だよなあ」

 佐治さんが、その黎の言葉に賛同した。

「結局、迷宮内でどこまで実力を発揮できるのかっていうのは、その前の段階でどれだけのことをしてきたのか、っていうのが問われているわけで」

「わかりやすい例が、累積効果になるんだけど」

 香椎さんが、その後を続ける。

「それ以外にも、どれだけ不測の事態を想定しているのかで、大きく違って来るような気がする。

 というか、ロストを体験したことで、そのことを痛感した」

「とりあえず、下着とか救急医療品、それにウェットティッシュとかをかなり多めに用意して、〈フクロ〉の中に放り込んでおこうと思いましたよ」

 世良月は、そんなことをいい出す。

「食料や治療セットは、一応、これまでもかなり多めに持っていたのですが、多ければ多いほど安心できるのです」

「最低限のことに加えて、衛生状態を保つための物も、余分に用意しておいた方がいいっすね」

 柳瀬さんは、遠い目をして、そんなことをいった。

「学校側の指導は、そういうところまで徹底していなかったっすから」


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