第351話 専業探索者の遺児たち
「そもそも、月ちゃんはなんで専業の探索者になりたいん?」
佐治さんが訊ねた。
「別に、親の職業を子どもが継がなけりゃいけないって法があるわけでもなし。
しかも専業の探索者っていえば、見返りもいい代わりに各種のリスクも多い。
決して、惜しいだけの仕事ではないと思うんだけど」
「専業だった父の子どもから見ても、決して憧れるような職業ではなかったことは確か」
香椎さんは、意外に真面目な表情でそう断言する。
「むしろその逆に、ああはなりたくないなと、ずっと思っていた。
わたしの場合は、っていうことだけど」
「実をいうと、母がどういう探索者だったのか、よく知らないのです」
世良月は白状する。
「生前の母は、仕事関係のことは一切口にしない人だったし。
時折、何日か帰らないことがある以外は、ごく普通の母親だったと思っています」
「どんな仕事をしているのか、知らなかったと?」
黎が、確認する。
「探索者っていうこと、知らなかったとか?」
「いえ、母は、専業の探索者をしていることを隠してはいませんでした」
世良月はいった。
「ただわたしが、その探索者という仕事について、まったく具体的なイメージを持っていなかっただけで」
「小学生じゃあ、そんなもんかなあ」
佐治さんがいった。
「親の職業について、具体的な内容を知っている子の方が少ないくらいか」
「でも、月ちゃんは、ここの入試を受けた時には、面接で探索者になりたいっていったんだよね?」
智香子は、以前に聞いた内容を思い出して確認する。
「前は、探索者のことを知らなかったのかも知れない。
でも、お母さんがロストしてから今まで、そのどこかの時点で探索者を志望するようになったってこと?」
「そう!
それであっています」
世良月は大きく頷いた。
「師匠が持って来てくれた、母の手記!
そこに書かれていた内容を読んで、探索者になるしかないと決意しました!」
「ここであの人が出て来るのかあ」
佐治さんが感心した。
「そういや前にも、そんなようなこと、いっていたっけか」
「プライバシーに関わることだから詳しくは聞かないけど」
智香子は、そういういい方をする。
「その手記の中に、月ちゃんを決意させるだけの内容が書かれていたってことでいいのね?」
「その手記には、探索者についてだけが書かれていたわけではないのですが」
世良月は、そういって頷く。
「わたしが専業の探索者になろうと思ったのは、そこに書かれていたことを読んだからです」
「専業でなけりゃ、駄目なの?」
香椎さんは、軽く顔を顰めてそう訊ねる。
「リスクも大きいけど、それ以外にもいろいろと、その、特殊な業界よ。
特に、若い女の子が身ひとつで飛び込んでいくことはお勧めできないけど」
この香椎さんは、多分、この六人の中では一番専業探索者の実態について、詳しい。
その、はずだった。
専業探索者の娘、という立場では世良月も同じなのだが、その世良月は、あまりそちらの世界を実験する機会はなかったらしい。
「専業の探索者がしょーもない人、端的にいって、社会不適合者の集まりであることは重々承知しています」
世良月は、断言した。
「これでも、母の知り合いたちと積極的に接触していますから。
でも、わたし自身は、そういう駄目な大人にならなければいいだけだと思います」
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