第394話 托塔天王①

「あ! オ、オイ!?」


 [呼保義]と[玉麒麟]は、それぞれ『慈』と『罡』と記された宝玉に姿を変え、[シン]の中へと入っていった。


 それと共に、いつの間にか席に座っているサクヤさん達が現れた。


「? ヨーヘイくん、どうした……って!?」

「アノ二人はどこに行ったノ!?」

「二人は、無事に[シン]の仲間になりました」


 驚いて周囲を見回す二人に、俺はさっきの経緯いきさつを伝えた。


「そうか……つまり、彼女達が呼ぶ“あの御方”とやらが、まだ後ろに控えている、と」

「はい……」


 だけど、『攻略サイト』によればこの“梁山泊”領域エリアはこの『第一門』の守護者、[呼保義]でラストのはず。

 それなのに、どうしてまだいるのか……。


「……望月ヨーヘイ。この領域エリアを攻略すれば、どのような能力を手に入れることができるのだ?」

「ああ……」


 中条の問い掛けに、俺は答えるのを躊躇する。

 もちろんコイツは俺の『攻略サイト』のことを知っているから構わないが、サクヤさんとプラーミャは知らない……って、もう今さら、か……。


「……ここで手に入るスキルは、この領域エリアと同じ、【梁山泊】。能力は、これまで出会った百七の精霊ガイストが持つスキルが使用可能になる」

「「「っ!?」」」


 俺の答えを聞き、三人が息を飲んだ。

 それはそうだろう。今まで見てきた一癖も二癖もある精霊ガイストのスキル、その全てを使えるなんて破格すぎるから。


「そ、それはすさまじい、な……」

「ええ……そして、俺達は無事、百七の精霊を仲間にできた。だから、これで終わりのはずなんだけど……」


 ガイストリーダーを取り出し、[シン]に触れさせてみるが……。


「……やっぱり、[シン]のスキル欄には【梁山泊】のスキルは表示されていない」


 つまり、まだそのスキルを取得できていないってことだ。


「ヨーヘイくん……心配するな。つまりは、この後に控えるものを仲間にすれば、無事そのスキルは手に入るということだろうから……」

「サクヤさん……ええ」


 だけど……ここは“梁山泊”領域エリアの終着点。

 ここから先、どこへ向かえば……。


 すると。


「ッ!? ヨ、ヨーヘイ!」

「うお!?」


 プラーミャが俺の顔を両手で挟み、グイ、と明後日の方向へと向けた。


「……船頭と、船がコッチに向かってきてる」


 船は桟橋に繋がれると、船頭がこちらへとやって来た。


『……“あの御方”の元へ、ご案内いたします』

「「「「っ!?」」」」


 そうか……こうやって、次へと進むのか。

 だが、そうすると目の前の船頭は一体何者なんだ……?


 精霊ガイスト? それとも、幽鬼レブナントか……?


『ヘヘ……あたしは[白衣秀士はくいしゅうし]と申しまして……器の小ささから百八の守護者に選ばれずに、“あの御方”の小間使いをしております……』

「そ、そう……」


 ということは、一応は精霊ガイストってことでいいんだよな……。


『さあ、どうぞこちらへ……』

「あ、ああ……」


 怪しいところはあるが、それでも信じてついて行かないことには先に進めない。

 俺達は案内されるまま、船に乗り込むと。


『では、行きますよ。しっかりとつかまっていてくだせえ』

「うわ!?」


 すると船は猛スピードで湖の上を走る・・

 ふ、振り落とされる……っ!?


『ああ、そうそう』

「っ……な、なんだ?」

『この船からオマエ等が落ちて死んでも、それはあたしの責任じゃありませんから』

「「「「っ!?」」」」


 ニタア、と口の端を吊り上げる、目の前の[白衣秀士]。


「っ! 舐めるな! [関聖帝君]!」


 ギリ、と歯噛みしたサクヤさんは、[関聖帝君]を召喚するが。


『おっと。あたしを倒したら、“あの御方”にはたどり着けやせんので。オマエ達にできるのは、振り落とされないようにつかまっていることだけなんですよ』

「この……っ!」


 ハア……面倒な奴だなあ……。


「……それは構わないけどさあ……オマエ、“あの御方”って奴のところに着いた時点で、ただで済むとは思うなよ?」


 俺はこれ以上なく低い声でそう告げる。


「フフ……そうネ。その時は、このヤーが燃やし尽くしてあげル」

「クク……ならば我は、同じ苦痛を永遠に受けるよう、何度も繰り返して・・・・・やろう」


 はは……プラーミャも中条も、キレたらおっかないなあ……。


「ふ、ふふ……ならば、『黄龍偃月刀』の試し切りをさせてもらうとしよう」

『っ!?』


 獰猛な笑みを浮かべるサクヤさんに、[白衣秀士]は顔から一気に冷や汗を垂らしながら、戦慄する。


 バーカ、調子に乗るからだ。

 ま、だからこそ百八の守護者に選ばれなかったんだろうけど。


『…………………………』


 お、船のスピードが落ち着いたぞ。

 全く……最初から素直に案内しろよな。


 ということで。


『……こ、この先に、“あの御方”はおられます』


 ひときわ立派な鳥居がそびえ立つ島に到着し、[白衣秀士]はその先にある長い階段を指差した。


 この階段を上った先に、その“あの御方”って奴が……。


「みんな、行こう!」

「うむ!」

「エエ!」

「クク……」

『はう!』


 俺達は階段を上り、一番上へとたどり着くと。


『……お待ちしてましたよ?』


 鬼の形相をした仮面を被った、一人の貴婦人恭しく一礼した。


「あ、あなたは……?」

『はい。この“梁山泊”領域エリアを束ねる守護神、[托塔天王たくとうてんのう]です』

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