第288話 打ち上げ(二回目)

「ふふ……やはり寒くなる季節はアップルパイに限るな」


 学園を出てルフランに来た俺達は、早速打ち上げを開始した。

 で、俺の右隣に座る先輩は、出来立ての温かいアップルパイを食べてご満悦である。本当に可愛い。


「フフ……それでヨーヘイ、当然ワタクシ達の分も、ヨーヘイのおごりなんですわよネ?」


 俺の左隣に座るサンドラが、俺の顔を覗き込みながら含み笑いをする。

 しかも今の口振りだと、昨日のことをプラーミャから聞いたな?


「は、はは……まあいっか……」


 俺はとりあえず愛想笑いを浮かべるけど、本音を言えばその程度で先輩とサンドラの機嫌が直るなら安いもんだ。


「そういや、土御門さんは“アルカトラズ”領域エリアをどこまで攻略したんだ?」


 話題を変えるため、俺はそれとなく土御門さんに話を振る。


「ホホ、一昨日に領域エリアボスのスケルトンを倒したところじゃ。このままじゃと、あと四日……いや、あと三日もあれば踏破できるかの」

「おお、いいペースだな」

「ホ、まあ既に踏破済みのプラーミャ達がいるから楽なものじゃて」


 まあ、確かに土御門さんの言う通りではあるものの、それでも、【式神】による圧倒的な物量で攻略したら、ほとんどの領域エリアは楽勝なんだけど。いや、[導摩法師]の【式神】スキル、マジでチートだな。

 だからこそ、[ヘル]にクラスチェンジしてそのスキルが無くなることがこの上なく惜しい。


「ホ……望月、わらわの顔に何かついているのかえ……?」

「あ、い、いや……」


 おっと、どうやら無意識に土御門さんを見ていたみたいだ。気をつけよう。


「だけど、この様子だったら“アトランティス”領域エリアと“レムリア”領域エリア含めて、予定通り期末テストまでに全踏破はいけそうだな」

「フン、当然ヨ」


 そう言って、プラーミャが鼻を鳴らす。


「なら、期末テストが終わった後のことについて、考えねばな」


 先輩の言葉を受け、俺は腕組みしながら頭をひねるけど……なんなら、前倒しして二年に進級する前に全部片づけちまうか……。


「よっし!」


 俺は両頬をパシン、と叩いて気合いを入れる。


「ど、どうしたんですノ?」

「あ、ああいや、俺達が攻略する領域エリアでどこかいいところがないか、気合い入れて探そうと思ってな」


 驚くサンドラに、俺はそう言って言葉を濁した。

 毎度のことだけど、二周目特典の領域エリアについての言い訳を考えるのがメンドクサイ。


「あはは! そうすると、次は【風属性反射】かなあ?」

「フフ、ヤーは【雷属性反射】が欲しいわネ」


 オイオイ、まるで属性反射スキルを手に入れる前提になっちまってるじゃねーか。その通りだけど。


「ふふ、期待してるぞ、望月くん。それで、その……」


 先輩が俺の肩をポン、叩いて微笑んだ後、チラチラと俺の皿に乗っているコーヒーケーキを見る。

 食べたいんですね? 分かります。


 俺はス、と先輩の前に皿を差し出すと。


「むむ……い、いいのか……?」


 おずおずと尋ねる先輩に、俺は無言で頷く。


「う、うむ! では……」


 先輩は早速フォークでコーヒーケーキを一口……いや、半分も持っていきますか……。

 それを自分の皿に移し、改めて一口サイズに切り分けて口に含んだ。


「! ふふ、美味しい……!」


 はは、相変わらず先輩は美味そうに食べるなあ……眼福眼福。


 ◇


「それで……わざわざ店の外に出てきたと言うことは、あまり聞かれたくない内容なのだな……?」


 まだ打ち上げが続く中、俺は先輩を店の外に連れ出した。

 サッカー部のマネージャー、小森チユキの件について話をするために。


「はい……実は、先輩達が“カタコンベ”領域エリアの攻略をしている間、俺達は生徒会の仕事をしていたんですけど、サッカー部に活動報告書の督促をしに行ったら、マネージャーの様子がおかしかったんです」

「ほう……それで?」

「特におかしいと感じたのが、まるで誰かに脅迫されているかのように怯えた表情でして……氷室先輩とも話をしたんですが、ひょっとしたらストーカーか何かに付きまとわれてるんじゃないかと……」

「ふむ……」


 俺の説明を聞き、先輩は顎を押さえながらしばらく考え込むと。


「……何かよからぬことに巻き込まれているのであれば、早めに対処せねばならん。分かった、早速明日にでも小森くんに会って詳しく話を聞いてみよう。それと」

「? それと?」

「念のため、お父……学園長を通じて、“GSMOグスモ”にも依頼してみようと思う。考えすぎかもしれないが、万が一犯罪に巻き込まれていることも考慮して、な」


 はは、さすがは先輩。こういう時は本当に頼りになるな。

 まあ、カナヅチなところとか料理が苦手なところとか、そんなギャップもたまらなく魅力的ではあるんだけど。


「ありがとうございます、先輩」

「いや、私も生徒会長なんだ。学園の生徒の身を案じるのは当然のことだよ」

「はは……それでも、ですよ」


 それでも、先輩は本当に優しい女性ひとですよ。


「さて、そろそろ中に戻ろうか」

「はい!」


 ニコリ、と微笑んで店の扉に手を掛ける先輩と一緒に、俺も中に入った。

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