第289話 次の階層へ

「望月くん、サンドラ、迎えに来たぞ!」


 ルフランで打ち上げをした次の日の放課後、先輩が満面の笑みを浮かべながら教室までやって来た。

 もちろん、これから先輩の家で期末テストの勉強をするために。


「ふふ……前回は平均点を少し上回る成績だったが、今回はさらに上位に押し上げてみせる!」


 い、いや、お願いですからもう少し緩く行きましょうよ……。


「アーア、ヨーヘイも大変ネ?」


 そう言うと、プラーミャが俺を見てニヤニヤと笑う。

 チクショウ、ちょっと頭がいいからって調子に乗りやがって。


「フフ……ホラホラ、ワタクシも一緒に教えて差し上げますかラ」

「お、おう……」


 あー、サンドラもプラーミャと同じで成績いいんだよなー……羨ましい。


「さあ! ではサッサと用事を済ませて・・・・・・・行こう!」

「エエ!」

「はい……」


 張り切る二人の後をすごすごとついて行き、まずは“ぱらいそ”領域エリアへと向かう。

 もちろん、今日のノルマをこなすために。


 で。


「ハアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 ――斬ッッッ!


 先輩がキング・オブ・フレイムを一刀両断にすると、幽子とマテリアルに変わる。

 だけど……うん、そろそろレベルが上がらなくなってきたな……。


「なあ、サンドラは今レベルいくつ?」

「ワタクシ? ええト……チョットお待ちになっテ……」


 サンドラはガイストリーダーを取り出して確認すると。


 ―――――――――――――――――

 名前 :ペルーン

 属性 :雷神(♂)

 LV :66

 力  :S+(SS)

 魔力 :E(E+)

 耐久 :SS(SS+)

 敏捷 :E+(D-)

 知力 :D-(D)

 運  :A(A+)

 スキル: 【裁きの鉄槌】【統率】【ガーディアン】

【雷属性魔法】【火属性反射】【水属性反射】

【氷属性反射】【闇属性反射】【雷属性無効】

【物理耐性】【状態異常弱点】

 ―――――――――――――――――


「ふむふむ、やっぱりそれくらいのレベルだよなあ……」

「ヨーヘイはどうなんですの?」

「俺? 俺もサンドラと同じくらいでレベル六十八だよ」


 といっても、ここ最近はレベルが伸びにくくなってるけどな。


「先輩は……この前のレベル七十五から、頭打ちですよね?」

「うむ……まあ、一年近くかかって三しかレベルが上がらなかったことを考えれば、それでも破格ではあるのだがな」


 そう言うと、先輩が苦笑した。

 だけど……このままのペースじゃ、ちょっと心もとない。


 確かに『ガイスト×レブナント』というゲーム・・・だったら、このままのペースでもラスボス程度なら普通に倒せるだろうけど、俺がやろうとしているのはゲームシナリオをぶち壊す・・・・こと。


 そのためには、せめて来年の夏休みに入るまでには、レベルをカンストさせておきたい。


「望月くん……」

「ヨーヘイ……」


 おっと、考え込んでたモンだから、先輩とサンドラが心配そうに見ている。

 だけど……そうだな、次に進んで・・・・・みるか・・・……。


「先輩、サンドラ」


 俺は顔を上げ、先輩とサンドラを見据えた。

 二人共、俺の様子から真剣な表情で俺を見つめている。


「この“ぱらいそ”領域エリアですけど……次の階層に進んでみましょう」

「「っ?」」


 そう告げると、二人は息を飲んだ。


「そ、それは私としても望むところだが……」

「そ、そうですワ……いつも慎重な、ヨーヘイらしくないですわヨ……?」


 二人が困惑の色を見せる気持ちはよく分かる。

 この領域エリアに二人を連れてきた時も、俺は万が一のことを考えてあくまでも安全第一で進めてきた。


 だけど……俺は、少々のリスクを冒してでも、ここでさらに強くなっておかないといけない気がするんだ。


「……二人が言いたいことも分かる。今までの俺のポリシーに反することも理解している。だけど……俺は、もっと早く強くなりたい」


 俺は拳をギュ、と強く握り、二人に訴える。


 すると。


「ふふ……分かった。なら、次の階層に行こうじゃないか」

「エエ、腕が鳴りますワ」


 二人はそう言って微笑んだ。


「先輩……サンドラ……」

「望月くん、なんて顔をしているんだ。そもそも、私達は君を誰よりも信頼してこうやってチームを組んでいるんだ。だから、君について行くのは当然だろう?」

「そうですワ。誰よりも信じてくれるヨーヘイだからこそ、ワタクシ達は誰よりもアナタと共にありたいんですノ」


 はは……なんだよ二人共、俺を泣かせる気かよ……!


『はう! マスターが泣いてるのです! 瞳が涙でいっぱいなのです!』

「っ!? コ、コラ[シン]! 俺は別に泣いてねーよ!」


 [シン]にからかわれ、俺は恥ずかしさのあまり[シン]を追いかけ回す。といっても、俺なんかが[シン]に追いつけるはずもなく……って!?


 すると[シン]が、クルリ、とひるがえって俺の胸に飛び込んできた。


「ちょ!? おま!?」

『はう……藤姉さまもアレク姉さまも、そして[シン]も、みんなマスターが大大、大好きだから、どこまでだってついて行くのです……ううん、ついて行きたいのです』


 俺の胸の中からオニキスの瞳を潤ませ、[シン]が覗き込む。

 そっか……[シン]、先輩、サンドラ……。


「うん……じゃあ、行こう!」

『はう!』

「うむ!」

「エエ!」


 みんな……ありがとう……。

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