第287話 謝罪と受け入れ

「望月くん! 戻ったぞ!」

「ヨーヘイ! やりましたワ!」


 先輩達が“カタコンベ”領域エリアに入ってから二時間後、四人は笑顔で扉から出てきた。


「はは! みんな、領域エリアの踏破、おめでとう!」

「フフ、といってヤー達の一日遅れだけド」


 こらこらプラーミャ、そういうこと言うなよ。


「フンだ! その代わり、ペイルライダーはボクの【朱雀】で一撃だったんだから!」

「相変わらずアオイは子どもネ。マア、ヤーは【ブラヴァー】で一撃だったけド」


 いや、立花にそんなこと言っておきながら張り合うなよ。お子様だなあ。


「ふふ……いずれにせよ、これで私達も“カタコンベ”領域エリアを踏破した。次からは元の・・チームに戻れる」

「えー! ボク、今度こそ望月くんと一緒のチームになりたいのに!」


 しみじみと語る先輩に、立花は早速抗議した。

 ま、まあ、立花の言い分も理解できる。


「ホホ、まだ次の攻略先の領域エリアも決まっておらんのじゃ。そう焦ることもないわえ?」

「う、ううう……!」


 扇で口元を隠しながら、土御門さんがクスクスと笑う。

 で、立花はというと、何も言え返せなくて悔しそうに唇を噛んでいた。


 はは……チ、チーム編成に関しては、もう俺は何も言わないようにしよう……。


「そんなことよリ、早く打ち上げに行きますわヨ!」


 サンドラが両手を上げて、ピョンピョンと飛び跳ねてはしゃぐ。

 だけど……オイオイ、なんだよその含み笑いは。ひょっとして、昨日の意趣返しか?


「ふふふ……望月くんも私達と一緒に打ち上げしたいだろうなあ?」


 いや、先輩、そんなニヤニヤしながらコッチ見ないでくださいよ。


「そうですわネー。ヨーヘイも打ち上げ行きたいですわよネー?」


 いや、サンドラ、そんなニヨニヨしながらコッチ見るな。


「まあ? 望月くんがどうしても一緒に行きたいって、泣いて頼むんならボクもやぶさかじゃないけど?」


 いや、立花、お前の笑顔だけ闇が深いぞ?


 さて……先輩達の行動パターンで考えられるのは二つ。

 俺が必死で頼む姿を眺めた後、結局は連れて行かないことで溜飲を下げるのか、それとも、なんだかんだ言って俺達も一緒に来てほしいのか……。


 俺はチラリ、と氷室先輩達を見やる。


「すいませんが、家事があるので私は行けません」


 おっと、確かにな……しかも、明確に理由がある氷室先輩なら、決して先輩達に屈したわけじゃないしな。上手い。


ヤーは別にどうでもいいワ。ダッテ、打ち上げなら昨日したシ」


 プラーミャもプラーミャで、まるで興味がないとばかりに手をヒラヒラさせてそっぽを向く。

 これは、プラーミャだからこそできる芸当だけど……うん、なのにさっきから、チラチラとサンドラばっかり見てやがる。本当は、誘ってほしいんだろうなー……。


「ホホ……誘ってほしいのはやまやまじゃが、わらわ達はお主達を誘わなんだからのう。まあ、仕方あるまいて」


 扇で口元を隠しながら、納得の表情を浮かべる土御門さん。ハッキリ言って、俺達の中で一番大人だ。


 で、こんな三者三様の反応に、先輩達は非常に悔しそうにしている。

 いや、一体どうしたいんだよ……。


「ま、まあ? 私も心が狭くないからな?」

「ソ、ソウですわヨ?」


 そう言うと、先輩とサンドラが俺をメッチャ見てる!?

 こ、これは、俺が謝罪と恭順する姿勢を示すことで、この場を収める……つまり、損な役割を受け入れろ、そういうことですね? 分かります。


「あ、あははー……お、俺は四人がいいんなら、打ち上げにぜひ参加させてほしいなー……」


 乾いた笑みを浮かべながらそう告げると。


「! そ、そうだな! まあ、もう少し誠意を見せてくれれば、考えなくもないぞ!」

「そうですワ! やっぱりここは、ちゃんと謝っていただきませんト!」

「そ、そうだよ! ボク達だって鬼じゃないしね!」


 ……この三人、調子に乗りやがって。


 ハア……仕方ないなあ……。


「……昨日は俺達だけで打ち上げをしてすいませんでした。この通り謝りますので、俺達も打ち上げに参加させてください」

「! う、うむ! もちろんだとも!」

「フフ! 一緒に行きましょウ!」

「えへへー! やったー!」


 俺の謝罪の言葉を聞いた三人は、それこそ嬉しそうに俺にまとわりついてきた。

 メ、メンドクサイ……。


「フン、ヨーヘイも大変ネ」


 そう思うなら、お前が謝ればよかったんだろうが。そのくせ、嬉しそうにしながらちゃっかりとサンドラにくっつきやがって。


「ホ、これはすまぬのう」


 うん、土御門さんはやっぱり大人だなあ。人間ができてる。


「ぐぬぬ……」


 さっきまでとは打って変わり、氷室先輩は無表情のまま悔しそうに声を漏らした。

 ああ……もう帰らないといけないもんなあ……。


 俺は氷室先輩の傍に近づく。


「ひ、氷室先輩、帰りにでもルフランのスイーツ、お届けしますね……」

「! ええ!」


 そう耳打ちすると、氷室先輩は、ぱあ、と嬉しそうに微笑んだ。


 そして。


「……望月さん。先程の件・・・・、会長にお伝えください」

「……もちろんです」


 氷室先輩の言葉に、俺は静かに頷いた。

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