第77話 プールへ行こう①

「くあ……! 今日も暑そうだなあ……」


 カーテンを開け、既に高くなっている太陽を眺めながら、俺は欠伸あくびと共に呟いた。

 とはいえ、今日はせっかく桐崎先輩やサンドラとプールに行く約束をしてるんだ。雨が降っても困るんだけど。


「おっと、こうしちゃいられない」


 俺は慌てて支度をして、リビングへ向かう。


「あら、おはよう。今日は早起きなのね」


 リビングに入るなり、母さんがキッチンから朝の挨拶をした。


「おはよう。というか、今日は先輩達と遊びに行く約束してるから」

「ふーん……デート?」


 ニヤリ、と笑みを浮かべた母さんは、探るような視線を送ってきた。


「違うよ。というか、先輩って言ってんじゃん」

「あら、残念」


 そう言ってカラカラと笑う母さんを見ながら溜息を吐くと、俺は用意された朝ご飯を食べ始めた。


『お母様! [シン]はアイスをご所望なのです!』

「あらあら、朝からアイスなんて食べて、お腹……精霊ガイストって、お腹壊すのかしら?」

「知らね。というか[シン]、さすがに朝からアイスは止めろ……って」

『ハヒ? はふはー、はんへふ?』


 コノヤロウ。[シン]の奴、既にアイスを口にくわえてやがる。

 というか母さんも、[シン]を甘やかすなよ……。


「ハア……ごちそうさま」


 そんな[シン]を見て溜息を吐くと、俺はサッサと朝食を食べ終えて洗面台へと向かい、歯磨きと洗顔をした。


「よっし!」


 全ての準備を終えた俺は、気合いを入れるため、パシン、と両頬を叩いた。


「行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


 玄関を出て、俺はまっすぐ待ち合わせ場所である駅に向かう。

 先輩のことだから絶対に一時間前に来ているはずだから、今回は一時間半前に到着するようにしてあるのだ。


 で、駅前に到着してみると。


「ア……ヨーヘイ、おはようございますワ!」

「お、おう、おはよう……」


 というか、既にサンドラの奴が来ていた。

 くそう、今日こそは俺が一番乗りだと思っていたのに!


 そしてサンドラのコーデときたらどうだ。

 少し胸元の開いたゆるふわな若草色のブラウスに、白デニムのホットパンツ、黒のサンダルと少し大きめで造花のアクセサリーがついた麦わら帽子をかぶっていた。


 その妖精のような綺麗な容姿と相まって、さっきから通行人がコッチを見てやがる。


「今日も暑いですわネー」

「そ、そうだな……」


 サンドラがブラウスの胸元をつまんでパタパタとするが、いくら絶壁とはいえチラチラと見える鎖骨が、その……うん、チョットは意識しろ。


「ダケド……待ち合わせの時間まで一時間以上もありますシ、ソ、ソノ……どこかで涼みまス?」


 サンドラが頬を少し赤くしながら、上目遣いでおずおずと提案するが、だったら最初から時間通りに来いよと言いたい。


「そうだな……って、言いたいところだけど、多分、もう少ししたら先輩来るぞ?」

「エエッ!? で、ですがまだこんな時間ですのヨ!?」


 いや、だからそんな時間に来ているのは俺達も一緒だろ。


「む……すまない、遅くなった」

「あ! 先輩! おはようございます!」

「おはようございますですワ」


 案の定、先輩はすぐにやって来て、俺達の元に駆け寄ってきた。

 そして今日の先輩は、白のTシャツに白デニムのオーバーオールという、なんとも可愛いコーデをしていた。いや、このギャップは大変良いです。


「うむ……では、少し早いがプールに向かおう」

「「はい!」」


 俺達はモノレールに乗り、プールのある海沿いのテーマパークへとやって来た。


「おお……!」


 モノレールを降りるなり、先輩はそびえ立つ巨大なジェットコースターを眺めて感嘆の声を漏らす。


「先輩はジェットコースターが好きなんですか?」

「あ、いや、その……恥ずかしながら、実はこういったところに来たことがなくてな……つい、魅入ってしまった……」

「へえー……」


 そうか、先輩はテーマパークや遊園地に来たことがないのか。だったら、もう少し涼しくなったら今度はここへデートに誘ってみよう。そうしよう。


「フフ……またいつか、ヨーヘイとここニ……(ボソッ)」

「ん? サンドラ、何か言ったか?」

「フエ!? イ、イイエ!? 何も言ってませんワ!?」

「あ、そ、そう……」


 俺が声を掛けると、サンドラは顔を真っ赤にしてわたわたとしながら否定した。変な奴。


「さて……んじゃ、行きますかー」

「うむ、そうだな」

ウンダー!」


 てことで、俺達はチケットを買って入場ゲートをくぐった。


「それじゃ、中で」

「うむ!」

「ヨーヘイ、後でネ!」


 俺は二人と別れ、更衣室に向かうと、早速水着に着替えた。

 消毒槽を抜け、シャワーを浴びてプールへとやって来ると。


「うあー……メッチャ混んでる……」


 プールの中は密集していて、隙間もないんじゃないかって思うほどの状態だった。

 特に流れるプールのエリアなんか、そんな状態のまま流されていくから、非常にシュールだ。


「ま、まあ、みんな考えることは一緒か……」


 俺はそう呟いて苦笑すると。


「ヨーヘイ! お待たせですワ!」


 お、サンドラ達も着替えが終わったのか……って!?

 振り返った瞬間、俺は思わず声を失い、ゴクリ、と唾を飲み込んだ。


 先輩は露出が少な目のワンピースタイプの水着ではあるが、そ、その……先輩のスタイルが圧倒的過ぎて、シャレにならない。

 かたやサンドラも、胸がないくせにあえてビキニタイプをチョイスしてやがる。とはいえ、そのスレンダーな体型と透き通るような白い肌も相まって、まあ……良き。


「? どうかしましたノ?」

「うあ!? い、いや、何でもない……」

「?」


 こ、これは、二人を他の男連中の毒牙から絶対に守らないと……!


 そう固く誓い、俺は拳を握りしめた。

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