第76話 私の幸福
■桐崎サクヤ視点
「ふふ……彼からの初めてのプレゼントが、この指輪だなんて、な……」
私は左手薬指にはまっている、“シルウィアヌスの指輪”をそっと撫でる。
ただ……望月くんはどうして、これを私にプレゼントしようと思ったのだろうか。
彼
「ひょっとして……彼は私達のやろうとしていることを知って……いや、まさかな……」
私は一瞬、あの
アレは、私とお父様、カナエさん、そして一部の研究員しか知らない。それをただの学園の生徒でしかない彼が、知り得るはずがないのだ。
「でも……彼は、この私とずっと一緒にいたいからだと言った」
それはつまり、これからこの私に何が起こり得るのか、彼は知っているということだ。
思い返してみれば、彼の行動は異常だった。
あの初心者用の
私ですらこの身体が
さらには、彼の中学の時に偶然見つけたという、“アルカトラズ”
これら全て、彼は
「ふう……止めだ止めだ、こんなことを考えて何になるというのだ」
私は深い溜息を吐いた後、思い切りかぶりを振った。
彼の行動は確かに異常だ、それは認めよう。だが……彼が一度たりとも、この私に対して不利益なことをしたか? いや、そんなことは決してなかった。
それどころか、あの“アルカトラズ”
それに……彼はいつも、この私の心に寄り添って、気遣って、支えてくれて……。
あのデートだって、偽とはいえサンドラとの恋人役を演じることになったことに嫉妬して、勝手に落ち込んでいた私のためにしてくれたのだ。
「ふふ……本当に彼は……」
そんな彼を想うだけで、この私の胸がこれ以上ないほどに熱く、そして激しく高鳴る。
ああ……単なる興味本位で声を掛けたあの彼が、私の中でこれほどまでに大きな存在になるなんて、誰が予想できただろうか。
指輪の呪い? 解けない限り、永遠にこの薬指から外れない?
最高じゃないか。
この指輪が私の薬指にある限り、私と彼は永遠につながっていられるのだから……。
「さて……では、そろそろ時間だな」
私はそんな彼との永遠の絆ともいえる指輪にもう一度触れると、自室を出てお父様の待つ研究所へと向かった。
◇
益田市の郊外にある、お父様の研究所。
今、私と[関聖帝君]は色々な管やコードをその身体につけられながら、ベッドに横たわっていた。
そんな中。
「うーむ……これはすごい! まさか、ここまで数値が上昇しているとは!」
「はい! これなら予定していたスケジュールを大幅に前倒しできそうです!」
私の
まあこの数値は、“アルカトラズ”
「サクヤ……お前はどうやってこれほどの“ウルズの
お父様は、必死の形相で私に詰め寄る。
それもそうだろう。この“ウルズの
今までは、“ウルズの
それでも、得られる“ウルズの
「……実はこの前、学園内にある
「っ!?」
私の言葉に、お父様は息を飲んだ。
「それで、私は[関聖帝君]でその
「おお……! で、では、その
やはり、あの
「ふ、ふふ……ようやくサクヤの中にある
そう……あの
“柱”達は、私の中の
そして私は、そんな“柱”を打倒し、
……お父様の悲願が成就する、その日まで。
でも。
「……彼がこのことを知ったら、どう思う、かな……」
私達はある意味、人の道を外れるような、神を
彼は私のことを幻滅するかもしれない、私から遠ざかってしまうかもしれない。
そんなことを考えていた、その時。
「桐崎様……これを……!」
「うん? どうした……って、これはどういうことだ!?」
研究員の一人から書類を手渡され、お父様が愕然とする。
「何故……何故、いつもと同じように“ウルズの
半分以下……なるほど、そういうことか。
私は左手薬指を眺め、確信した。
やはり……彼はこの計画に気づいていたのだ。
「……ふふ。だったら、答えは出ているじゃないか……」
そうだ……彼ならきっと、『この計画をぶち壊す』と言うだろう。
彼はいつだって、私のことを大切に想ってくれているのだから。
ああ……今の私は幸福に満ちている。
そんな彼に想われているという心地良さを感じながら、お父様と研究員が騒ぎ続ける研究所のベッドの上で私は一寝入りした。
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