第118話 ボクの憧れの主人公②

■立花アオイ視点


 あの後、ボクは家に帰って精霊ガイストのことについて徹底的に調べた。


 ネットで情報を漁り、[ジークフリート]を召喚してその能力やスキルを調べたり……。

 あいにく、ボクには時間が有り余ってるから。


 そして。


「あは……あはは……! そうか……ボクって実は、すごかったんだ……! ボクは……ボクは、主人公にだってなれるんだ!」


 嬉しかった。


 だって、ボクは弱くて、女の子みたいで、ずっと引きこもって生きてくんだと思ってたのに、本当はこんなすごい力を持ってるだなんて……こんな、マンガやラノベみたいな主人公そのものなんだから!


「あはは……! ボクを馬鹿にしたアイツ等は、今のボクを見たらどんな顔をするのかな……?」


 気がつくと、ボクの口の端が吊り上がっていた。

 でも、それもしょうがないよね。


 本当に、物語の主人公みたいに……ボクは生まれ変わったんだから。


 次の日、ボクは久しぶりに学校に行った。

 だけど、入学してからまだほんの数回しか来たことがないから、全然落ち着かないや。


 そして、教室に入ると、クラスの連中は一斉にボクを見た。

 初めはボクが誰だか分からなかったのか、連中はいぶかしげな表情を浮かべたけど、すぐにボクだと分かると、ニヤニヤと下品な笑みに変わった。


「何だよアオイちゃん! 久しぶりじゃん!」


 早速、クラスの男子の一人がボクに絡んできた。

 あはは、馬鹿だなあ。


「なになに? 今まで家で女を磨いていた……の……!?」


 召喚してボクの後ろに立たせた[ジークフリート]を見て、その男子は目を見開いて仰け反った。


「ええと……キミ、何て言ったの?」

「はえ!? あ、え、ええと……」


 ボクがニタア、とわらうと、その男子が後ずさる。

 あはは、まあ許さないけど。


「[ジークフリート]」

『(コクリ)』


 ボクの言葉を受け、[ジークフリート]はその男子の胸倉をつかんだ。


「ヒ、ヒイイ!?」

「ねえ、ハッキリ答えてよ。今、ボクに何て言ったの?」

「わわ、悪かった! た、ただの冗談……っ!?」


 その男子が言い切る前に、[ジークフリート]はその男子を教室の端まで放り投げて叩きつけた。

 当然、その男子は背中を強く打ち付けて、床でうめき声を上げながらもだえていた。


「な、なあアオ……い、いや、立花くん……ひょっと、して……精霊ガイスト使い、なのか……?」

「そうだけど? それが何か関係あるのかな?」

「あ、い、いえ……」


 おずおずと尋ねる別の男子に、ボクはわざとらしくコテン、と首を傾げてみせると、露骨に目を逸らしてボクから遠ざかった。

 あはは、さっきの男子みたいに痛い目に遭いたくないもんね。


「ねえ」

「「「「「っ!?」」」」」


 ボクがクラスの連中に向かって声を掛けると、教室に入ってきた時とは打って変わって、全員がビクッてなった。


「ボクの精霊ガイスト、[ジークフリート]っていうんだけど、すごいでしょ?」


 そう尋ねると。


「お、おお! ホ、ホントにすげえな!」

「たた、立花くん、スゴーイ!」

「う、羨ましいなあ!」


 などと、まるでご機嫌取りのようにボクに賛辞を送ってくる。

 今までは、散々馬鹿にしてきたくせに。


「ところでさあ……ボク、イジメられて引きこもっちゃったんだー……それって、誰が悪いのかな?」

「「「「「っ!?」」」」」


 あはは、急にみんな、お互いの顔を見合わせ始めたよ。


「コ、コイツが立花くんのこと馬鹿にしてたの知ってる!」

「ハア!? オマエこそ、立花はだって!」

「わわ、私は立花くんに、そんなヒドイこと言ったりしてないからね!」


 クラスの全員が、なすりつけ合ったり弁明したり、挙句の果てにはケンカする奴まで出てきた。あはは、本当に馬鹿だよね。


 …………………………ハア。


「……心配しなくてもいいよ。どうせ、こんな最低な学校に来ることなんて、永遠にないから。だから、キミ達みたいなクズと会うのも、これで最後だよ」

「「「「「…………………………」」」」」


 ボクはそれだけ言い残すと、反吐が出るほど居心地の悪い教室を出た。


 それからすぐ、ボクの家に精霊ガイスト特殊対策機関……通称“GSMOグスモ”と名乗る人達がやって来た。

 ひょっとして、学校での一件が耳に入って、ボクを逮捕しに来たのかと思ったけど、どうやらそうじゃなく、ボクに“国立アレイスター学園”への転校を勧めてきた。


 その学園の名前なら、ずっと引きこもっていたこのボクでも知っている。この“東方国”で知れ渡っている、精霊ガイスト使いのための超有名なエリート校だ。


「あ、で、でも、一応その……両親に確認を取ってからでないと……」


 ボクは逮捕されないと分かったことに安堵しつつ、そんなエリート校へのスカウトに胸を弾ませていたけど、それでも、お父さんとお母さんが許可しないと、さすがに転校なんて無理だ。

 ……といっても、お父さんもお母さんも、もう何日も顔を合わせたことすらないのに、どうやって許可をもらうのか知りたいけど。


 すると。


「その件については、既にご両親から許可をいただいています。あとは、君次第です」

「そ、そうですか……」


 あは……お父さんもお母さんも、ボクには全然会ってくれないのに、こんな知らない人達とは会うんだ……。


 なら。


「わ、分かりました……ボク、アレイスター学園に行きます」

「ありがとうございます。では、転校の手続きや住まいは、全て“GSMO”でご用意します。なお、転校していただく時期ですが、夏休み明け、二学期からとなります」

「は、はい」


 二学期から、かあ……。

 本当はこんなろくな思い出もないところ、今すぐにでも出て行きたいけど……仕方ない、かあ……。

 そう考えてかぶりを振ると。


「ボクは……今度こそ変わるんだ。こんな女の子のような姿をした引きこもりなんかじゃなく、ゲームみたいな主人公になって、そして……一緒に戦ってくれるような、本当の友達・・・・・を見つけるんだ……!」


 そう呟いて、ボクは拳を握りしめた。

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