第119話 ボクの憧れの主人公③

■立花アオイ視点


「グアッ!?」


 夏休み。

 ゲーセンに向かう途中。中学の時にボクをイジメてた奴にバッタリ遭って、しかもボクに絡んできたから、クラスの連中みたいに[ジークフリート]で吹き飛ばしてやった。

 あはは、本当にバカだなあ。


「おおお、俺達が悪かった! だ、だからもう……っ!?」

「あはは! ボクを今まで馬鹿にしてきたくせに、ただで済むと思ってるの? しかも、わざわざこうやって絡んできてさあ?」

「ヒ、ヒイイ!?」


 すると、連中の一人は倒れている奴を見捨てて逃げて行った。

 うわあ、本当にクズだね。


「ねえ」

「うう…………………………ヒッ!?」


 倒れながらうめき声を上げている奴の髪をつかんでグイ、と持ち上げると、ソイツは恐怖で顔を引きつらせた。


「これ以上痛い目に遭いたくなかったら、あの時ボクをイジメてた連中、全員ここに呼び出してよ」

「わわわ、分かった! すぐ呼ぶから! だ、だから、もうこれ以上は……っ!?」


 [ジークフリート]は無造作にソイツを放り捨てると、ソイツはボクとの約束を無視してさっきの奴みたいに走って逃げて行った。


「ハア……もうゲームする気分じゃないなあ……」


 ボクは大きな溜息を吐くと、自分の家に帰った。


 すると。


「「おかえり!」」


 どういうわけか、家にお父さんとお母さんがいた。


「ふ、二人共、どうして……」

「何を言っている! 夏休みが明けたら、お前はあの・・アレイスター学園に通うんだ! だから、母さんと一緒にお祝いをしようと思ってな!」

「ええ! 本当に鼻が高いわ! あなたのおかげで、取引先の評判も良くなったし!」


 あはは……どうやら二人は、一応このボクを祝ってくれるらしい。

 でも、今までほとんど顔も合わせなかったくせに、アレイスター学園に転校するってだけで、こうやって会いに来るんだ。


「……いらない」

「「え……?」」

「お祝いなんていらない! なんだよ! いつも仕事、仕事って言って、ボクとまともに顔も合わせたことないくせに、こんな時だけ! どうせ、ボクなんてアレイスター学園っていう肩書がなかったら、価値がないって思ってるんだ!」


 ボクはそう叫ぶと、リビングを飛び出して自分の部屋に引きこもった。


「アオイ! 開けなさい!」

「アオイ!」


 二人がドアの前で叫んでるけど、知るもんか。

 それどころか……。


「[ジークフリート]……あのウルサイ奴を追っ払ってよ」

『(……コクリ)』


 ボクの指示を受けた[ジークフリート]は、部屋を出ると。


「な、なんだ……? ガ、精霊ガイスト……!? ガッ!?」

「チョ……チョット落ち着いてアオイ!? ね、ねえ、この精霊ガイストを……キャッ!?」


 ドアの向こうから軽い悲鳴と、ドタバタと走り去る音が聞こえた後、それからすぐに静かになった。


「あはは……」


 もう……ボクはこの部屋から出たくない。


 ◇


 アレイスター学園に通う一週間前になり、ボクは“GSMOグスモ”が用意してくれたマンションに引っ越すことになった。


 引っ越し業者がボクの荷物を運び出し、トラックは新居に向けて走って行った。

 それを、ボクはヒナエさんと見送った。


「……じゃあ、ボクも行くよ」

「アオイさん、いってらっしゃい」


 ヒナエさんが、ボクを笑顔で送り出してくれた。

 あはは……お父さんもお母さんも、あれ以来二度とボクの前に姿を現われなくなったのにね。


 さあ、これから新しい土地で、ボクの主人公としての生活がスタートするんだ!

 えへへ……今度こそ、友達ができるかなあ……。


 そんな風に期待に胸を膨らませながら、ボクはとうとう転校初日を迎えた。


 真新しい制服に袖を通して、ボクは少し余裕を持って学園へと向かうと。


 ――ドン。


「おわっ!?」

「ふあ!?」


 角から出てきた誰かとぶつかり、ボクは思わず倒れてしまった。


「す、すいません! 大丈夫でしたか!?」


 その人は、ボクと同じ制服を着ていて、心配そうな表情で僕を見つめ、ス、と手を差し出した。


「ホラ、つかまって」

「あ、ありがと……」


 そんな彼の手につかまり、ボクは立ち上がると。


「とりあえずぶつかったこと、謝らせて欲しい。俺は一―三の“望月ヨーヘイ”って言うんだ。本当にゴメン」


 彼……望月くんは、深々と頭を下げた。

 あは……ボクと同級生なんだ。しかも礼儀正しいし、その、アイツ等と違って優しいし……うん、これからすごく仲良くなれそうな気がする。


 だから。


「えへへ、よろしくね!」


 ボクは笑顔で右手を差し出す。

 すると彼も、笑顔で僕の手を握り返してくれた。


 これがボクと……本当の友達・・・・・になる、望月ヨーヘイくんとの出逢いだった。

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