第20話 低階層を目指して

「チクショウ……チクショウ……!」


 俺は瓦礫に拳を何度も叩きつけながら、木崎セシルへの恨みを呟く。


『……(フルフル)』

「……[ゴブ美]」


 [ゴブ美]は俺の腕をつかんで止めると、くしゃくしゃの顔でかぶりを振った。


「はは……俺みたいな馬鹿がマスターだなんて、お前も最悪、だよな……」

『! (フルフル!)』


 俺が自虐めいてそう言うと、[ゴブ美]は首を大きく振って全力で否定してくれた。


 そして。


『……!』


 [ゴブ美]は瓦礫を一つずつ取り除いていく。

 力は最弱、身体だって小さいくせに。


「[ゴブ美]……はは、そうだよな……俺が死んだら、お前も死んじゃうんだもんな」


 精霊ガイスト精霊ガイスト使いは、いわば一蓮托生の関係だ。

 精霊ガイストが傷つけば、精霊ガイスト使いが傷つくし、その逆もしかりだ。


 だから。


「そうだ、な……俺はここで落ち込んだり、恨みがましいこと言ってる暇はないよな……!」

『! (コクコク!)』

「よっし!」


 俺は気合いを入れるため、パシン、と両頬を叩いた。


「[ゴブ美]、この瓦礫をとっとと退けて、この“グラハム塔”領域エリアから脱出するぞ! そんで、強くなって……あのクソ女を後悔させてやるんだ!」

『(コクコク!)』


 そこから俺達は、一心不乱に瓦礫の撤去をした。

 今の時間は朝の十一時。桐崎先輩が合流するって言ったのは午後二時だ。

 つまり……ここでジッとしたまま先輩の助けを待っていたら、それこそあのクソ女の思い通り、俺達はここでくたばっちまう。


「何としてでもここを抜けないと……!」


 俺は必死で瓦礫を取り除く。

 そのせいで俺の両手はもうボロボロだけど、構っている余裕はない。


 ――ガラ。


「っ! 光だ!」


 瓦礫を取り除き続けた結果、ほんの小さな隙間ができ、そこから光が漏れた。


「よし! この穴をもっと広げるぞ!」

『(コクコク!)』


 俺達はその穴を中心としてさらに瓦礫を取り除いていく。


 そして。


「行けた! やったぞ!」

『!』


 かろうじて俺の身体が通り抜けられるだけの穴の大きさになり、俺と[ゴブ美]はハイタッチした。


「あはは……[ゴブ美]、両手がボロボロじゃないか」

『……! ……!』

「はは、俺も同じだってか? そうだな」


 俺達はふざけて笑い合いながら、瓦礫の穴を通り抜けた。


 少しでも、悲しい思いを引きずらないように。


 ◇


「[ゴブ美]! コッチだ!」

『! (コクリ!)』


 “グラハム塔”領域エリアの第十六階層。


 この階層の幽鬼レブナント、“コモドドラゴン”二体と交戦している[ゴブ美]に声をかけて指示を出す。

 [ゴブ美]も俺の声を聞くなり強く頷いてその身体をひるがえすと、その俊敏さを活かして俺のそばへと戻って来た。


 すると、当然コモドドラゴン達も追いかけてくる。


 だが。


「ハハ、バーカ」

『『ッ!?』』


 俺は床に仕掛けられている罠を発動させると、コモドドラゴン達は突然現れた穴の中に落ちた。


「[ゴブ美]! 今だ!」

『(コクリ!)』


 [ゴブ美]は穴へと近づくと、這い上がろうともがくコモドドラゴンに向かって棍棒を何度も叩きつける。

 何十回とそれを繰り返すと、コモドドラゴンは幽子ゆうしとマテリアルに変化した。


「ふう……やったな!」

『!』


 俺と[ゴブ美]はハイタッチをする。

 ここまで俺達は『まとめサイト』に載っていた各階層ごとの罠を上手く活用すると共に、[ゴブ美]のその素早さを活かした戦法で時には幽鬼レブナントと戦い、時にはやり過ごしてここまで戻って来た。


「さあ……次は第十五階層だけど……」


 そう……第十三階層から第十五階層は、俺達にとって鬼門だったりする。

 何故なら……それらの階層にいるのは、大量の“ゴブリン”なのだから。


 もちろん[ゴブ美]に同族意識があるわけじゃなく、向かって来たら容赦なく戦うつもりではあるが……いかんせん、数が圧倒的に多いのだ。


 行きはあのクソ女の魔法で蹴散らしたが、帰りはそうはいかない。

 特に手に持つ棍棒しか攻撃手段を持たない[ゴブ美]にとっては、集団との戦闘が最も苦手なのだ。


「……でも」


 俺は『まとめサイト』の情報を思い出し、脱出プランを練る。

 あとは……気合いで何とかするしかない。


「よし! [ゴブ美]、行くぞ!」

『(コクリ!)』


 俺達は意を決して、第十五階層へと繋がる階段を下りた。


 だけど……誰が、こんな結果を予想していただろうか。


「…………………………」

『…………………………』

『『『『『ギャギャギャ♪』』』』』


 ……うん、まさかゴブリンが、全員[ゴブ美]に付き従うことになるとは思わなかった。

 いや、行きはあのクソ女が問答無用で魔法をぶっ放したからアレだけど、何というか、その……。


「……ここで、[ゴブ美]の能力が発揮されるだなんて」

『……(コクリ)』


 そう……[ゴブ美]が持つ数少ないスキルの一つ、【集団行動】。

 これが同族であるゴブリンをテイムする能力だったなんて、誰が分かるんだよ!

 むしろ[ゴブ美]本人もどうしていいか分からず、肩を落としちゃってるじゃないか!


「あ、あははー……まあそのおかげで、第十三階層まで何の問題もなく降りられるんだけど、な」

『…………………………』


 俺とゴブ美は微妙な顔をしたまま、ゴブリンのいる階層を下りて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る