第339話 三分間の攻防

「ヨーヘイくん! あと……あと三分・・だけ待っていてくれ! それで、こちらの準備が整うから!」


 俺達の戦力を賀茂に集中させるため、たった一人でフレスヴェルグと対峙してくれているサクヤさんが、そう叫んだ。

 というか、サクヤさんが『あと三分』と言ったってことは……まさか!?


「サクヤさん! アレ・・を使う気ですか!?」


 俺は思わずサクヤさんに向かって叫ぶと、サクヤさんは無言で頷いた。


『ッ!? [伊邪那美命いざなみのみこと]! サッサトコイツ等ヲ早ク片ヅケテ……イヤ、先ニアノ“藤堂サクヤ”ヲ始末シロッッッ!』

「っ!?」


 そうだった!? 賀茂の奴も『攻略サイト』で知ってるんだった!


「[シン]! みんな! あの幽鬼レブナントを絶対にサクヤさんに近づけさせるな!」

『はう! 分かったのです! それー!』


 俺の指示にいち早く動いた[シン]は、サクヤさんと[伊邪那美命いざなみのみこと]の間にある床に、次々と呪符を貼り付けていく。


 いや、それだけじゃない。

 さらに何重にも【堅】を展開し、[伊邪那美命いざなみのみこと]を行かせまいとした。


「ッ! 何か考えがあってのことですわよネ! だったラ! 【ガーディアン】!」


 同じくサンドラも、[伊邪那美命いざなみのみこと]の前に無数の盾を展開する。


「ボクも! 【窮奇きゅうき】! 【饕餮とうてつ】! 【渾敦こんとん】! 【檮杌とうごつ】!」

「ホホ! 【式神使】よ! 彼奴あやつを止めるのじゃ!」


 さらには、アオイの【四凶】と土御門さんの【式神使】が[伊邪那美命いざなみのみこと]を行かせまいと大量に群がっていく。


 だけど。


『「「「「っ!?」」」」』


 [伊邪那美命いざなみのみこと]は、呪符も、無数の盾も、【四凶】も、【式神使】も、全てそのひび割れた両腕で消滅・・させながらゆっくりと歩を進める。

 まるで、無人の野を歩くかのように。


「ッ! 燃え尽きてしまエッッッ! 【ブラヴァー】!」

「ファイア」


 苦し紛れに放ったプラーミャのハルバードと、カズラさんの遠距離射撃が襲い掛かるが、それも[伊邪那美命いざなみのみこと]が軽く腕を払うだけで、全て消滅・・してしまった。


 クソ……ッ! 俺達は、足止めすることすらできないのかよ……っ!


 すると。


「クク……これならば、倒すよりも・・・・・簡単ではないか・・・・・・・。【カイロス】」


 中条が【カイロス】を発動させると、[伊邪那美命いざなみのみこと]の頭上に浮遊する金属の円盤が高速回転し、一瞬のうちに[伊邪那美命いざなみのみこと]が最初の位置に・・・・・・戻っていた・・・・・


「はは! 中条!」

「クク……あとは、三分間これを繰り返す……っ!?」


 いつの間にか、[デウス・エクス・マキナ]の脇腹に、ぽっかりと穴が開いていた。


「中条おおおおおおおおおおッッッ!」

「っ!? 【リリノエ】! 【カホウポネカ】!」


 カズラさんの[ポリアフ]が三体に分かれ、一体は中条の元へ、もう一体は[伊邪那美命いざなみのみこと]に迫る。


 [デウス・エクス・マキナ]の傍に寄った[ポリアフ]が穴の開いた脇腹の上で舞うと、キラキラとした氷の結晶がその穴を覆っていく。


「クウ……す、すまぬ……」


 中条はうめき声を上げながら、上半身を起こした。

 どうやら[ポリアフ]の回復スキルのおかげで、中条の傷が塞がったみたいだ……。


「よ、良かった……」


 だけど、[伊邪那美命いざなみのみこと]に向かったもう一体は、氷の鎖で拘束しようとしたところを消滅させられてしまった。


「……こうなっては、打つ手がありませんね……」


 カズラさんが、ポツリ、と呟く。

 俺はスマホを取り出し時間を確認すると……クソッ! あと一分もあるのかよ!


 どうする!? このままだと時間を稼ぐどころか、サクヤさんが……!


「ハハハハハ! ドウシタ! モウ終ワリカ? ダッタラ、本音ヲ言エバモノ・・ニシタイトコロダッタガ、藤堂サクヤハココデ始末シテヤル! [伊邪那美命いざなみのみこと]」


 今までゆっくり歩くだけだった[伊邪那美命いざなみのみこと]が、ここにきて一気に駆けるだと!?


「っ! [シン]!」

『はう! 行かせないのです! 藤姉さまを……マスターの大切な女性ひとを、傷つけさせるわけにはいかないのですッッッ!』


 [シン]はそのスピードで一気に追い抜くと、[伊邪那美命いざなみのみこと]の前に無数に呪符を展開する。

 たとえ[伊邪那美命いざなみのみこと]に、何度も呪符を消滅させられても。


「チクショウ……あと三十秒……!」


 スマホを強く握りしめながら、ギリ、と歯噛みする。


 もう駄目かと思った、その時。


「……【フォース】」


 俺の後ろにいた加隈が、ポツリ、と呟いた。

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