第340話 千里行

「……【フォース】」


 俺の後ろにいた加隈が、ポツリ、と呟いた。


『ハハハハハ! コイツ等ニハモウ、オ前ヲ止メル手段ハモウナイ! ダカラ……藤堂サクヤヲ消セ! [伊邪那美命いざなみのみこと]!』

『ケタケタケタケタ!』


 賀茂の言葉を受け、嬉しそうにわらう[伊邪那美命いざなみのみこと]。


 そして。


 ――ブオン。


 [伊邪那美命いざなみのみこと]の両腕の風切り音と一緒に、フレスヴェルグと戦っていたサクヤさんの姿が…………………………き消えてしまった。


「あ……ああ……」


 俺は力なく声を出し、立ちすくむ。

 他のみんなも、あまりの出来事に訳が分からず、呆然ぼうぜんとしていた。


『ハハッ! ヤットダ! ヤットクソザコモブ・・・・・・ノ絶望スル顔ガ見レタ! コウナッタラ、後ハタダ全員ヲ消スダケダダガ……ソウダナ。女連中ニ関シテハ、ひざまずイテオレノ足ヲ舐メ、今後ハオレノタメダケニ尽クスッテイウンナラ、助ケテヤル』


 そう言うと、賀茂は下卑げひた笑みを浮かべ、サンドラ、プラーミャ、カズラさん、土御門さんをねっとりと舐め回すように見つめた。


『アアソレト、男ハイラネーカラ、ココデ抹消・・ナ』


 賀茂がそんな最低な言葉を放っているにもかかわらず、みんなは一切反応を示さない。

 おそらく、サクヤさんが目の前で消えてしまったショックから、立ち直れていないんだろう。


 その時。


「――【千里行】」


 そんな静かな声が、賀茂の下品な笑い声に紛れて聞こえた。


 はは……賀茂の奴、やってくれたな・・・・・・・


『ッ!? ナ、ナンダ!?』


 突然、フレスヴェルグの目の前で幽子の渦が巻き起こり、賀茂が驚きの声を上げる。


「ははっ! 加隈、教えてやれよ!」


 俺は笑いながら後ろへ振り向き、加隈を見て促す。


「ヘッ! オマエの幽鬼レブナントが消した師匠さあ、アレ、俺がそっくり同じモンを俺の[ロキ]が作ったんだよ・・・・・・!」

『ッ!? マサカ、【フォース】カ!?』


 はは、さすがに『攻略サイト』を見てるだけあって、加隈のスキルについても知っていたか。


 そう……加隈の[ロキ]が持つスキル、【フォース】は、[ロキ]の視界に入ったものの一部を一枚絵のように切り取り、指定した相手の視界に投影して騙す・・、といったもの。


 実際、このスキルは状態異常・・・・扱いとはならないことから、【状態異常無効】のスキルを持っていようが、そもそも状態異常攻撃が通用しないイベントボスだろうが、関係なく通用する。


 ただ、スキル使用条件が厳しいことと一度使うとしばらくは使えないから、なかなか使いどころが難しいんだけどな。


 それを……加隈はこの土壇場で決めてくれたんだ。


 そして、幽子の渦が徐々に薄れてゆき、中から現れたのは……サクヤさんと、巨大な赤い馬・・・に乗った、[関聖帝君]の姿だった。


「はは……!」


 サクヤさんの……[関聖帝君]と赤い馬……【赤兎馬】の威風堂々とした姿に、俺は打ち震える。

 だけど、それもしょうがないだろ! 俺は今、『ガイスト×レブナント』最強と呼ばれた、精霊ガイスト使いと精霊ガイスト真の姿・・・を目の当たりにしてるんだからな!


「ふふ……行け! [関聖帝君]!」

『(コクリ!)』


 サクヤさんの合図で【赤兎馬】がいななき・・・・、人馬一体の精霊ガイストがフレスヴェルグへと迫る。


 フレスヴェルグはその巨大な爪を振りかざして待ち構えるが。


「おおおおおおおおおおおおおッッッ!」


 サクヤさんの咆哮と共に、[関聖帝君]が馬上から青龍偃月えんげつ刀を繰り出した。


 それも、五連撃・・・


 ――斬ッッッ!


『グオオオオオオオオオオオッッッ!?』


 メッタ切りにされたフレスヴェルグが、断末魔の叫び声を上げながら床に転がり落ち、その姿を幽子に変えてサクヤさんに吸収されていく。


「っ! サクヤさん!」


 俺はその名を叫ぶと、サクヤさんに向けて全力で走った。

 世界一大切な女性ひとを、支えるために。


「う……っ……ふふ、ありがとう……」

「はは……あなたを支えるのは、俺だけの特権ですから……」


 “ウルズの泥水”が供給されてよろめくサクヤさんを抱き留め、俺達は微笑み合う。


 あとは。


「ふふ……さあ、私の[関聖帝君]と【赤兎馬】が放つ青龍偃月刀の刃、貴様に受け止めることができるか?」

『ッ!?』


 口の端を持ち上げて挑発するサクヤさんに、賀茂は思わず息を飲んだ。

 そうだよな? 『攻略サイト』を熟読した、オマエなら分かるよな?


 あの【千里行】の、けた外れの威力を。


『攻略サイト』によれば、五人単位のチームである主人公達に対し、ランダムに物理防御、属性防御、状態異常防御を全て無視した、【一刀両断】の三倍の威力を誇る攻撃がランダムに五回・・・・・・・行われる。


 プレイヤー側は、この【千里行】が発動された瞬間、誰か一人でもいいから食らわないようにと神に祈るらしい。

 だって、五人全員が一撃ずつ食らったら、その時点で全滅してしまうのだから。


 なのでサクヤさんと[関聖帝君]の攻略法は、防御や回復は一切度外視して、とにかく五人の最強スキルをぶつけ続けて三分以内に・・・・・倒すこと・・・・


「ヨーヘイくん……もう、大丈夫だ」


 無事に“ウルズの泥水”を吸収し終わったサクヤさんが、俺からス、と離れ、賀茂と[伊邪那美命いざなみのみこと]を見据える。


 そして。


「では……参るッッッ!」

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