第341話 失くした繋がり

「では……参るッッッ!」


 サクヤさんがそう叫ぶと、[関聖帝君]を乗せた【赤兎馬】が飛ぶように走った。


「はは! [シン]! みんな! 俺達も一気に賀茂と[伊邪那美命いざなみのみこと]を攻撃するぞ!」

『ハイなのです!』

「「「「「「「おおおおおおおおおッッッ!」」」」」」」」」


 俺のげきに、[シン]が……みんなが応える。

 よし! サクヤさんがその圧倒的な強さを目の当たりにしたおかげで、みんなの士気が戻ったぞ!


『クッ! ラスボスデモナイタダノ精霊ガイストニ、コノ[伊邪那美命いざなみのみこと]ガ負ケルワケネーダロ!』

『カタカタカタカタ!』


 [伊邪那美命いざなみのみこと]が、両腕を突き出し、[関聖帝君]を待ち構える。


「食らええええええええええええッッッ!」


 [関聖帝君]が青龍偃月刀を振り上げ、フレスヴェルグに見せた五連撃を[伊邪那美命いざなみのみこと]に向けて放った。


 ――ギイイイイイイイイイインンンッッッ!


『カタカタカタ……カタッ!?』

「むうっ!?」


 なんと、[関聖帝君]の青龍偃月刀と[伊邪那美命いざなみのみこと]の両腕が激突した瞬間、激しい音と共にお互いが後方へと弾かれた。

 だけど……さすがにあの両腕も、【千里行】まではき消すことはできなかったみたいだな。


 賀茂の奴もこの結果が意外だったのか、漆黒の目を見開いてやがる。

 というかオマエ……そんなにボケッとしていていいのか?


『はうはう! 隙ありなのです! 【爆】!』

『ッ!? ガギッ!?』


 弾かれて硬直した一瞬の隙を突いて、[シン]がそのスピードを活かして素早く呪符による攻撃を放った。


「はは! 油断しすぎじゃねーの?」

『ク、クソオオオオオオオッッッ! クソザコモブノ分際デッッッ!』


 はは、賀茂の野郎悔しがってやがる。

 だけど……とうとう俺達の攻撃が届いたぞ!


「みんな! もう一度行くぞ!」

「ああ! [関聖帝君]!」


 口の端を持ち上げたサクヤさんが、体勢を立て直した[関聖帝君]を再度突撃させる。


『クソッ! クソッ! 今度コソ消シ飛バシチマエッッッ!』

『カタカタカタカタッッッ!』


 [伊邪那美命いざなみのみこと]も、先程の[関聖帝君]の攻撃を踏まえ、低く構えて迎え撃った。


 だけど。


 ――ギイイイイイイイイイインンンッッッ!


「っ! ぬうっ!?」

『カタッ!?』


 やはり激突した瞬間に弾かれる両者。

 そしてこの後もさっきと同じパターンで。


「ファイア」

「クク……【ツァーンラート】」

「行けええええ! 【窮奇きゅうき】!」


 カズラさん、中条、そしてアオイによる遠距離攻撃が一斉に放たれ、[伊邪那美命いざなみのみこと]に襲い掛かった。


『ッ! カタカタカタッッッ!』


 さすがに同じ手は食わないとばかりに、三人の攻撃を左腕でき消す。


「ホホ、甘いの!」

『ッ!? ガダガダガダッッッ!?』


 三人の攻撃の陰に隠れるようにいた土御門さんの五体の【式神使】が、[伊邪那美命いざなみのみこと]に噛みついた。


『アアアアアッッッ! バカヤロウ! 何ヤッテヤガルンダヨ! ソンナモン、トットト消シチマエ!』

『カタカタッッッ!』


 賀茂の指示を受けた[伊邪那美命いざなみのみこと]が、左腕で【式神使】を消し去る……んだけど。


 この時、俺は違和感を覚えた。


 そういや賀茂の奴、なんで平気なツラしながら[伊邪那美命いざなみのみこと]に指示が出せるんだ?

 見た限り、[伊邪那美命いざなみのみこと]もさっきの[シン]の呪符と[吉備真備きびのまきび]の【式神使】による噛みつきでダメージを負っているのは間違いない。

 だったら、ダメージを共有する精霊ガイスト使いにも同じような影響が出て……っ!?


 ここまで考えて、俺は気づく。


 賀茂の奴が、一切ダメージを負っていないことに。

 [伊邪那美命いざなみのみこと]が、精霊ガイストではなく幽鬼レブナントであることに。


 これって……[瀬織津姫せおりつひめ]が、[禍津日神まがつひのかみ]から[伊邪那美命いざなみのみこと]に……つまり、精霊ガイストから幽鬼レブナントに変質しちまったから、賀茂の手から・・・・・・離れちまった・・・・・・ってこと、なのか……?


 俺はチラリ、と賀茂を見やる。


『クソッ! 何ナンダヨチクショウ! ソレデモ俺ノ精霊ガイストカヨ!』


 賀茂は自身の相棒・・である[伊邪那美命いざなみのみこと]に怒鳴り散らしている。

 けど、もうコイツ等の繋がりは切れてしまっていて……。


「クソッッッ!」

『はう!? マスター!?』


 やるせなさのあまり、俺は床に拳を叩きつけると、驚いた[シン]が慌てて止める。


『ど、どうしたので……っ!?』


 俺は心配そうに覗き込む[シン]を、ギュ、と抱きしめた。

 もし俺が賀茂みたいに、この大切な相棒・・を失うかと思ったら、つらくて……怖くて……。


 すると。


『マスター……』


 [シン]は抱きしめ返しながら、俺の背中をさすってくれた。

 心配ないよ、と、そう言ってくれているかのように。


『えへへー……マスターが抱きしめてくれたから、[シン]は元気百倍なのです。[シン]は絶対に、この温もり・・・を手放したりしないのです……』

「[シン]……」


 そんな[シン]の言葉は、まるで俺の恐れや不安を理解しているかのような、俺の想いに応えるかのような、そんな言葉で。


『マスター……[シン]は、あの幽鬼レブナントを倒すのです。たとえそれで、あのクズ・・・不幸な目に・・・・・遭うとしても・・・・・・


 俺からそっと離れて微笑んだ[シン]が、キッ、と賀茂と[伊邪那美命いざなみのみこと]を交互に見据えた。


 そうだな……相棒・・はこんなに覚悟を決めてるのに、マスターの俺が日和ひよってちゃ話にならない。

 俺は……この相棒・・と一緒に戦うだけだ。


 相棒・・と、いつまでも一緒にいるために。


「よっし!」


 俺は改めて気合いを入れるため、両頬をパシン、と叩く。


「[シン」! やるぞ! ここで……ここで、この戦いを終わらせるんだ!]

『ハイなのです!』

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