第342話 相棒の咆哮

「[シン」! やるぞ! ここで……ここで、この戦いを終わらせるんだ!]

『ハイなのです!』


 そう叫び、俺と[シン]が臨戦態勢に構えると。


「ウルセエエエ! クソザコモブノ分際デ、調子コイテンジャネエゾッッッ! ツーカ[伊邪那美命いざなみのみこと]! オマエガシッカリシネエカラ、コノオレガ馬鹿ニサレテンダゾ! 分カッテンノカヨ!」

『…………………………』


 賀茂の心無い言葉に、[伊邪那美命いざなみのみこと]がうつむく。

 その姿を見た瞬間、俺は腹の底から怒りがこみ上げてきて。


「バカヤロウッッッ! コイツはオマエの相棒・・だろうが! なのにその言い草はなんだよ! 相棒・・だからって、いつまでも一緒にいられる保証なんかないんだぞ!」


 俺は、賀茂を大声で怒鳴りつけた。


『ハア? オマエ、馬鹿ジャネエノ? 精霊ガイストハマスターデアル精霊ガイスト使イト一心同体ナンダ。離レルワケネーダロ』


 賀茂は小馬鹿にするかのように話すが……俺には、それが滑稽こっけいでならなかった。

 そんな未来が、もうすぐ訪れるというのに。


『ハア……ダリイナア……[伊邪那美命いざなみのみこと]、モウサッサト終ワラセロ』

『……(コクリ)』


 呆れた表情を浮かべた賀茂が、面倒臭そうに手を振りながら指示をする。

 [伊邪那美命いざなみのみこと]も、それに応えるように頷いた。


「……サクヤさん、サンドラ、プラーミャ、カズラさん、アオイ、中条、土御門さん、加隈……そして、[シン]」


 全員の名を呼び、俺はみんなを見る。

 みんなも、ジッと俺を見ていた。


「次の……次の攻防で、この戦いを……終わらせよう」

『「「「「「「「「おおーッッッ!」」」」」」」」」』


 気勢を上げた俺達は、それぞれ配置につく。


 サクヤさんは、[伊邪那美命いざなみのみこと]の正面へ。

 サンドラとプラーミャが、サクヤさんの脇を固める。

 アオイ、中条、土御門さん、加隈は、[伊邪那美命いざなみのみこと]の真後ろに。

 カズラさんは、サクヤさんの背中越しから[伊邪那美命いざなみのみこと]に照準を合わせていた。


 俺と[シン]は、あえて・・・みんなから離れた場所にいた。


「[シン]……この戦い、決めるのはお前だ。お前のその世界一の・・・・スピード・・・・だけが、みんなが作った[伊邪那美命いざなみのみこと]の隙を突くことができるんだ」

『はう! もちろんなのです! [シン]の……[シン]の、マスターと一緒に勝ち取った “SSS+”で、この戦いを勝利に導いてみせるのですッッッ!』


 そう叫ぶと、[シン]がクラウチングスタートの体勢を取る。


 そして。


「ハアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 [関聖帝君]が、[伊邪那美命いざなみのみこと]に向かって一騎駆けを開始した。


『ッ! [伊邪那美命いざなみのみこと]!』

『カタカタカタカタッッッ!』


 [伊邪那美命いざなみのみこと]が、あえて右腕だけを突き出す。

 これは、少々力負けしたとしても、その後の俺達による波状攻撃を迎撃するためだろう。


 ――ギイイイイイイイインンンッッッ!


 青龍偃月刀と全てを消し去る腕との激突により、この空間に三度みたび激しい音が鳴り響く。


「むうん!」

『ガタガタッ!?』


 さすがに片腕では受け止めきれなかった[伊邪那美命いざなみのみこと]が、後方へを弾き飛ばされた。


「あはははは! 待ってたよ! 【朱雀】! そして……【竜の息吹】!」

「クク……【クロノス】!」

「ホホ! 行くのじゃ! 【聳狐しょうこ】! 【炎駒えんく】! 【索冥さくめい】! 【角端かくたん】! 【黄麟きりん】!」

「行っくぜえええええ! 【ブレイク】!」


 飛んで向かってくる[伊邪那美命いざなみのみこと]に対し、四人が最強スキルを放つ。


『ッ! カタカタカタ!』

「「「「っ!?」」」」


 だけど、そこは片腕を温存していただけあって、全員のスキル攻撃を全てき消した。

 たとえ【クロノス】による、都合のいい・・・・・攻撃であっても。


「ファイア」


 ――タン、タン、タン、タン。


 そこへ狙い澄ましたかのように、カズラさんの[ポリアフ]が狙撃する。


『ッ!? ガダッ!?』

「よし!」


 やはり両腕を行使してしまったために[ポリアフ]から放たれた銃弾を全て捌き切ることができず、数発がそのひび割れた身体に撃ち込まれた。


「フフ……食らいなさい! 【絨毯じゅうたん爆撃】!」


 そして、その瞬間を狙っていたかのように、[伊邪那美命いざなみのみこと]の頭上に飛び上がっていた[スヴァローグ]が、炎をまとった巨大なハルバードによる槍衾やりぶすまを展開する。


「ガチガチガチガチ!」


 すると[伊邪那美命いざなみのみこと]が、歯を鳴らし、相打ち覚悟とばかりに右手を大きく突き出した!?


「っ!? プラーミャ!?」


 それを見た俺は思わず叫ぶ。


「フフ……【ガーディアン】!」


 そんなことも織り込み済みだったんだろう。

 サンドラが【ガーディアン】を展開し、【絶対防御】で[伊邪那美命いざなみのみこと]の右腕を相殺した。


 そして。


 ――ドガガガガガガガガガッッッ!


『ガダガダガダガダッッッ!?』


 プラーミャの攻撃をもろに食らい、[伊邪那美命いざなみのみこと]が、床に叩きつけられた。


「これで、終わりだああああああああああッッッ!」


 体勢を立て直し終えていた[関聖帝君]が、二度目・・・の【千里行】を放つ。


 っ! 今だ!


「[シイイイイイイイイイイイイイイイン]!」

『はうはうはうはうはう!』


 俺の合図で[シン]が弾丸のように飛び出す。

 最後の、決着をつけるために。


 ――斬ッッッ!


『ガギャアアアアアアアアアアアッッッ!?』


 [関聖帝君]の青龍偃月刀が半月を描くように舞い、[伊邪那美命いざなみのみこと]の両腕を叩き斬った。


『はう! これで終わりなのですッッッ! 【神行法・転】!』


 スキルを放って硬直した[関聖帝君]と入れ替わり、[シン]が大量の呪符を貼……っ!?


 ――パカリ。


 突然、[伊邪那美命いざなみのみこと]が大きく口を開け、その中で凝縮された幽子が光り輝いた。


 俺の頭に最悪の光景がよぎる。

 [シン]を……永遠に失ってしまう光景が。


「シ、[シン]! 逃げ……っ!?」


 俺は無意識に必死に手を伸ばして叫ぼうとした。


 その瞬間。


『はうううううッッッ!』

『ッ!?』


 [シン]が幽子の光に包まれ、俺の目の前から……一瞬で、き、消え……た……。


 俺は膝から崩れ落ち、呆然と……って!?


 ここで俺は違和感に気づく。

 この俺が・・・・無事であることに・・・・・・・・


 そして。


『【爆】! 【裂】! 【凍】! 【雷】! そして……【流】!』

『ガギ!? ガギャ!? ゴガゲゲゲゲゲガゲギギゴゴゴゴ!?』


 いつの間にか[伊邪那美命いざなみのみこと]が呪符で覆われ、五つの属性の特性を持ったスキル攻撃が発動した。


 その身体を崩壊させながら床に落ちる[伊邪那美命いざなみのみこと]。


 その後ろから。


「あ……ああ……!」

『はううううううううううううッッッ!』


 俺の世界一の、たった一人の大切な相棒・・が、両の拳を高々と突き上げて咆哮ほうこうした。

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