第72話 お節介でバカで、優しいアイツ②

■アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ視点


 いよいよ第六十階層の領域エリアボスであるタロースといざ戦いとなった時、あの女……“悠木アヤ”が乱入してきタ。


 しかも、ワタクシ達を確実に傷つけるつもりデ。


 ヨーヘイはワタクシにタロースとの戦闘を指示し、自身は悠木アヤとの戦いを選んダ。

 デモ、これじゃワタクシがタロースを倒してしまったらどうするつもりなのだろウ。実際、タロースを相手してみて分かったけど、この程度なら[イヴァン]だけで充分倒せル。


 ……ヨーヘイは、ワタクシに花を持たせるつもりなのかしラ。

 マサカ! そんなの、このワタクシのプライドが許さなイ! それ以上に、ここまでずっと気遣ってくれたヨーヘイに何も返せていないのにさらに恩を受けるなんて、それこそ『レイフテンベルクスカヤ家』の家門に傷をつけることになル!


 ワタクシはヨーヘイがあの“悠木アヤ”を倒してコッチに合流するまで、わざと拮抗させながらタロースと戦っタ。


 するト。


「サンドラ! 待たせた!」


 フフ……やっとヨーヘイが来タ。

 ワタクシは口元を緩め、タロースを見据えル。


「エエ……それじゃ、今度こそ勝負ですわヨ?」

「ああ!」


 コレでやっと対等に勝負ができル、そう思っていたのに、ヨーヘイときたラ……結局、ワタクシのサポートに徹して、全然タロースを倒そうとしなイ。

 デモ、ワタクシはそんな気がしていタ。ダッテ……ヨーヘイですもノ。


 とにかく、このままワタクシがヨーヘイの気持ちを無視してタロースとの戦いを放棄したら、それこそ彼に申し訳が立たなイ。

 ワタクシはヨーヘイの気持ちに応えるためにも、全力でタロースを攻撃し、そして倒しタ。


 この“グラハム塔”領域エリアを異例の一学期で踏破なんて偉業を達成したのだから、当然ワタクシは喜んダ。

 そして、それはヨーヘイモ。


 ……ワタシに勝ちを奪われたっていうのに、本当にもウ……。


 その時。


「サンドラ!」

「キャッ!!?」


 突然、ワタクシはヨーヘイに突き倒されて驚くけど、それ以上に驚いたのハ……背中から変な煙が出て、顔色を真っ青にしながら苦しむヨーヘイと[シン]の姿だっタ。


 理由は簡単。あの悠木アヤが、自分の身体を犠牲にして呪符を【アシッドレイン】で溶かし、ヨーヘイとワタクシを攻撃したかラ。

 そして、ヨーヘイはこのワタクシをかばっテ……!


「オマエエエエエエエッッツ!」


 これほど頭にきたことはなかっタ。

 これほど不甲斐ないと思ったことはなかっタ。


 ワタクシはすぐに悠木アヤに飛び掛かろうとしたけど、ヨーヘイに止められタ。

 それは、ワタクシじゃこの悠木アヤに勝てないかラ。


 悔しイ。

 悔しイ、悔しイ、悔しイ!


 プラーミャにいつも負けていた時にはなかった感情が、ワタクシの胸の奥に押し寄せル。

 ワタクシがもっと強かったラ……!


 思い切り歯噛みしていると、ヨーヘイに腕を引っ張られ、抱き寄せられタ。

 ヨーヘイが、近イ……。


 ヨーヘイはワタクシの耳元で作戦について語ってくれタ。

 ワタクシがヨーヘイと口論して突き飛ばされるフリをし、[シン]のそばに行って[シン]をヨーヘイの元へと投げ飛ばス。


 ワタクシはそんなことでしかヨーヘイの手助けをできない悔しさをにじませつつ、その作戦に乗っタ。

 そしてそれは狙い通りに上手くいき、[シン]を無事に彼のところまで放り投げることができタ。


 そこからは、彼の圧勝だっタ。

 呪符によってヨーヘイと[シン]の人形のようなものを作り、悠木アヤの攻撃をその人形に一身に受けさせることで、彼女のスキルを破ったのだかラ。


 悠木アヤを呪符で拘束し、[イヴァン]が担ぎ上げると、ワタクシ達は“グラハム塔”|領域を出ル。


 扉をくぐると、満面の笑みで出迎えようとした先輩の表情が一瞬で変わっタ。

 当然ダ。先輩のお気に入りであるヨーヘイが、こんなに傷ついているのだかラ。


 ワタクシは先輩に一部始終を簡単に説明すると、悠木アヤを地面へと無造作に放り投げル。

 その悠木アヤは、先輩の[関聖帝君]に青龍偃月えんげつ刀を喉元に突きつけられ、【威圧】スキルもあって恐怖のあまり気絶してしまッタ。


 ダケド……ワタクシはヨーヘイの背中を眺め、ただ、申し訳なさを感じていタ。

 だって、ヨーヘイはこのワタクシをかばったせいで傷ついてしまったのだかラ……。

 なのに彼ときたら、ワタクシの頭を乱暴に撫でたかと思うと、微笑みながらワタクシを気遣ってくれタ。


 本当に……バカ……。


 ワタクシはその時、胸がかあ、と熱くなる感覚を覚えたけど、それをヨーヘイに悟られまいとわざとそっけない態度をしてしまっタ。

 デモ、それすらもヨーヘイにはお見通しだったみたイ。


 その後、ワタクシ達はヨーヘイの治療のために病院へ向かっタ。


 ワタクシが売店で紅茶を買っている隙に、治療を終えたヨーヘイは先輩と談笑していタ。

 声を掛けると、何故か二人は気まずそうにしたけド、ヨーヘイはすぐにワタクシに向き合い、こう言ったのダ。


「だから……サンドラも、一緒に来てくれないか? その、領域エリアの攻略に」


 嬉しかっタ。

 ヨーヘイに、必要とされていることニ。ヨーヘイに頼りにされたことニ。


 今まで、ルーシではプラーミャと比較され続け、結果、期待されずに苦言ばかり言われていたこのワタクシが、ヨーヘイは必要としてくれル。


 この時、のタクシの心は、生涯で一度もないほど幸福感で満ちあふれタ。


 当然、ワタクシはヨーヘイのお願いを受け入れタ。

 デモ、恥ずかしいからってあんな言い方はなかったと反省していル。マア、彼にはお見通しだったけド。


「フフ……ヨーヘイは、このワタクシに一緒にいて欲しいのネ……」


 家に帰り、ワタクシはヨーヘイのあの言葉を何度も思い返しては、口元を緩めていタ。

 この東方国なら、アレイスター学園なら……ヨーヘイ、なら……このワタクシを必要としてくれル、認めてくれル。


 そう考えたら、どうしてワタクシは、あんなにもパパやママの評価に固執していたんだろウ……どうして、プラーミャにこだわったのだろウ。

 ワタクシはワタクシ、プラーミャはプラーミャだというのに。


 ……モウ、『レイフテンベルクスカヤ家』は、このワタクシの全てじゃなイ。

 だったら……そんなワタクシのこだわりも、しがらみも、全て捨ててみよウ。


 後継者候補を、降りてみよウ。


「そ、そのためには、当然ヨーヘイにも協力していただきませんト!」


 そうですとモ! ヨーヘイがワタクシをこんな気持ちにしたんですもノ! その責任を取っていただかないト!

 それに、元々ワタクシとヨーヘイは勝負をしているのですから、勝利報酬を新たに設けることくらい、大丈夫ですわよネ? ネ!


 ワタクシは気合いを入れるために小さくガッツポーズをし、意気込んダ。

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