幕間

第71話 お節介でバカで、優しいアイツ①

■アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ視点


 ワタクシは、生まれたその日から、貴族であることを求められタ。

 ソレモ……いつも隣にいる、同じ顔をした妹と比べられながラ。


 ワタクシの家……『レイフテンベルクスカヤ家』は、ルーシ帝国では公爵位を持ち、皇族の血を引いたまさに名門貴族だっタ。


 当然、長女であり後継者であるワタクシは、幼い頃から英才教育を施されタ。

 勉学モ、貴族としての振る舞いモ、そして……精霊ガイストモ。


 この『レイフテンベルクスカヤ家』に生まれた者は、全員が十歳を迎える頃、必ず精霊ガイストが発現すル。

 何故かは分からないが、遺伝子的な何かが関係しているのかもしれなイ。


 そして、精霊ガイストが発現してすぐにおこなった精霊ガイストによる模擬戦で、ワタクシは双子の妹であるプラーミャに完膚なきまでに叩きのめされタ。


 その時からダ。

 パパやママ、そしてプラーミャの私を見る目が変わったのハ。


 ルーシ帝国が誇る小・中・高一貫の名門校に通っていたワタクシが、その小等部や中等部で歴代卒業生トップの成績を上回っても、プラーミャはワタクシをさらに超えていク。


 当然、パパとママはワタクシに言っタ。

 妹のプラーミャにできて、何故ワタクシに同じことができないのカ、ト。


 学校でも、注目の的は常にプラーミャで、ワタクシの位置付けはそんな妹が映えるための比較対象でしかなかっタ。

 そしてワタクシも、そんな自分の環境をつらいと感じながらをただ受け入れていタ……いや、違う。受け入れるしかなかったんダ。


 そんなある日、東方国からうちの学校に留学生についての募集が掲示されたタ。

 両国間の学生同士の交流を深めるというもので、高校三年間をその東方国の学校で学ぶらしイ。


「コレですワ!」


 ワタクシには、その募集の貼り紙が救いの手を差し伸べているように見えタ。

 プラーミャもいない……ワタクシのことを誰も知らない全く新しい環境なら、ワタクシも評価してもらえるんじゃないカ、ワタクシを見てくれるんじゃないカ、そう思ったかラ。


 早速、ワタクシは学生課に向かい、留学についての詳しい願書を受け取ると、穴が開くのではないかというほど、何度も読み返しタ。


 そしテ。


「パパ……ママ……ワタクシ、東方国に留学したいのでス……!」


 ワタクシは必死に訴えタ。

 いかに東方国へ留学することが素晴らしいか、私の成長につながるかということヲ。

 モチロン、その結果が『レイフテンベルクスカヤ家』にとって有益であることを示しながラ。


 最初は難色を示した両親だったが、結局は根負けし、晴れてワタクシは東方国へと留学することとなっタ。

 プラーミャは最後まで反対していたけど、決まってしまった以上、プラーミャにはもうどうすることもできなイ。


 ワタクシは今度こそ……パパやママ、プラーミャに認められる立派な貴族になるんダ!


 ◇


 東方国にある“国立アレイスター学園”、ここが、ワタクシの新しい生活のスタートを切る学び舎ダ。


 入学初日から、ワタクシは勉強に精霊ガイストの訓練に余念がなかっタ。

 本当は、せっかくだから友達も作って遊んだりしたかったけど、プラーミャと差をつけられているワタクシには、そんな暇はなイ。


 気づけば、この学園でもワタクシは一人だっタ。


 期末テストまで一か月を切るタイミングで、何故かうちのクラスに一人の男子生徒が編入されてきタ。

 彼の名は、“望月ヨーヘイ”。


 気になって調べてみたら、どうやら彼は前のクラスでトラブルがあり、クラスを移ったとのことだっタ。

 といっても、彼自身が悪いわけじゃなく、前のクラスの生徒達どころか、担任の先生まで一緒になって彼に対して酷いことをしていたらしイ。


 ……なんだか、ルーシにいた頃のワタクシに少し似ているかモ。


 そう思ったワタクシは、そんな彼に下らないちょっかいをかけていタ。


「……それで、お前はまだいるのかよ……」

「もちろんですワ! ワタクシと勝負するんですのヨ!」


 こうやって絡むと、彼……ヨーヘイはいつも面倒くさそうな表情を見せて取り合わなイ。こうなると、逆にワタクシ一人が空回りしているみたいで、すごく恥ずかしかっタ。

 なので、ワタクシは今さら止めることもできずにひたすら絡み続けル。


 するト。


「せっかくの機会だ。望月くん、彼女の申し出を受けてみたらどうだ?」


 学園の一年先輩で、生徒会長でもある“桐崎サクヤ”先輩が、ワタクシを後押ししてくれタ。

 この桐崎先輩は、昼休みや放課後のたびに、いつもヨーヘイに会いにこの教室に来ているのだけド……何というか、生徒会長って忙しくないんですノ?


 とはいえ、先輩の後押しはワタクシにとって非常にありがたかったので、当然そのまま会話に乗っかっタ。

 ただ、ヨーヘイは先輩に鍛えてもらうというので、それはズルだとワタクシはあえてクレームをつけタ。本当は、そんなこと全然思ってなかったけド。

 すると先輩は、このワタクシも一緒に指導すると言い出した。


 学園最強と名高い桐崎先輩ダ。ワタクシには、そんな先輩のありがたい申し出を断るという選択肢はなかっタ。

 ……一緒に“グラハム塔”領域エリアに入るまでハ。


「サンドラ! 後ろから“オーク”が二体来ているぞ!」

「ヒ、ヒイイですワ!」


 とまあこんな感じで、先輩は非常にスパルタだっタ。

 そして、そんな厳しい先輩の指導を、ヨーヘイは事もなげにこなしていク。


 ふ、二人は普段からこんな感じなんだろうカ……。


 デモ、ヨーヘイはこの時、確かに言っタ。

 先輩はきっと、このワタクシを強くしてくれル、ト。強くなれた自分がここにいるのは、先輩のおかげなんだト。


 そう言われてしまったら、ワタクシは折れるわけにはいかなイ。

 歯をくいしばりながら、ワタクシは必死で先輩の指導についていっタ。


 その甲斐もあり、もう“グラハム塔”領域エリアも先輩抜きで難なく攻略できるようになっていタ。

 ダケド、本当は気づいていル。それができるのは、ヨーヘイがしっかりサポートしてくれているからだっテ。


 ワタクシが幽鬼レブナントと戦っている時は、背後を取られないように常に警戒をしてくれているし、必要なら幽鬼レブナントを呪符で拘束したり、間引きしたりしてくれていタ。そのことをワタクシが指摘しても、ヨーヘイは絶対に認めないけド。


 本当に、頑固というか優しいというカ……。


 そして、いよいよ第六十階層の領域エリアボスであるタロースといざ戦いとなった時。


 あの女……“悠木アヤ”が乱入してきタ。

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