第73話 お節介でバカで、優しいアイツ③

■アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ視点


 期末テストでもヨーヘイに圧勝し、ワタクシは考えていた通り彼にお願い事をしタ。

 その内容は、ワタクシの恋人のフリをしてもらうこト。夏休みになったらやってくる、妹のプラーミャに会ってもらうためニ。


 そして、ワタクシはプラーミャに告げるのダ。

 ヨーヘイと添い遂げるために、『レイフテンベルクスカヤ家』の後継者候補から降り、家を出ることヲ。


 モ、モチロンこれは、あくまでもワタクシが家を出るための方便であって、その、け、決してヨーヘイと添い遂げようなんて気持ちは……ウン、ノーコメントですワ。


 その代わりではないけど、ヨーヘイにお願いされた通り、彼が偶然見つけた・・・・・・という“アルカトラズ”領域エリアの攻略に先輩と一緒に彼に同行しタ。

 その領域エリアで出現する幽鬼レブナントは、“グラハム塔”領域エリア幽鬼レブナントと比べてはるかに強かっタ。

 といっても、ワタクシには【雷属性無効】のスキルがあったため、半分程度は雷属性の幽鬼レブナント相手なのでその危険度も低かったけド。


 そんな攻略を毎日行い、とうとうプラーミャがやって来る八月一日を迎えタ。


 ワタクシはヨーヘイと先輩に一緒に来てもらい、空港でプラーミャを出迎えル。

 ヨーヘイのことに関しては、あらかじめプラーミャには伝えておいたから恋人として違和感はなかったはズ……ですわよネ?


 その後、せっかくなので東方国を観光しようってプラーミャに提案したんですけド……プラーミャから返ってきたのは、まさかの領域エリア攻略だっタ。

 どうやら、プラーミャがこの国に来る直前に電話で話していた、“アルカトラズ”領域エリアに興味があるみたイ。

 それと……ヨーヘイにモ。


 何度も話題を逸らしてワタクシは断るのだけど、プラーミャは行くと言って聞かなイ。

 結局根負けしたワタクシは、仕方なくプラーミャも一緒に“アルカトラズ”領域エリアへと連れて行っタ。

 プラーミャを見たヨーヘイと先輩は驚いていたけど、とりあえず事情を説明し、プラーミャも同行することになっタ。


 久しぶりに見たプラーミャの精霊ガイスト、[イリヤー]の強さは、さらに磨きがかかっていタ。それに加えて、[イリヤー]にはステータスを大幅に引き上げるスキル、【スヴャトゴル】がある。

 ワタクシも先輩に鍛えてもらったり、“グラハム塔”領域エリアやこの領域エリアでレベルアップしたおかげで相当強くなってますけド……それでも、プラーミャにハ……。


 そんなもやもやした感情を抱えながら、ワタクシ達は第九階層へとたどり着いた。

 プラーミャはというと、第七階層で見た[シン]のステータスに対抗意識……なのかは分からないけド、やたらとヨーヘイに絡んでは迷惑をかけていタ。

 ワタクシがそれを注意しても、プラーミャはヘラヘラと笑うばかりで、全く聞く耳を持たなイ。

 ウウン……それ以上に、ワタクシは怒っていたのダ。

 ヨーヘイのことを馬鹿にしたプラーミャニ。


 だから。


「ワタクシはもう、ルーシには帰りませんワ! この国で、ヨーヘイと添い遂げますノ! ですから、『レイフテンベルクスカヤ家』の継承権も放棄するのですワ!」


 言っタ。とうとう言っタ。

 もちろん、これから先のワタクシの進む道は、前途多難であることは分かってル。

 デモ……それでモ……。


 ワタクシはチラリ、とヨーヘイを見やると、彼は混乱し切った表情でオロオロしていタ。

 そんな彼に申し訳ないと思いつつも、ワタクシは目配せしてワタクシの話に合わせるように促しタ。


「そ、そうだ……お、俺はサンドラと、その……添い遂げる、です……!」


 振り絞ったような声でヨーヘイがそう告げると、プラーミャと先輩の表情が絶望に変わった。

 せ、先輩はともかくとして、プラーミャにはこれで納得してもらうしかなイ。

 それからプラーミャは、必死になってワタクシに問いただすけど、ワタクシの意志は変わらない。


 そして、ようやく諦めたプラーミャは、ワタクシの代わりにパパとママに話してくれることになった。


 デモ、プラーミャは本当は全然諦めてなかっタ。

 第十階層に着いた途端、プラーミャはヨーヘイを捕まえて何かコソコソと話していた。


 すると。


「フザケルナ! アイツの……サンドラのこと、本当に知りもしないで! 勝手なことばかり言いやがって!」


 突然、ヨーヘイがプラーミャに向かって怒鳴っタ。

 ワタクシはヨーヘイと知り合ってから一度も、あんなに怒っている見たことがなイ。


 ……ヨーヘイが何で怒っているのか、その理由は分かってル。

 ヨーヘイは、プラーミャたワタクシをけなしたから怒ったのダ。


 悔しかっタ……そして、嬉しかっタ。

 だって……ヨーヘイはワタクシのこと、そうじゃないって信じてくれているって証拠だかラ。


 だかラ。


「ワタクシ……ワタクシ、頑張るかラ……! モットモット、頑張るからア……!」


 ワタクシは、涙でくしゃくしゃになった顔で、ヨーヘイに誓った。

 絶対に、信じてくれたヨーヘイの期待に応えてみせル、ト。


 その時……ワタクシの脳裏に言葉が浮かんだ。


『クラスチェンジ開放条件、クリア・・・。[トール]または[ペルーン]へのクラスチェンジが可能』


 これは……[イヴァン]のクラスチェンジ?

 どうやら、ワタクシのこの決意こそが、[イヴァン]のクラスチェンジの条件だったみたいダ。

 フフ……ヨーヘイ。やっぱりアナタはすごい人。

 ワタクシは、そんなアナタの隣に立ちたい。ズット……ズット。


 デモ……そんな想いを、ワタクシらしくこう伝えよウ。


「見てなさいヨ? アッと驚かせてやるんですかラ」


 そう言って、ワタクシはヨーヘイに精一杯の笑顔を浮かべタ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る