第333話 泥棒猫

「フフ……ワタクシの盾に、防げないものなんてないんですのヨ?」

「フン、このヤーが、全部焼き尽くしてあげル」


 声のする部屋の入口へと視線を向けると、俺の大切な姉妹……クスクスと笑うサンドラと、鼻を鳴らすプラーミャがいた。


「二人共!」

「ヨーヘイ! あの四人は、ワタクシとプラーミャがキッチリと倒してきましたワ!」

「フフ……思いのほか歯ごたえがなかったわネ」


 手を振りながら嬉しそうに駆け寄ってくるサンドラと、澄ました表情のプラーミャ。


「二人共……無事でよかった……」


 元気そうな二人の様子に安堵した俺は、ホッと息を吐いた。


「フフ、ヨーヘイったら、本当に心配性ですわネ」

「そうネ。大体、ヤーが負けるわケ……ッ!?


 その時、割り込むように[禍津日神まがつひのかみ]が俺達に襲い掛かってきた。


 だけど。


「フフ……【ガーディアン】」

『っ!? 【破敵剣はてきのつるぎ】が通らないのです!?』


 突き刺そうとした右手の剣が[ペルーン]が展開した盾を貫通できず、[禍津日神まがつひのかみ]が驚きの表情を見せる。


「全ク……無粋なのヨ!」

『…………………………チッ』


 さらに[スヴァローグ]から振り下ろされたハルバードによる追撃をかわして距離を取り、[禍津日神まがつひのかみ]は顔を歪めて舌打ちした。


「はは、その顔のほうが幽鬼レブナントっぽくて似合ってるぞ」

『っ‼ ウルサイのです! クソザコモブのくせに生意気なのです!』


 そう言って俺があおると、[禍津日神まがつひのかみ]は顔を真っ赤にして怒り出した。


「……チッ。その盾、厄介だな」

「何だよ、ちょっと『攻略サイト』にないことがあると、オマエも対処できないのな」


 だけど、賀茂との戦いにおいて、このアドバンテージは大きい。

 まず、サンドラとプラーミャの精霊ガイストについては、あの『攻略サイト』には一切載っていないから、賀茂も迂闊うかつには戦えない。


 何より、[ペルーン]の【ガーディアン】が持つ【絶対防御】が、[禍津日神まがつひのかみ]の空間を操る能力すらも遮断してしまうっていうのは、これ以上ないくらい僥倖ぎょうこうだ。


 これなら……!


「みんな! コッチはこれで五人! これなら、あの[禍津日神まがつひのかみ]にだって攻撃が届くはず! だから……もう一度一斉に……「ホホ、六人じゃ」……って、土御門さん!」


 はは! ここでさらに増援かよ……!


「ホ、真打登場、といったところかの?」


 扇で口元を隠しながら現れた土御門さんが、そう言って目を細める。


「土御門さん、その……怪我とかは……?」

「ホホ、大丈夫じゃ。まあ、何とも歯ごたえのない相手だったわ」


 そう言って土御門さんはクスクスと笑うけど……『ガイスト×レブナント』にヒロインとして登場するキャラ九人を相手して、決して楽な戦いだったはずがない。

 なのに……。


「……土御門さん、よかった……」

「ホホ!? なな、なんじゃ……その……もう……」


 俺は思わず土御門さんの細い手を握りしめると、彼女は頬を赤らめ、うつむいてしまった。


「あああああああああ! テメエ等、マジでイライラさせんな!」

『はう! 全くなのです! 目障りなのです!』


 そんな俺達の様子を見て、醜悪に顔を歪める賀茂と[禍津日神まがつひのかみ]。


「はは、何だよオマエ、ひょっとして嫉妬してるのか?」

「ハア!? なんでテメエみたいなクソザコモブに嫉妬なんざするんだよ! フザケロ!」


 必死になって否定するあたり、図星だな。


「ふふ……ヨーヘイくん、それも仕方ないだろう。なにせ、私達にはこんなに仲間がいるのに、賀茂カズマには誰もいない・・・・・んだから」

「っ! ウルセエ! ちょっと準ラスボスだからって、調子に乗ってんじゃ……『は、はう!?』……オ、オイ、どうした!?」


 賀茂がサクヤさんに食って掛かろうとしたところで、[禍津日神まがつひのかみ]が驚きの声を上げる。


『だ、誰かが[禍津日神まがつひのかみ]の保管庫に侵入したのです!? あり得ないのです!?』

「ど、どういうことだよ!?」


 賀茂と[禍津日神まがつひのかみ]が慌てふためいているけど……俺には、侵入したのが誰なのか知っている。


「はは……! さすがは氷室先輩!」

「うむ! それでこそ、私の親友だ!」


 俺とサクヤさんは顔を見合わせ、頷き合う。


 そう……俺は賀茂に従うフリをして潜入したカズラさんに、みんなの大切なもの・・・・・の隠し場所について探してもらっていたんだ。

 そして、カズラさんは見事それをやり遂げた。


 いくら[ポリアフ]の【オブザーバトリー】が優秀で、カズラさんにしかできないからって、本当に、こんな危険なことを買って出て……。


 すると。


『はう! この泥棒猫め! こうしてやるのです!』


 [禍津日神まがつひのかみ]が空間に穴を開け、そこに上半身を突っ込んで身じろぎをしている……!?


「っ! [シン]! みんな! [禍津日神まがつひのかみ]に仕掛けるんだ!」


 俺は慌ててみんなに指示すると、一斉に襲い掛かった。


「オ、オイ! [禍津日神まがつひのかみ]!」

『! もう! もう! 本当に鬱陶うっとうしい連中なのです!』


 さすがにまずいと思ったのか、賀茂の焦った声に気づいた[禍津日神まがつひのかみ]は穴から顔を出すと、[シン]達を迎え撃つ。


 カズラさん……頼むから、無事で・・・あってくれ・・・・・……!

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