第334話 それぞれの戦い④

■氷室カズラ視点


「それで氷室先輩、どこに向かっているんですか?」


 藤堂さんと別れ、私は立花さん、加隈さんと一緒に“バベル”領域エリアを下りている。

 途中、サンドラさんとプラーミャさんともすれ違いましたが、彼女達はその綺麗な瞳に決意を込め、第二十階層を目指していました。


 その時、『アナタの分も必ズ』と告げられた時は、思わず力強く頷いてしまいました。


 とはいえ、私も望月さんから託された……申し出た、が正しいですが、この際どうでもいいですね。とにかく、加隈さんをはじめ、みなさんが奪われた大切なもの・・・・・を奪還するという、大切な使命があります。


 それを果たさないことには、彼も十全に戦うことができませんから……って、立花さんの質問に答えていませんでしたね。


「私達は今、第一階層・・・・に戻っています」

「「第一階層!?」」


 驚く二人に、私は静かに頷いて見せる。

 ふふ……確かに、まさかこの領域エリアの入口付近に保管しているだなんて、誰も気づかないですよね。


 この、私以外は・・・・


「ホ……まさか、氷室先輩とこのようなところで会うとはのう。しかも、立花と加隈まで一緒とは」

「ふふ……ちょっと約束がありまして」

「ホホ! 確かにのう!」


 土御門さんが扇で口元を隠しながら、カラカラと笑う。

 まあ、彼女も私と一緒に大切なもの・・・・・を探した仲ですからね。


「それで、土御門さんは当然、彼のお手伝いに?」

「ホ、当然じゃ。今のわらわがあるのは、望月のおかげじゃからのう」


 そう言って土御門さんが目を細めますが、そんな、ただの恩返し・・・・・・みたいな理由じゃないでしょうに。


「では、よろしくお願いします」

「ホホ、お互いにの」


 私達と土御門さんはそのまま別れ、引き続き第一階層を目指しますが、[ポリアフ]の【オブザーバトリー】で幽鬼レブナントを回避しながら進んでいるため、順調そのものです。


 そして。


「うわあ……こんなに早く、第一階層まで戻ってこれちゃったよ……」

「だ、だな……」


 まあ、二人が驚くのも無理はありませんね。

 おそらくかかった時間は、普通に下りた場合の半分以下のはずですから。


「さて……コッチです」


 私は二人を引きつれ、第一階層の入口から正反対の場所を目指す。

 そこに、賀茂カズマの精霊ガイスト……いえ、幽鬼レブナントの能力で作った保管庫がある。


「ここですね」

「ええ!? だ、だけど、見た限り何もないし、どこかに通じる部屋みたいなものもなさそうだけど!?」


 まあ、普通の人に見えるはずがありません。

 だってその保管庫は、別の空間に・・・・・存在する・・・・のですから。


「[ポリアフ]」


 私は[ポリアフ]を召喚し、この場所を隅々まで確認すると。


「! ……ここですね」


 [ポリアフ]の【オブザーバトリー】の能力は、敵対する精霊ガイスト幽鬼レブアントを識別し、解析するもの。

 だから……幽鬼レブナントの能力で作られた空間ならば、[ポリアフ]の瞳で全てを見通せる。


 私は、その作られた空間に手を伸ばした。


 すると。


「っ!? 氷室先輩の腕が消えたぞ!?」

「ふふ……加隈さん、正確には、私の腕が別の空間との境目を通過した、ですよ?」


 私は手探りで探し、何か・・に触れた。


「やはり、間違いないですね」


 私はいくつか手繰たぐり寄せて空間の境目からき出す。


「っ! お、俺の……『形見のライター』……!」


 そう叫ぶと、加隈さんは大事そうにそのライターを握りしめた。

 どうやら、加隈さんの大切なもの・・・・・だったみたいですね。


「加隈くん……よかったね……」

「ああ……ああ……っ!」


 ……さあ、他の方の分も回収を……っ!?


 突然、その保管庫に穴が開き、賀茂カズマの幽鬼レブナント……[禍津日神まがつひのかみ]の上半身が姿を現した。


 その表情を、怒りに変えて。


『はう! この泥棒猫め! こうしてやるのです!』


 [禍津日神まがつひのかみ]はその手に持つ二振りの剣を振るい、私に襲い掛かった。


「っ!? 間に合わ……アアアアアアアアアッッッ!?」


 斬撃を受け、私の胸から血があふれ出す。


「氷室先輩!? 【饕餮とうてつ】!」


 立花さんが慌てて[女媧じょか]を召喚し、そのスキルで私の怪我を回復させようとするけど、トドメを刺さんとばかりに[禍津日神まがつひのかみ]が右手の剣を突き出した。


 ああ……望月、さ……「っ! [シン]! みんな! [禍津日神まがつひのかみ]に仕掛けるんだ!」……この声は……望月さんっ!


 おそらく、望月さんは私の危機を察知して、[禍津日神まがつひのかみ]の注意をあちら側・・・・に向けるために、わざと攻撃を仕掛けたんですね……。


 ふふ……望月さんのおかげで、この氷室カズラ、命を拾うことができました……。


「「氷室先輩! 大丈夫ですか……っ!?」」


 立花さんと加隈さんが駆け寄ると、顔を真っ赤にして顔を逸らしてしまった。

 あ……先程の[禍津日神まがつひのかみ]の攻撃で、胸元が開いてしまいましたね。


「そ、その……どうぞ……!」

「ええ、お借りします」


 顔を真っ赤にした立花さんから上着を受け取り、それを羽織って胸元を隠す。


「さあ……残りも全て回収して、急いで向かいましょう。望月さんの元へ!」

「「はい!」」


 私達は残る大切なもの・・・・・を保管庫から全て回収すると、第二十階層を目指して駆け上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る