第335話 可哀想な精霊

「食らえエエエエエエエエ! 【ブラヴァー】!」


 プラーミャの[スヴァローグ]が、巨大なハルバードに紅蓮の炎をまとわせて投てきする。


 氷室先輩がみんなの大切なもの・・・・・の回収に取りかかってから、俺達と賀茂……[禍津日神まがつひのかみ]との戦いはさらに激化していた。


『はう! そんな攻撃当たらないのです!』

「クク……ならばこれはどうだ! 【クロノス】!」

『はうはう! そんなもの……「ホホ、甘いわえ? 【獅子】! 【狛犬】!」……アアモウ!』


 次々とくる波状攻撃に、[禍津日神まがつひのかみ]はいら立ちを隠せない様子だ。


「ハアアアアアアアアアアアアアッッッ!」

『クッ! 【破敵剣はてきのつるぎ】!』

「フフ……【ガーディアン】!」

「もらったッッッ!」

『っ!? 【護身剣ごしんのつるぎ】!』


 サクヤさんの[関聖帝君]が放つ青龍偃月えんげつ刀に対し、[禍津日神まがつひのかみ]はカウンター気味に右手の剣を突き出すが、それも[ペルーン]の 【ガーディアン】によって阻まれる。

 だけど青龍偃月刀もまた、[禍津日神まがつひのかみ]の身体をすり抜けてしまった。


 そして。


『はう! 獲ったのです! 【裂】!』

『あうっ!?』


 よしっ! とうとう一撃を与えることができたぞっ!

 隙を突いて貼り付けた[シン]の呪符が発動した瞬間、俺は思わずガッツポーズをした。


「ふふ! いける、いけるぞ!」

「「エエ!」」


 はは! やっぱり六対一ともなると、さすがの[禍津日神まがつひのかみ]も手数が足らないみたいだな!


「クソッ! クソッ! クソッ! 鬱陶うっとうしい奴等め! [禍津日神まがつひのかみ]! サッサとこのクズ共を片づけちまえ!]

『アアアアアアアッッッ! 【破敵剣はてきのつるぎ】! 【護身剣ごしんのつるぎ】!』


 賀茂がガシガシと髪をきむしりながら指示すると、[禍津日神まがつひのかみ]が二振りの剣を構えて突撃してきた。

 というか、[シン]のモノマネみたいな話し方はやめたのかよ。まあ、さすがにそんな余裕もないか。


「ッ! 【ガーディアン】!」


 [禍津日神まがつひのかみ]のなりふり構わない突進も、[ペルーン]が展開する盾によって阻まれてしまう。


「賀茂……コッチの攻撃はオマエ達に届き始め、逆に[禍津日神まがつひのかみ]の攻撃は通用しなくなった。この意味が分かるよな?」

「…………………………」


 俺は静かにそう告げると、賀茂は忌々し気に俺を睨んだ。

 はは、悔しいよな? あれだけ自分達は最強だのなんだの言っておきながら、俺達にこんなに抑え込まれることになったんだからな。


 だけど……俺は、絶対に容赦はしない。

 でないと、コイツはまた俺の大切なもの・・・・・に手を出そうとするから。


 すると。


「プ」


 突然、賀茂が吹き出す。


「ははははは! 馬鹿じゃねえの? ひょっとして、ちょっと攻撃がかすったり[禍津日神まがつひのかみ]の攻撃が防げたからって、調子に乗ってんの? 舐めるな!」


 腹を抱えて笑い出したかと思うと、賀茂はその顔を歪め、吠えた。


「オイ! お前が真面目にやらないからオレが馬鹿にされただろ! サッサとコイツ等を倒しちまえよ! グズ! ノロマ!」

『っ! わ、分かっているのです!』


 賀茂がわめき散らし、[禍津日神まがつひのかみ]が焦った表情を見せる。

 コイツ……自分の相棒・・に、なんて言い草だよ。


『はう……こうなってくると、少し可哀想に思えてしまうのです……』


 そう呟くと、「シン」がその身体を寄せ、俺に抱きつく。


『[シン]は優しいマスターに出逢えたから幸せですけど、[禍津日神まがつひのかみ]は、あれじゃ道具扱い……ううん、それ以下なのです』

『っ! だ、黙れ! 黙れ黙れ! マスターはこの[禍津日神まがつひのかみだけを・・・愛してくれているのです! オマエのような雑魚に、何が分かるのですッッッ!』


 [シン]の言葉がよほど刺さったのか、[禍津日神まがつひのかみ]は絶叫する。

 まるで、[シン]が言い放った事実から、耳を塞ぐかのように。


「ふむ……確かに[シン]の言う通りだ。主人が違うだけで、こうも扱いにまで差が出るとはな……」


 サクヤさんが、その真紅の瞳に憐憫れんびんたたえ、[禍津日神まがつひのかみ]を見やる。


「フフ……ですけど先輩、それは仕方ありませんワ。だっテ……[シン]の主は、ヨーヘイですもノ」

「フン……マア、こんな精霊ガイストの身代わりになってまで傷つこうとするような精霊ガイスト使いなんて、そうそういないシ」


 そう言うと、サンドラとプラーミャが俺を見つめた。


「ホ……とはいえ、望月は精霊ガイストだけに優しいわけではないがの」

「クク……まあ、だからこそ我のライバルなのだがな」


 今度は土御門さんが扇で口元を隠しながら微笑み、中条がくつくつと笑う。


『マスター……[シン]は、こんなに優しいマスターのおかげで幸せなのですけど、オマエは可哀想なのです……だから、せめてこの[シン]が、オマエを解放してやるのです……!』


 [シン]が、悔しそうに歯噛みする[禍津日神まがつひのかみ]を見据えた。


 その、輝くオニキスの瞳で。


「あああああ! マジでイライラするッッッ! いいぜオマエ等! 全員、コノオレガ、ブチ殺シテヤルウウウウウウウウウッッッ!」

『フザケルナ……フザケルナフザケルナフザケルナ……コノ[禍津日神まがつひのかみ]ヲ……コノワタシヲ、ソンナ目デ見ルナアアアアアアアアッッッ!』

『「「「「「「っ!?」」」」」」』


 一人の精霊ガイスト使いと一体の幽鬼レブナントの叫びが“バベル”領域エリアにこだまし、幽子の渦に包まれた。

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