第60話 放棄

「な、なあ……プラーミャをどこか観光にでも連れて行ってやったりしたほうが良かったんじゃないのか……?」


 “アルカトラズ”領域エリアの第六階層。

 俺は前を歩くプラーミャに聞こえないように、隣のサンドラにそう耳打ちする。


「……ワタクシもそう言ったんですけド、プラーミャがどうしてもこの領域エリアに行きたイ、っテ……」

「ええー……」


 いや、初めて“東方国”にきたんだから、普通は観光したくなるモンだろ。寺とか、神社とか、電気街とか、電気街とか。


「フフフ……食らいなさイ。【フレアランス】」


 プラーミャの精霊ガイスト、[イリヤー]の持つ槍が赤く輝き、目の前の幽鬼レブナントに勢いよく突き刺すと、幽鬼レブナントの全身が炎に包まれ、幽子とマテリアルに変わった。

 なお、この[イリヤー]の外見は、騎士の鎧をまとい、その右手には短槍を、左手にはバックラーを持った中年男性である。だが、[イヴァン]と違ってイケオジでもある。


 というか……初めてこの領域エリアに来たっていうのに、平均レベル六十の幽鬼レブナント相手にここまで無難に戦えるって、ハッキリ言って強すぎだろ。


「ふふ、見事だな」

「イエ、桐崎様に比べればマダマダでス」


 先輩が微笑みながらプラーミャを褒めるが、彼女は表情を崩さないまま謙遜した。

 何というか……双子なのにサンドラと全然性格が違うのな。


「さて……この様子なら第八階層に行っても問題ないとは思うが……念のため、プラーミャの精霊ガイストのステータスを見せてくれるか?」

「エ……? ステータス、ですカ……?」

「ここから先の対策……特に、私達もまだ踏み入れていない第十階層以降のことも考えれば、私達が知っておくに越したことはないと思うが……嫌か?」

「イ、イエ……そういうわけでハ……」


 先輩にそう言われ、プラーミャは少し困ったような表情を見せるが、結局、渋々と言った様子でポーチから何かの端末を取り出した。


「それは?」

「コレは“ガイストアナライザー”といって、精霊ガイストのデータを見るためのものでス」


 先輩の問い掛けに、プラーミャが淡々と説明する。

 というか、俺達が持ってるガイストリーダーと同じようなモンかな。


「コチラが、[イリヤー]のステータスでス」


 俺達はそのガイストアナライザーとやらの画面を見ると。


 —————————————————————

 名前 :イリヤー

 属性 :英雄(♂)

 LV :39

 力  :A+

 魔力 :B

 耐久 :S

 敏捷 :C+

 知力 :D

 運  :C+

 スキル:【絨毯じゅうたん爆撃】【鼓舞】【スヴャトゴル】

【火属性魔法】【火属性無効】【状態異常弱点】

 —————————————————————


 ……うん、サンドラの[イヴァン]みたいに物理一辺倒ってわけじゃないけど、それでも脳筋ステータスであることには変わりないな。何といっても、『知力』が“D”だし。


「ふむ……レベルもそれなりにあるし、ステータスも申し分ない。これならば、さらに先も問題なさそうだな」

「ありがとうございまス」


 先輩の言葉に、プラーミャは軽く頭を下げた……が、すぐに顔を上げ、今度は俺をキッ、と睨んだ。


「ソレデ、桐崎様は良いのですガ、その男こそヤー達と一緒に帯同できる実力はあるのですカ? にわかに信じられませんガ」

「ふふ、だそうだが?」


 すると先輩はどこか嬉しそうに俺に振った。

 [シン]の実力を見せつけろってことですね? 分かります。


「ほら。これが俺の精霊ガイストのステータスだよ」

「コ、コレハ……!?」


 ガイストリーダーを取り出してプラーミャにステータス画面を見せると、彼女は目を白黒させた。

 まあ、レベルも上だし、ステータス……特に『敏捷』に関しては規格外だからな。その反応も頷ける。

 なのに、何でそんな忌々しそうに俺を睨むのでしょうか……。


「ふふ、満足したか?」

「ドウ? スゴイでしょウ?」


 そして、何故か先輩とサンドラがドヤ顔でプラーミャに尋ねた。


「……エエ。とりあえず、精霊ガイストだけは・・・及第点ですネ」


 何だよその『精霊ガイストだけ・・』ってのは。

 ハア……ま、いいか。


 ということで、俺達は次の第八階層に進んだが、そこでもプラーミャは危なげなく幽鬼レブナントを倒していった。

 なので、そのまま第九階層にも進んだんだけど……。


「ちょ!? おま!? まだ俺達が前にいただろうが!」

「アラ? ならお得意の『敏捷』を活かして戻ればよろしいのでハ?」


 と、こんな感じで隙あらばプラーミャの奴が俺を亡き者にしようと画策してきやがる……。

 というか、そんなに俺がサンドラの彼氏(ニセモノ)なのが嫌か。嫌なんだろうな。


「プラーミャ! いい加減にしてくださいまシ!」

「フフ、別に大したことじゃないでショ?」


 見かねたサンドラがプラーミャをたしなめるが、当のプラーミャはどこ吹く風で、肩をすくめてヘラヘラしている。


「……ソレニ、サンドラがそこまで肩入れするほどの男にも見えないけド?」


 コノヤロウ、大きなお世話だ。


「……プラーミャ、また落ち着いた時にでもゆっくり話をしようと思ってましたけド、この際だから今ココでハッキリと言っておきますワ」

「……何かしラ?」

「ワタクシはもう、ルーシには帰りませんワ! この国で、ヨーヘイと添い遂げますノ! ですから、『レイフテンベルクスカヤ家』の継承権も放棄するのですワ!」

「「「はああああああああああああ!?」」」


 プラーミャだけでなく、俺と先輩も一緒になって絶叫した。

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