第59話 プラーミャ=レイフテンベルクスカヤ
「サンドラ!」
「プラーミャ!」
出口からサンドラと同じ顔をした女の子が、笑顔で手を振りながらこちらへと駆けてくる。
サンドラも、その女の子に向かって全力で走っていった。
……あの子がサンドラの妹、“プラーミャ”か。
顔の作りはサンドラと全く同じだけど、髪型はポニーテールにまとめていて、瞳の色も琥珀色をしていた。
何より……絶壁のサンドラとは異なり、プラーミャには先輩に匹敵するほど圧倒的な二つの山脈が存在していた。あ、これは確かに妹のほうがつよつよだわ。
「……! ……! ……!」
「……!? ……! ………!」
うん……当然ながら、二人はルーシ語で話しているため、俺には何を言っているのかさっぱり分からない。
「ふふ……二人共本当に仲が良いんだな」
「先輩!? ひょっとしてルーシ語分かるんですか!?」
「? ああ、日常会話程度だがな」
す、すごい……先輩って、一体どこまでハイスペックなんだよ……!
これが準ラスボスとクソザコモブの差なのか……!
「ア! 紹介するワ! コチラが“桐崎サクヤ”先輩で、コッチが“望月ヨーヘイ”ですワ!」
「あ、は、はじめまして……」
「ふふ、はじめまして」
いきなりサンドラに紹介され、俺は思わずしどろもどろになる。
一方、先輩はといえば余裕の表情で、ス、と右手を差し出した。
「アナタが桐崎先輩なのですネ。サンドラから聞いていまス。ドウゾよろしくお願いしまス」
「こちらこそ」
プラーミャと先輩は、お互いにこやかな表情で握手を交わす。
「あ、改めて、“望月ヨーヘイ”です」
そう言って、俺も先輩に
「フフフ……ヨロシクお願いしまス」
プラーミャは俺の右手をつかみ、握りしめ……って!? 痛い!? 痛いんですけど!?
「……アナタ、
「ヒイイ」
ニタア、と口の端を三日月のように吊り上げて
というか……ひょっとしてプラーミャって、シスコンでヤンデレ?
◇
「では、プラーミャも長旅で疲れているだろうから、ここで解散するとしよう」
「ですね」
俺達四人は駅前まで帰ってくると、先輩がそう告げたので、俺も同意した。
だけど。
「何を言ってますノ。ヨーヘイはワタクシのか、彼氏なのですかラ、ちゃんとワタクシ達をエスコートしてくださいまシ」
「へ?」
顔を赤くしながらそう言い放つサンドラに、俺は思わず気の抜けた返事をしてしまった。
え? 俺、まだ解放してもらえないの?
「フフ……サンドラ、せっかくですからヤーは二人っきりになりたいワ」
「ホ、ホラ、プラーミャもそう言ってるから、今日のところは……「ダメですわヨ」……ハイ……」
くそう、サンドラよ、プラーミャが俺を今にも殺しそうな勢いで睨みつけてるのに気づいてないのか? このままじゃ俺、
「むむ! な、なら私も一緒に行こう!」
おお……! ここで先輩も一緒について来てくれると言ってくれたぞ! さすがに先輩がいれば、プラーミャも俺に何かしたりはしないだろう……だよな?
『マスター、まだ家に帰らないのですか?』
退屈なのか、[シン]がニュ、と現れてそう尋ねてきた。というか[シン]も、周りに人がいても、もはやお構いなしで出てくるなあ。
「ッ!? コ、コレはどういうことですカ!?」
プラーミャは[シン]を指差しながら、目を見開いていた。
まあ、[シン]を初めて見るプラーミャからしたら驚きだろうなあ。
「はは、俺の
「驚いたワ……」
うむ、なんだかチョットだけ見返せたような気がする。気分いい。
「マ、マア、ヨーヘイはちょっと変わってるところありますノ」
おいサンドラ、その言い方はないだろ。
ということで、俺達はサンドラの家へと向かった……んだけど。
「な、なあサンドラ、お前……留学生だよなあ……?」
「? 当たり前ですわヨ?」
だったらなんで、お前はこんなすごい部屋に住んでるんだよ!?
というか、どう見ても俺の家より広いじゃねーかよ! しかもリビング! これだけで俺の部屋の十個分はありそうなんだけど!?
「変なヨーヘイですワ」
そう言うと、サンドラはプラーニャを連れてどこかへ行った。
「ま、まあサンドラもルーシ帝国の名門貴族だからな……そう考えれば、この部屋も納得だろう」
「あははー……ですねー……」
先輩の慰めにも似た言葉に、俺は乾いた笑いしか出てこなかった。
『すごいのです! すごいのです! 広々なのです! マスターの部屋とは大違いなのです!』
コラコラ[シン]、よそ様の家で動き回っちゃいけません。
そして、後で覚えてろよ。
「フフ、お待たせしましたワ」
すると、サンドラとプラーミャがティーセットとお菓子の乗ったワゴンを押しながらリビングへと戻ってきた。
「なあ、サンドラってこんなに広い家に、一人で住んでるのか?」
「? エエ……それが何カ?」
「そっか……いや、いいんだ」
「?」
んだよ……はるばるルーシ帝国から一人っきりでやって来て、知り合いも誰もいないのに実家のプレッシャーとか妹へのコンプレックスに耐えて……なのにいつも気丈に振舞って……。
カッコイイじゃねーか。
「ふふ……相変わらず君は優しいな」
「先輩……?」
見ると、何故か先輩は俺を柔らかい瞳で見つめていた。
まるで、俺が今考えていたことを見透かしているように。
はは……先輩には敵わないなあ……。
「彼女は、これから私達で支えてあげよう。もう君には、その力があるのだから」
「はい……」
先輩の言葉に、俺は静かに頷いていると……今度は、プラーミャが俺に向けて訝し気な視線を送っていた。
「? どうした?」
「イイエ、別ニ」
そう言うと、プラーミャはプイ、と顔を背けた。
それから俺と先輩が帰るまで、俺はプラーミャと視線を合わすことは一度もなかった。
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