第58話 妹、襲来

「ふわあ……おはよう」

「ヨーヘイ! シャキッとなさイ!」


 先輩とデートをした次の日の朝、俺は駅前でサンドラと合流した。

 というのも、これからはるばるルーシ帝国からやって来るサンドラの双子の妹、“プラーミャ”を空港まで迎えに行くためである。もちろん、サンドラの恋人役として。


 で、サンドラはと言えば、水色のノースリーブのワンピースに白のサンダル、肩に麻のストールをまとっていた。うむ、よく分かってるじゃないか。よきよき。


「モウ……ワタクシの彼氏・・なんですから、シッカリするのですワ!」

「待て。彼氏じゃなくて彼氏役・・・、な」

「そ、そうですけド……」


 するとサンドラは、唇を尖らせてプイ、と顔を背けた。

 全く……。


「ワッ!?」

「心配するな。どこまでできるか分からんが、俺もサンドラの彼氏・・として頑張るから」

「あ……フフ……」


 俺は少し乱暴にサンドラの頭を撫でてやると、彼女ははにかみながら目を細めた。


「二人共、待たせたな」

「「先輩! おはようございます!」」

「うむ、おはよう」


 すると先輩は、少し駆け足で俺達の元へと手を振りながらやって来た。

 なお、今日の先輩は昨日の装いとは違い、白のノースリーブのブラウスにデニムジーンズという少しラフな格好だ。うむうむ、これもよき。

 でも、サンドラといい先輩といい、今年の夏はノースリーブが流行ってるのかなあ。好きだからいいんだけど。


「先輩、引率係をお願いしてすいませんですワ」

「ふふ、なあに。構わないさ」


 そう、サンドラは俺に恋人役を頼むだけじゃなく、先輩にも一緒について来てほしいと頼んだのだ。

 というのも、証人がいるほうが説得力があるし、それに学園長の一人娘である先輩ならプラーミャも安心するからという理由らしい。


「さあ、空港に向かおう」

「「はい!」」


 俺達はモノレールに乗り、臨海地区のはずれにある空港へと向かった。


「それで……サンドラの妹って、どんな奴なんだ?」


 俺はおもむろに隣に座るサンドラに尋ねてみる。

 というのも、『まとめサイト』にはプラーミャのことについて詳しく載っていないし、正直情報がなさすぎる。

 ちゃんと真面目にサンドラの恋人役を果たすなら知っておくに越したことはないし、何より……サンドラが闇堕ちしないようにするためにも、詳しく知っておきたいしな。


「フフ……プラーミャはねえ……」


 それからサンドラは、延々とプラーミャについて語ってくれた。

 プラーミャは双子の兄弟ということもあって、いつも仲良しで、明るくて、優しくて、気遣いができて、サンドラに似て美人ということらしい。

 というか、サンドラの話を聞いて思ったが、闇堕ちする要素なくない?


 そしてプラーミャの精霊ガイストの名は[イリヤー]、どうやらステータス的にはサンドラとよく似ているらしく、いわゆる脳筋精霊ガイストということだ。

 とはいえ、それでもサンドラは一度もプラーミャに勝ったことはないらしく、ずっとそのことをコンプレックスに感じているようではある。


 ……よく似てるってんなら、それこそ相性の問題なだけじゃないのか?


「……まあ、いずれにしてもサンドラとプラーミャの仲が良いってことは分かったよ。だったら、わざわざ俺が恋人のフリしなくても、プラーミャに跡を継ぐようにお願いすれば案外受け入れてくれるんじゃないかとも思うんだけど?」

「分かってませんワ! プラーミャはそんなことを受け入れる子じゃありませんノ!」

「お、おう……」


 サンドラに詰め寄られ、俺は思わず仰け反った。


「フウ……まあ、会ってみたら分かりますワ」

「そ、そうだな……って、どうやら着いたみたいだな」


 モノレールの窓から、飛行機の離着陸をする姿が見える。

 ここが“東方国”の東の玄関口である“高原国際空港”だ。


『ムフー! あんな大きなナニカ・・・が空を飛んでるのです! あれは超弩級の精霊ガイストに違いないのです!』


 モノレールの窓から外を眺めながら興奮する[シン]。

 いや、少し落ち着け。


 とりあえず[シン]をなだめ、俺達はモノレールを降りて搭乗者出口へと向かう。


「それで、そのプラーミャは何日くらいコッチに滞在するんだ?」

「一応、八月二十日まで滞在予定ですけド……」

「ゲ……」


 あいたー、そんなに長くいるのかー……。

 そうすると、その間の“アルカトラズ”領域エリアの攻略は、俺と先輩の二人でするしかないかー……。


「フフ……大丈夫よヨーヘイ。“アルカトラズ”領域エリアの攻略には、プラーミャも一緒に来ますワ」

「へ!? ど、どういうこと!?」

「実はプラーミャに[イヴァン]のステータスを教えてあげたラ、どうやって強くなったのか根掘り葉掘り聞かれましたノ。それで“アルカトラズ”領域エリアのことを教えてあげたら、『ヤーも行く!』と言ってはしゃいでましたワ」

「あ、そ、そう……」


 いや、人数多い分には戦力も上がるし悪くはないんだけど……コイツ、俺があくまでも偽の恋人だってこと忘れてるんじゃないのか?


「フフ……ですので、プラーミャにバレないように頑張ってくださいまシ。ヨーヘイ」


 そう言うと、サンドラが嬉しそうにニコリ、と微笑んだ。

 チクショウ、無駄にハードル上げやがって。


 すると。


「サンドラ!」

「プラーミャ!」


 出口からサンドラと同じ顔をした女の子が、笑顔で手を振りながらこちらへと駆けてくる。

 サンドラも、その女の子に向かって全力で走っていった。


 ……あの子がサンドラの妹、“プラーミャ”か。

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