第57話 先輩とのデート
いよいよ七月三十一日。
今日は待ちに待った桐崎先輩とのデートである。
ただし、俺は先輩に『遊びに行こう』としか言っていないので、先輩的にデートって意識はない可能性をあるけど……イヤイヤイヤ、いくら先輩でも、そんなことないよな?
「よっし!」
俺は気合いを入れるため、パシン、と両頬を叩くと。
「行ってきます」
家を出て、先輩との待ち合わせ場所である駅前へと急ぐ。
……といっても、約束の時間は十一時だから、まだ一時間以上余裕はあるんだけど。
「でも、嬉しいんだから早めに向かってしまうのはしょうがないよな」
などと誰に言い訳しているのか分からないような呟きをしながら、駅前にたどり着くと。
「あ……も、望月くん……」
何と、先輩は既に待ち合わせ場所に到着していた。
しかも、今日の先輩のコーデときたらどうだ。
白のノースリーブのサマーニットに黒のタイトなロングスカート、革のアンクルストラップのサンダル、アクセントとして麦わらのカンカン帽をかぶっていた。
なんというか……先輩はスタイルが抜群だから、その……色々と強調され過ぎて目のやり場に困る。いや、もちろん最高ですけど何か?
「すいません先輩! お待たせしてしまいました!」
「ふふ……私も今来たところだし、それに……」
そう言って、先輩はチラリ、と駅前の時計を見やったので俺も見ると、時計は朝十時を指していた。
「で、でも、今日誘ったのは俺のほうですから!」
「い、いや、私が勝手に早く来てしまっただけだから、その……」
うう、モジモジしてる先輩は超可愛いが、このままじゃ気まずいなあ……。
「で、でも!」
「でも……?」
「その……一時間も早く先輩を見れて、少しラッキーです。それに、今日の先輩の服装、すごく似合っていて本当に綺麗です」
「あう!? ま、また君はそんなことを……だが、ありがとう……」
先輩は顔を真っ赤にし、帽子の
でも、口元は最高にゆるっゆるである。
「あはは……じゃ、じゃあ行きましょうか」
「う、うむ。それで、今日はどこに遊びに行くんだ?」
「それは……」
ということで
「うわあああ……」
俺と先輩は、高層の商業ビルの最上階にある水族館に来ていた。
夏だし水族館だったら涼しいかなーと思ったのと、その場所が先輩にすごく映えるんじゃないかと感じたからのチョイスだ。
といっても、スマホでメッチャ調べたけど。
で、先輩は気に入ってくれたようで、今もたくさんの小さな魚が群れで泳いでいる水槽を眺めながら真紅の瞳をキラキラさせている。
「先輩は、魚が好きなんですか?」
「ん? ああ、もちろん嫌いじゃないが、さすがにこの幻想的な光景は感動するな」
「あはは、喜んでくれて何よりです」
「そ、そんなの当然じゃないか……だって、君が誘ってくれたんだから……」
「っ!?」
先輩が頬を染めてはにかみながら、そっと目を逸らす。
せ、先輩……そんな言葉と仕草、反則ですよ……というか尊い。ひたすら尊い。
「あ、む、向こうはペンギンがいるみたいだぞ! 早く行こう!」
「は、はい!」
先輩は少し恥ずかしかったのか、話題を逸らすように僕の手を引いてペンギンがいるエリアへと移動した。
◇
「ふふ、楽しかったな!」
「はい!」
水族館を全て見て回り、俺達は水族館と同じビル内にあるカフェで食事をとることにした。
「先輩はどの魚が一番好きでした?」
「ペンギン」
アレ? 俺は今、確かに『魚』って聞いたよな?
「ええと先輩、魚の中でどれが一番好きでしたか?」
「ペンギンだ」
あ、ハイ。先輩はペンギンが好きなんですね。分かりました。
「ふふ……あの中の一匹くらい、家に連れて帰って飼いたいな……」
「そ、そうですかー……」
多分ペンギンのことを思い出しているんだろう。先輩はボーッとしてはクスクスと笑っている。
そして、こんな先輩を超可愛いと思いながら眺めている自分がいるわけで。
はは……幸せだな……。
「お待たせしました」
するとカフェの店員さんが、注文していた今日のランチプレートを運んできてくれた。
そして……先輩が俺のプレートをメッチャ見ている……。
「……先輩はミートボールが好きなんですか?」
「っ! う、うむ……その……」
俺は何も言わず、ス、と先輩の前にプレートを差し出すと。
「い、いいのか?」
「……(コクリ)」
すると先輩は、ぱあ、と笑顔を浮かべ、早速フォークでミートボールを突き刺した。
そして、その口の中へと運ぶと。
「! お、美味しい……!」
「あはは、良かったです」
はは、先輩は本当に美味そうに食べるよなあ……。
結局俺は、そんな先輩を見ているのが楽しくて、しきりに先輩に勧めては喜ぶ先輩を眺めていた。
◇
「いやあ、楽しかったなあ……!」
カフェを出た後も、先輩とビル内でウインドウショッピングを楽しんでいた俺達だったが、時間が過ぎるのはあっという間で、時刻はもう夕方五時を迎えていた。
「あはは。先輩、今日はありがとうございました!」
「何を言う。お礼を言うのは私のほうだ。本当にありがとう」
ビルの屋上にある展望台で、夕陽に照らされた先輩がニコリ、と微笑んだ。
その姿は、胸がギュ、と苦しくなるほど綺麗で……。
「ふふ、それに……」
「それに?」
「今日誘ってくれたのは、その……一昨日、私が落ち込んでいたからだろう?」
そう言うと、先輩が少し苦笑した。
だけど、どうやら少しだけ先輩は勘違いしているみたいだ。
「あはは、確かに一昨日の先輩が気になったことは否定しませんけど、俺が今日誘ったのとはあまり関係ないですよ」
「じゃあ……どうして、私を誘ってくれたんだ……?」
先輩は上目遣いでおずおずと尋ねる。
その真紅の瞳は、何かを期待するような、それでいて、どこか不安そうな、そんな色をしていた。
「決まっています。俺が先輩とこうやって一緒に遊びたかったからです。その……二人っきりで」
「っ! ……ふふ、そうか。ありがとう」
そう答えると、先輩は少しはにかんで、俺の隣にきた。
そして……そっと、俺の肩にもたれかかった。
「そ、その……ほんの少しだけでいいから、このまま……」
「あはは、少しなんて言わずに、いつまででもいいですよ?」
「あう……ふふ、君は優しいが少し意地悪だな……」
そうしてしばらくの間、俺と先輩はビルから見える夕陽を眺めていた。
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