第56話 デートのお誘い

「ふう……」


 先輩達と別れ、家に帰ってきた俺は部屋に入るなりベッドに寝転がって息を吐いた。

 で、おもむろにスマホを取り出し、RINEアプリを立ち上げる。


「さて……うう、緊張するなあ……」


 スマホ画面に表示されている連絡先とにらめっこしながら、約三十分が経過。

 く、くそう……躊躇ちゅうちょしてどうするんだよ! 覚悟を決めろ! 俺!


『マスター、さっきからスマホの画面をジーッと見てどうしたのです?』

「うわっ!?」


 突然、ニュ、と俺の視界に[シン]が現れ、俺は驚きの声を上げた。


「お、驚かすなよ……危うく通話ボタンにタップするところだったじゃねーか……」

『? どこかに電話するのです?』

「お、おう……」


 コテン、と首をかしげる[シン]に、俺は曖昧な返事をすると、またスマホの画面とにらめっこを再開する。

 で、でも……このままじゃらちが明かない……!


「よ、よっし!」


 俺は気合いを入れるため、両頬をパシン、と叩く。

 で、深呼吸を数回繰り返すと……通話ボタンをタップした。


 ――プルルルル……ガチャ。


『もしもし』

「あ……もしもし、先輩ですか?」

『ふふ……私の電話に掛けておいて、そう尋ねるのもおかしなものだぞ?』

「あ、あははー……」


 電話越しの桐崎先輩の言葉に、俺は思わず苦笑する。

 はあ……先輩の声を聞いているだけで癒されるなあ……。


『それで、わざわざ電話を掛けてきてどうしたのだ?』

「あー、そのー……」

『?』


 オイオイ、ちゃんと言えよ俺。

 そのために、覚悟決めて電話したんだろうが。


「そ、その! 明後日の七月三十一日、ですけど……」

『ああ、確か望月くんは予定があるんだったか? ふふ……その日は君に逢えないのは残念だが、予定があるなら仕方ない、な……』


 電話の向こうから、先輩の寂しそうな声が聞こえてくる。


「……それ、実は嘘なんです」

『嘘? そ、それはどういうことなんだ……?』


 先輩は少し語気を強めて尋ねてきた。

 さあ……ちゃんと伝えよう。


「そ、それで……その……もしよかったら、その日……お、俺と、遊びに行きませんか?」

『あう!? あ、遊びにだと!?』

「はい……!」


 よ、よし! 言った! 言ったぞ!

 

『そ、それは、サンドラを含めた三人で、ということか……?』

「ち、違います! そ、その……俺と、先輩の二人で……」

『っ!?』


 電話越しに先輩が息を飲み、しばらく沈黙が続く。

 ど、どうだ……? こ、断られたりしたら、多分俺、しばらく恥ずかしさで先輩の顔を見れない自信があるぞ。


『…………………………うん』

「っ! ほ、本当ですか!」


 先輩の消え入りそうな声で了解の返事が返ってきた!


『だ、だけど……その……わ、私なんかで良いのか? こ、こう言っては何だが、わ、私はあまり、そういったことは得意では、ない……ぞ?』

「何言ってるんですか! 俺は先輩がいいんです! 先輩と一緒に遊びたいんですよ!」

『あうあうあうあうあうあうあうあうあうっ!?』


 先輩が珍しく自分を否定するようなことを言ったので、俺は気づけばスマホに向かって訴えていた。全く……先輩は変なところで自分を卑下ひげするところがあるから困ったもんだ


「それじゃ、俺が先輩と遊びに行く場所考えておきますので……そ、その、よろしくお願いします……!」

『あ……ふふ、こちらこそ』

「では、これで失礼しますね」

『あ、う、うむ……その、ありがとう……』

「何言ってるんですか。お礼をいうのは俺のほうなんですからね!」

「あう……う、うん……」


 俺は通話終了のボタンをタップすると。


「よっしゃあああああああああ!」

『はうはうはうはうはう!?』


 部屋の天井に向かって高々と拳を突き上げ、大声で叫んだ。

 やったぞ! 先輩とデートだ!


「フフフ……軍資金は幽鬼レブナントを倒して手に入れたマテリアルが大量にあるからなんの心配もないし、あとはデートプランをバッチリ練って……」

『はう! マスター、桐姉さまとデートなのですか!』

「おう!」


 尋ねる[シン]に、俺はビシッと親指を突き立てた。


『はう! すごいのです! デートなのです!』

「おう! デートだ! すごいのだ!」

『ところで……デートって何なのです?』


 ◇


 七月三十日、“アルカトラズ”領域エリアの第九階層。

 今、俺とサンドラはすごいものを目撃している。


「はああああああああああああッッッ!」


 ――斬ッッッ!


 先輩の[関聖帝君]は、現れる幽鬼レブナントを片っ端から斬り伏せていた。

 いやコレ、すさまじ過ぎるだろ。


「ふむ……今日はすこぶる調子がいい! この勢いなら、今日中にこの領域エリアを踏破することも可能だな!」

「「イヤイヤイヤイヤ」」


 俺とサンドラは無表情で手を左右に振りながらツッコミを入れる。

 先輩は嬉しそうにそう言うが、現実的に無理ですから。


「トコロで……先輩、何かいいことでもあったんですノ?」

「ななななな!? べべ、別に何もないぞ!? な、なあ、望月くん!」

「うえ!?」


 先輩、何ですかその返し方は。これじゃまるで、先輩のいいこと・・・・ってやつに俺が絡んでるって言ってるようなモンじゃないですか……。


「ハハーン……さては! 二人でコッソリデートでもするつもりですのネ!」

「「っ!?」」


 サンドラの口から放たれた一言に、俺と先輩は思わず息を飲んだ。というかサンドラ、鋭すぎるだろ。

 で、先輩に至っては、恥ずかしさからなのか耳まで真っ赤になってるし……先輩、絶対に嘘がつけないタイプだなあ……。


「ナーンテ、そんなことあるはずがありませんワ」

「むむ、それはどういう意味だ?」


 サンドラがおどけながら肩をすくめてそう言うと、先輩は何故かサンドラに絡んでいった。

 何ですか? 先輩は一体どうしたいんですか?


「だって、この朴念仁がそんなこと意識してできるわけありませんもノ」

「……むむ」


 サンドラと先輩がこちらを見やりながら、ハア、と深い溜息を吐いた。

 というか、失礼だなオイ。


 それに……今回は俺からデートに誘ったっていうのに、何で先輩まで一緒に溜息吐いてるんですか……。


 そんなある意味残念な先輩を見やると、俺も深い溜息を吐いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る