第327話 それぞれの戦い①

■土御門シキ視点


「ホ、ホホ……もう終わりかえ?」


 望月達を送り出した後、わらわは賀茂に付き従う九人の者共と交戦しておるが……クラスチェンジをしたとはいえ、やはりこの人数差はこたえるの……。


 じゃが。


「「「ク……ッ!」」」


 六人は既に打倒し、残るは三人。

 こうなれば、此奴等こやつらの実力からして、余程のことがない限りわらわが負けることはないじゃろう。


「どうして!? 私達はレベルも八十、クラスチェンジだってしているのよ!? なのに、なんでこんな奴一人に、こんなに手こずるのよ!」


 納得できないのか、女子生徒の一人がわめき散らしておるわ。


「ホホ……レベルに関して言うのなら、わらわの[吉備真備きびのまきび]も八十以上じゃ。となれば、精霊ガイストの元々のスペックが違うのじゃろうのう?」


 わらわは扇で口元を隠しながら、クスクスと笑う。

 ただでさえ頭に血が昇っておるのじゃ。わらわのこのような態度は、さぞ屈辱じゃろうて。


「フザケんじゃないわよ! 二人共、行くわよ!」

「「ええ!」」


 とうとうキレた此奴等こやつらは、各々おのおのの最強のスキルで襲い掛かってきた。

 ならば……これで決着をつけようぞ!


「ホ! 【聳狐しょうこ】! 【炎駒えんく】! 【索冥さくめい】! 【角端かくたん】! 【黄麟きりん】!」


 [吉備真備きびのまきび]がしゅを唱えるように唇を動かしながら、二本の指で素早く五芒星の印を切ると、紙片が五色の霊獣へと変わる。


 そして。


「さあ! 全て蹴散らしてしまうのじゃ!」

『『『『『クオオオオオオオオオオンッッッ!』』』』』


 五体の【式神使】が、彼奴等あやつら精霊ガイストへと向かって行く。


「キャ!? な、何なのよコイツ!?」

「ア、アッチ行け!」

「こ、来ないで!」


 三人が、にじり寄る【式神使】を追い払うように、各々の精霊ガイストが武器を振るうが……そのような腰の引いた攻撃なぞ、まるで話にならぬえ?


 そして……五体の【式神使】は一斉に精霊ガイストに飛びかかると、角を、牙を、爪を突き立て、えぐり、裂いていった。


「ヒ、ヒイ!? 痛い!? 痛い!?」

「イヤアアアアアアアッッッ!?」

「ギャ!? ヒッ!?」


 精霊ガイストと痛みを共有する三人は悲鳴を上げ、床にのたうち回る。

 ホホ、その痛みは想像を絶することじゃろうのう?


 なにせ、五体の【式神使】の攻撃は、ただただ敵に苦痛を与える仕様なのじゃから。


「ホ……それで、どうするのじゃ? このまま、その身が骨と化すまで耐えるつもりかの?」

「「「ヒイイ!? お願い止めて!? 助けて!?」」」

「ホホホホホ! どうしてやろうかのう!」


 わらわはわざと高笑いをし、聞く耳をもたぬふり・・をした。

 此奴等こやつらは、あの賀茂カズマに弱みを握られておったとはいえ、それでも、悪事を働いたことは事実じゃ。


 それに……もしここで甘い顔をすれば、万が一にも、望月に……わらわの大切な人に、危害を加えるやもしれん。


 ならば。


「ホホ……では即刻この領域エリアから立ち去り、全てを洗いざらい告白するのじゃ。さすれば、今回は見逃してやる。そして」


 彼女達を見回した後、すう、と息を吸うと。


「後はわらわ達が……望月ヨーヘイが、お主達の大切なもの・・・・・とやらを取り返してみせようぞ」

「「「「「っ! ほ、本当に!?」」」」」


 倒れている者も含め、全員の瞳に希望の光が宿る。

 ホホ……全く、現金な連中じゃの。


 じゃが……甘い。


「ただし……今言ったことを守らねば、その時はお主達の大切なもの・・・・・は、永遠に戻ってこぬと知れ」

「「「っ! わ、分かった!」」」


 ホ、これで此奴等こやつら終わったの・・・・・

 もう、会うこともないじゃろうて。


「ホホ、じゃから……お主達は外に出て、真っ直ぐ学園へと向かうのじゃ!」


 そう言い残し、わらわはきびすを返して彼女達から離れる。


 さて……勝手なことを言ってしもうたが、まあ、大丈夫じゃろ。

 とはいえ、あのお節介でお人好しな望月ヨーヘイのことじゃ。なんだかんだで、此奴等こやつらを助けてしまうかもしれんがの。


 なにせ、このわらわをも救ってしまうような男なのじゃから。


「ホホ……[吉備真備きびのまきび]、わらわ達はこれから、あの男の……望月ヨーヘイの、となるのじゃ。望月を、守るために」

『(コクリ!)』


 わらわの言葉に、[吉備真備きびのまきび]が真剣な表情で頷く。


「ホ……ならば、わらわも望月に合流するとするかえ」


 そう言ってクスクスと笑いながら、わらわは次の階層へと繋がる階段に足を踏み入れた。

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