第367話 後半に向けて

■???視点


「ふう……今日も疲れたなあ……」


 領域エリアでのレベル上げのノルマをこなした後、『  』は部屋に戻ってベッドの上に寝転がる。


 いや、というかちょっと『  』をこき使い過ぎじゃないか?

『  』だって色々とやることあるんだし、指示されたことだけやってるわけにもいかないんだけど。


 それに。


「全く……アイツもアイツで、今まで何やってたんだよ……クリスマスに会った時から、全然変わってないじゃないか……」


 そう、今日は久しぶりに一緒に領域エリア攻略に行ったが、成長の後は見られず、レベルも九十のままだった。

 せめて『  』と会うまでに、レベルカンストくらいしといてほしいんだけど。


「ま……そういう『  』も、まだレベル八十七なんだけどな」

『は、はうう……』


 そう言ってジロリ、と見やると、[  ]は申し訳なさそうにうつむいてしまった。


「はは、馬鹿だなあ……今のは別に、お前を責めてるわけじゃないぞ? 『  』は、お前とのレベル上げの時間が充分に取れないことにイラついてんの」

『はう! よ、よかったのです……』


 はは、本当に可愛い精霊ガイストだな。

 正直、こんな『  』にはもったいないくらいだ。


『はうはう! それで、これからどうするのですか?』

「んー……とにかく、『  』達が本格的に動くことになるのは四月以降……つまり、上の学年に進級してからだな。それまでは、とにかく[  ]のレベルを上げて強くなっておかないと」


 そう……『ガイスト×レブナント』の物語の後半となる四月以降こそ、『  』達がいよいよ動く番だ。

 絶対にあの人・・・を救って、最高のクリスマスを迎えるために。


 とはいえ。


「……正直、惜しいといえば惜しいんだよなあ」


『  』は天井を見上げながら、ポツリ、と呟く。

 いや、できれば『  』も、彼女も救いたい。


 けど、『  』が目指すのはクリスマスのその後……つまり、『ガイスト×レブナント』のエンディング後の未来だ。

 正直、ゲーム本編をいくらいじったところで、このクソゲーを司る、いわゆる“神”に敵うわけがないんだから。


 だけど……ゲームの枠外・・・・・・なら、その“神”の範疇はんちゅうじゃない。

 つまりゲームさえクリアしちまえば、あとはキャラのご自由に、ということだ。


 だからこそ……あの“神”も、こんな無茶なオーダー・・・・・・・を受け入れやがったんだからな。


『はう……マスターは、またあの女・・・のことを考えていたのですか?』


 嫉妬にかられた[  ]が、ジト目で『  』を睨んできやがる……。


「ハア……ほら、おいで」


 そう言って手招きすると、[  ]は相変わらず何か言いたそうな視線を向けるが、それでも、俺の腕の中へとやってきた。


「お前は、この『  』の大切な相棒だ。それは分かるな?」

『はう……』

「この『  』が他の女に恋慕していることが気に入らないことも分かる。だけど……アイツはともかく、あの女性ひとだけは特別なんだ。それこそ……この『  』の全てを差し出してもよいほどに」

『っ!? マスター!?』

「はは……まあ聞いてくれ。そうは言ったが、『  』だって傷ついたり、ましてや死んだりするなんてゴメンだ。そんなことになったら、それこそ全部無意味になっちまうだろ」


 慌てる[  ]を落ち着かせ、俺は耳元で諭すようにそうささやく。


「……大体、『  』がお前を傷つけてしまうようなこと、するわけがない」

『マスター……』


 そう……『  』は、あの賀茂の馬鹿とは違う。


 アイツは自分のたった一人の精霊ガイストを、あろうことか闇堕ちエンドにだけ登場する、最悪の幽鬼レブナントに変質させやがった。


 どうやってそんな真似ができたのか今でも気になるところだが、それ以上にアイツ、ちゃんと『攻略サイト』をシッカリ見とけよなあ……。


 そうすれば、精霊ガイスト使いと精霊ガイストとのリンクが切れて、幽鬼レブナントに成り下がった元相棒・・・に消されるラストだったことに気づくはずなのに。


「……そうは言っても、あの精霊ガイストは最後までマスターに尽くそうとしたんだ。結局は、精霊ガイスト使いとしては幸せだったかもな」


 まあ、人としては最悪だけどな。

 この……『  』みたいに。


 その時。


 ――ピリリリリリリ。


 スマホが鳴り、画面を見てみると……相手は木崎セシルだった。


「……もしもし」

『あ……『  』様……』


 電話の向こう側から、遠慮がちな木崎セシルの声が聞こえた。

 はは……多分、今日の領域エリア攻略に関しての謝罪だろう。


「あー……先に言っとくけど、今日の件については別に謝る必要はないからな」

『っ!? で、ですがっ!?』


 罪悪感からか、木崎セシルは納得ができないようだ。


「はは……こんなくだらないこと、いちいち気にするな。それよりも、春からは・・・・一緒に過ごすことになるんだ。そこから、色々とやってもらわなきゃならないことがあるんだからな」

『! は、はい!』


 まあ、こうやってちゃんと次の仕事があるってことを示してやれば、まだ・・『  』が必要としていることが理解できるからな。相変わらずチョロイ。


「何なら、春からは一緒に暮らすか?」

『い、いいんですか……?』

「もちろん。『  』は、愛するセシルと一緒に過ごしたい」

『……私もです。ずっと……ずっと、あなたの傍にいたい……』


 オイオイ、木崎セシルの奴、感極まって泣き出しやがったぞ。

 クソ女のくせに、キモチワルイな。


「まあ、そういうことだから……セシル、そろそろ切るぞ」

『は、はい! お疲れのところ、すいませんでした!』

「いや、『  』もセシルの声を聞けて嬉しかったよ」

『はい……』


 そして、木崎セシルとの通話を終えると。


『マスター……あの女と一緒に暮らすなんて、聞いてないのです……』


 頬をプクー、と膨らませた[  ]が、『  』を睨みつけていた。


「ま、まあまあ……それも、次のクリスマスまでだから……」


 そう言って必死になだめ、ようやく[  ]は機嫌が直った。


「さあて……コッチも色々と準備が整った。いよいよ面白くなってきたぞ」


 あの人・・・からの指示通り、必要なものはとりあえず揃った。

 あとは……行動に移すだけ。


『  』さん……この『  』が、あなたを必ず救ってみせますからね……!

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