第366話 バレンタインデー④
「ふう……」
“ぱらいそ”
『はうはう! マスターのチョコも、藤姉さまの分で打ち止めなのです!』
「いや、言い方」
でも……チョコをもらうのも初めてながら、こんなにたくさんもらえるなんてなあ……いや、マジで嬉しい。
本来だったら、クソザコモブの俺はチョコどころか声すらかけてもらえない底辺ボッチな日々を過ごすはずだったんだから、境遇が完全に逆転したよなあ。
『はう! もし[シン]がもらうのなら、チョコはチョコでもチョコアイスがいいのです!』
「だろうな。知ってる」
などとぱたぱたとはしゃぐ[シン]にツッコミを入れながら待っていると。
「あ……」
向こうのほうから、サクヤさんが歩いてきた。
「サクヤさーん!」
当然俺は、サクヤさんの元に駆け寄る。
「ふふ……そんなに慌てて走ると、転んでしまうぞ?」
「はは、その時はサクヤさんに手当てしてもらうから、むしろご褒美ですね」
「あう!? もも、もう!」
顔を赤くしながら、照れ隠しとばかりにポカポカと俺を叩くサクヤさん。
いや、メッチャ可愛いんだけど。
「そ、それで……」
「あ、そうだったな……」
サクヤさんはカバンの中から、綺麗にラッピングされた箱を取り出す。
「そ、その……カナエさんに教わって、私が作ってみたのだが……」
『「っ!?」』
その言葉に、俺と[シン]に戦慄が走る。
できれば市販のチョコに
「あ、ありがとうございます……!」
俺は振り絞るように声を出して礼を言うと、おそるおそるチョコを受け取る。
「そ、それで……もしよかったら、ヨーヘイくんがチョコを食べるところを、み、見てみたい……」
『「っ!?」』
な、なにいッッッ!?
この俺は、膝をついて前のめりに倒れることすら許されないというんですか!?
『は……はう……シ、[シン]にもダメージがくる、のですか……?』
チョコの箱を凝視しながら、[シン]が今にも泣きそうな表情を浮かべる。だけど……すまん、耐えてくれ!
俺はゆっくりとリボンに手をかけ、紐解いていく。
包装も丁寧に取り除き、箱をを空けると……い、今のところ、見た目は普通、だな……。
「さ、さあ! 食べてみてくれ……!」
うう……サクヤさんが、期待と不安に満ちた表情で俺を見つめてくる……。
「い、いきます……!」
俺はチョコを一粒つまみ、それを口の中へと運ぶ。
そして、ゆっくりと
「う、美味い……」
「ほ、本当か!」
俺のその一言に、サクヤさんがぱあ、と顔を
いや、チョコの味としては普通の部類に入るとは思うんだけど、予想していた味が味だから、振れ幅が大きいせいでメッチャ美味く感じるんだけど。
「いや、本当に美味しいですよ! これ、サクヤさんが作ったんですよね!」
「う、うん! カナエさんに見守ってもらいながら、頑張って作ったんだ!」
そうか……カナエさん、つきっきりで
「はは! 本当に美味いですよ! ホラ、先輩も!」
そう言ってチョコを一粒つまむと、先輩の口元へ差し出す。
「あ、う、うん…………………………はむ」
恥ずかしそうにしながら、サクヤさんは俺の指からついばむようにしながらチョコを口に含んだ。
こ、これは……ヤバイ、メッチャドキドキする……というかサクヤさん可愛い。
「ふふ……確かに君の言う通り、我ながら美味しくできたな……」
「ええ! で、でしたらもう一つ……」
「ん……はむ」
二回目で慣れたのか、サクヤさんは今度はすぐに口に入れた。
だけど……サクヤさんの唇が、俺の指に触れた……うん、今日は洗わない。ゼッタイ。
「ふふ……全く、これでは私に食べさせるばかりで、君が食べてないじゃないか」
「あ、あははー……」
だって、こうやってサクヤさんに食べさせるの、その……俺にとって最高のご褒美なので。
「な、ならお返しだ」
そう言うと、今度はサクヤさんがチョコをつまみ、俺の口へと運ぶ。
「はむ……もぐ……うん、美味い!」
俺はパクリ、と口に入れるてそう言うと……アレ? サクヤさん、自分の指をジッと見つめてどうしたんだろう……。
すると。
――パク。
ええええええええええ!?
なんと、サクヤさんはあろうことか、自分の人差し指をくわえてしまった!?
「ん? あ、ああ……指にチョコがついてしまったのでな」
俺は、サクヤさんが口からちゅぽん、と抜いた、濡れた人差し指に釘付けになる。
「ふふ、では次だ」
そう言って、サクヤさんはその人差し指でチョコをつまみ、さっきと同じように俺の口へと運ぶ。
うう……サクヤさん、無自覚が過ぎる……!
結局、俺はそんなサクヤさんにドキドキしながら、一緒にチョコを食べさせ合った。
◇
「ただいまー」
サクヤさんとの心臓の悪いバレンタインチョコの食べ合いを終え、家に帰ってくると。
「あらあら、そういえばヨーヘイに荷物が届いていたわよ」
「荷物?」
ウーン、別にネットで何か注文した記憶もないし、一体何だろう……。
俺はテーブルに乗っているその荷物の宛先を見てみる。
「あ……」
送り主は、なんと悠木だった。
ということは……。
早速箱を開封して中を見てみると……案の定、バレンタインのチョコだった。
「はは……それじゃ、悠木にお礼を言わないと、だな」
俺は口元を緩めながら届いたチョコを持って自分の部屋に向かい、しばらくの間悠木と電話した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます