第156話 執事姿に食いつく二人
信任投票と、二人の先輩が存分に語り合った次の日。
とうとう待ちに待った学園祭だ。
「えへへ、楽しみだね!」
隣を歩く立花が、そう言ってはにかむ。
「ああ、そうだな。執事喫茶さえなければ」
「そ、そんなことないよ! ボク、望月くんの執事姿、楽しみにしてるんだからね!」
立花はズイ、と詰め寄り、その中性的な顔を近づける。
もう慣れたから平常心を保てるが、初対面でこんな真似されたら、俺は間違いを犯すかもしれん。
「だけどさあ……立花はいいよ? メッチャ需要あるし。俺や他の奴からしたら、結局は誰からも指名されないまま、教室の隅でオブジェになる未来しかないんだけど」
「加隈くんじゃあるまいし、キミに限っては絶対にそんなことないから!」
立花よ、俺に気を遣ってくれるのは嬉しいが、あえてここで加隈を引き合いに出してヒドイことを言うのな。
「お! ナニナニ? この俺の噂なんかしちゃってるワケ?」
などと後ろからやって来た加隈が俺と立花の間に割り込み、ガシッと肩を組んで来やがった。
だけど、お前が立花と肩を組む時、その手をワキワキとさせてたのをちゃんと見てるからな?
「モウ! 加隈くんには関係ないよ!」
「ええー……そんな冷たいこと言うなよ……」
そして途端に不機嫌になった立花がプイ、と顔を背けると、加隈は泣きそうな表情をしながら肩を落とした。
まあ、そろそろ
「チェ……二人共冷てーなー……」
いや加隈よ、お前が拗ねたところで需要はないからな。
そんな感じで歩きながら、俺達はいつもの十字路に差し掛かると。
「ふふ……望月くん、みんな、おはよう」
「「「おはようございます!」」」
いつものように俺を待っていてくれた桐崎先輩は、俺達を見るとニコリ、と微笑んだ。
うむうむ、この笑顔を見ないと俺の一日が始まらない。
「と、ところで立花……今日の学園祭、その……お、俺と一緒に、回らない、か……?」
先輩とも合流して学園へと向かう途中、加隈は頬を赤らめた加隈の奴が上目遣いでおずおずと切り出した。
……コイツにはもう、何も言うまい。
「い、嫌だよ! それにボクは、望月くんと一緒に回るんだから! ね!」
鼻息荒く、そのエメラルドのような瞳をキラキラさせながら、立花はグイグイと詰め寄って来る。
だけど。
「あー……悪い、立花。執事喫茶のシフトの空き時間は、俺とサンドラは生徒会の仕事があるんだよ……」
「えええええええええ!?」
立花は驚きの声を上げ、あからさまにガッカリした様子を見せる。
でも、生徒会は四人しかいないし、シフト組んで隙間の時間を作れるほど余裕はないんだよ。
それに……生徒会としての仕事なら、合法的に先輩と二人っきりで回れるのだ。なので、絶対に生徒会を最優先にする所存。
「うう……望月くんと一緒の学園祭、すごく楽しみいしてたのに……」
「だ、だったら俺と……「それはイヤ!」……うう、泣きそう」
そんな立花と加隈の落ち込んだ背中を眺めながら、俺達は学園へと向かった。
◇
「うあー……やっぱり似合わねー……」
俺は執事が着るような衣装に身を包み、思わず変な声を上げる。
というか俺、完全に衣装に負けちまってるじゃねーか……。
「そ、そんなことないよ! それより、その姿を写真に撮らせて!」
何故か興奮した様子の立花が、スマホを構えて撮影し出した。俺、まだ許可を出してないのに。
すると、別の場所で同じく衣装を着替えていた女子達が教室に戻ってきた……んだけど、サンドラとプラーミャ、超似合ってる!
「サンドラ! なんだよスゲー似合ってるじゃん!」
「フエ……ヨ、ヨーヘイ……」
俺はサンドラの元に駆け寄って、絶賛するんだけど……サンドラの奴、なんでそんなに顔を真っ赤にしてるんだ?
執事姿を褒められて、照れてるのかなあ……。
「ネ、ネエ、ヨーヘイ……ソノ……」
サンドラは、おずおずと俺を指差した。
多分、執事姿がイマイチなんだろう。うん、俺もそう思ってるよ。
「はは……似合わないだろ?」
そう言って苦笑しながら頭を
「ソ、ソノ……期待以上ですワ……」
「はは、お世辞でも嬉しいよ」
「お、お世辞なんかじゃないですワ! ぜ、ぜひその姿を撮影させてくださいまシ!」
「うお!?」
今度はサンドラに詰め寄られ、俺は思わずたじろぐ。
というかサンドラ、近い! 鼻息が荒い! そして、可愛すぎるぞチクショウ!
その後、俺をスマホで何枚も撮影し、サンドラは少し下品な笑い方をしてはスマホの画面を眺め続けていた。
そして朝の十時になり、二日間に及ぶ学園祭がいよいよ幕を開けた。
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