第330話 マガツヒノカミ

 賀茂カズマ、そして[禍津日神まがつひのかみ]との戦闘を開始して数分が経過し、今もその攻防が続いているが……。


「クソッ! [シン]!」

『はうはう! 【堅……っ!?】』


 呪符を展開して防御しているはずなのに、[禍津日神まがつひのかみ]の剣がすり抜け、[シン]へと襲い掛かる。


『はう! 【神行法・瞬】!』


 間一髪、[シン]はその場を離れ、[禍津日神まがつひのかみ]の攻撃をかわした。


「チクショウ! さっきから攻撃も防御も、何も通用しねえ!」

「ク……ッ! 【ツァーンラート】!」


 中条は苦し紛れに【ツァーンラート】を放つが、コッチもまた[禍津日神まがつひのかみ]の身体をすり抜けてしまい、ダメージを与えることができない。


「クク……ッ! これではまるで相手にならんッ!」

「ははははは! オイオイ、最初の威勢はどうしたんだよ!」


 俺と中条が距離を取ると、賀茂が嘲笑ちょうしょうを浮かべる。

 あのツラはムカツクが、たしかにこのままじゃジリ貧だ……。


 さて……どうする……?


「クク……ならば、奴がおかしな真似をしようが、それ自体を・・・・・無効化する・・・・・ほかあるまい!」

「あ! オイ!」


 飛び出す中条を制止しようとするが、そんなものお構いなしに賀茂に飛び込んでいった。

 だけど……中条の言う通り、[デウス・エクス・マキナ]のチートスキルに賭けるしかない、か……。


「はは! 何だよ、ひょっとして【クロノス】で攻撃したら、[禍津日神まがつひのかみ]のスキルを無効化できるとでも考えてるのか? 浅はかだな、オイ!」

「っ!? 貴様、何故【クロノス】を知っている!」

「そんなの、あそこにいるクソザコモブ・・・・・・に聞いてみろよ!」

「クッ! 食らえ! 【クロノス】!」


 中条は賀茂の言葉を無視し、【クロノス】を放つ。

 すると、まばたきをする間もなく、無数の金属の歯車が[禍津日神まがつひのかみ]のほんの数ミリの位置に突然現れ、一斉に襲い掛かった。


 だけど。


「っ!? なあっ!?」


 中条が驚きの声を上げるが、それも仕方がない。

 だって……あれだけあった歯車が[禍津日神まがつひのかみ]に触れるその瞬間、全て消え去ってしまったんだから。


「はは! どうしたよ望月! 所詮しょせんクソザコモブは、『攻略サイト』に載ってないと何にも対処できないか?」

「…………………………」


 ケタケタとわらう賀茂を、俺は無言で睨む。

 悔しいが、賀茂の言う通りだ。


 俺も『闇堕ちエンド』の内容自体は知っているが、どうやって主人公が世界を破滅に追い込んだのか、そこまで『攻略サイト』で言及されているわけじゃない。


 だけど……もう一度思い出せ!

 あの『攻略サイト』には、何と書いてあった?


 そもそも『闇堕ちエンド』は、ゲームの攻略において主人公がヒロインや仲間キャラとの好感度が少ない場合、藤堂マサシゲの言葉に騙されたヒロイン達が最終決戦を前に主人公を裏切ってしまうものだ。


 そして、打ちひしがれる主人公に近づいた藤堂マサシゲは、『死返玉まかるかえしのたま』を手渡し、主人公の精霊ガイスト幽鬼レブナントに変えてしまう。


 後は……すぐ傍にいた藤堂マサシゲを憎しみのまま消し去り・・・・、例の一行のエンドロー……っ!?


 まさかっ!?


空間を操る・・・・・スキルかっ!?」

「へえ……クソザコモブのくせに、よく分かったな。そうさ、[禍津日神まがつひのかみ]のスキルは、空間を自由に操る能力だよ」


 チクショウ! なんだよそのふざけたスキルは!


「ハハハハハ! だから言っただろう! オマエの[神行太保しんこうたいほう]みたいに、ただ速いだけ・・・・・・精霊ガイストとは訳が違うんだよ!」


 高笑いする賀茂を睨みながら、俺はギリ、と歯噛みする。


「オマエは! あの『攻略サイト』でソレを……『死返玉まかるかえしのたま』を見つけたってことかよ!」

「いや? コレは、言ってみたらただの偶然・・だ」

偶然・・だと!?」


 声を荒げる俺とは対照的に、賀茂はとぼけた表情で肩をすくめた。


「そうさ。確かにオレも、夏休みにたまたま・・・・エゴサして『攻略サイト』を見つけた時には驚いたよ。しかも、このオレがほんの一回だけ『賀茂』って名前が出るだけの、モブ以下の扱いなんだぜ? 許せるかよ」

「…………………………」

「だけどな、オレの[瀬織津姫]がたまたま・・・・持っていたアイテム……それが、『死返玉まかるかえしのたま』だったんだよ」

「っ!?」


 何だと!? 『死返玉まかるかえしのたま』は、藤堂マサシゲが持っていたんじゃないのか!?


「さすがにあの時は驚いたね。コレって、オレに世界を滅ぼせって意味だろ? だから、モブ以下扱いされてキレていたオレは、こんな世界メチャクチャにしてやるって考えて、【反魂】をしてやったんだよ」

「そ、それで……それで、どうなったんだ……?」


 愉快そうに話す賀茂に、俺はおずおずと尋ねる。


 すると。


「アン? そりゃ、見ての通りだよ。[瀬織津姫]は[禍津日神まがつひのかみ]になって、オレは最強の称号を手に入れたってワケだ。しかも、元はオレの精霊ガイストなわけだから、[禍津日神まがつひのかみ]」になっても絶対服従だしな」

『はうはう! マスターを世界一お慕いしているのは当然なのです!』


 [禍津日神まがつひのかみ]は嬉しそうにそう言うと、賀茂に抱きついて頬ずりをした。


 だけど……そうか、精霊ガイスト使い本人が世界を破滅させようなんて考えなければ、あの『闇堕ちエンド』の結末になるとは限らない、ってことか……。


 とはいえ……俺に、こんな幽鬼レブナントを倒すことができる、のか……?


 すると。


『はうはうはう! だから何なのです! [シン]は、マスターと一緒に悪い幽鬼レブナントをやっつけるのが使命なのです! だから……だからオマエなんか、この[シン]とマスターで、倒してみせるのです!』

「[シン]……」


 [シン]はオニキスの瞳で[禍津日神まがつひのかみ]を見据える。

 絶対に倒すんだっていう、覚悟と決意、そして意志を込めて。


 ……はは、だったらマスターの俺が、日和ひよってる場合じゃないよな。


「そうだとも! 賀茂……そして[禍津日神まがつひのかみ]! オマエ達は、この俺と最高の相棒が、まとめて叩き潰してやるッッッ!」

『はう! なのです!』


 そう宣言すると、俺と[シン]は、賀茂と[禍津日神まがつひのかみ]に向けて拳を突き出した。

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