第331話 最強の援軍

「そうだとも! 賀茂……そして[禍津日神まがつひのかみ]! オマエ達は、この俺と最高の相棒が、まとめて叩き潰してやるッッッ!」

『はう! なのです!』


 そう宣言すると、俺と[シン]は、賀茂と[禍津日神まがつひのかみ]に向けて拳を突き出した。


 だけど。


「? それで?」

「そ、それでってなんだよ! 聞いてなかったのか? 俺と[シン]で、オマエ達を……「いや、それは聞こえてるから」」


 キョトン、とした様子で聞き直す賀茂に、俺がもう一度宣言しようとしたが、遮られてしまった。

 い、いや、普通はここであおり返してきたり、悪役ムーブをするのがお約束だろ!?


「というか、オマエ……本気でオレに勝てると思ってるのか? それも、たった二人で・・・・・・

「な、何だと!」


 呆れた表情で告げる賀茂に、俺は声を荒げる。


「言っておくが、[禍津日神まがつひのかみ]のステータスは、オール“SS”だ。オマケにオマエも見た通り、空間を操るっていう規格外のスキルもある」

「…………………………」

「それだけじゃない。パッシブスキルも【全属性無効】、【物理無効】、【状態異常無効】まであるんだ。オマエ達の攻撃は、ほぼほぼ通用しないんだよ」


 賀茂の説明に、俺は思わず目を見開く。

 何だよそれ……そんなの、ステータスは最強、防御も完璧、スキルは最凶……って。


「……ははっ」


 気がつくと、俺は笑っていた。


 確かに、この賀茂カズマと[禍津日神まがつひのかみ]は真のラスボス以上の強さを誇る、最悪の敵だ。

 だけど……これまでも、最低のところから這い上がってきたのが俺達だ。


 だから。


「それを聞いたからって、引き下がったりするかよッッッ! [シン]!」

『はうはう! 行くのです!』


 俺の合図と共に、[シン]が[禍津日神まがつひのかみ]に向かって突撃する。


 たとえ【全属性無効】、【物理無効】のスキルを持っていても、『ガイスト×レブナント』ではスキル攻撃ならダメージを与えられる。

 なら! 当然、[シン]の呪符による攻撃は通用する!


『はう! 後ろを取ったのです!』

『はうはう!? 速いのです!?』


 スピードを活かして一気に回り込んだ[シン]が、[禍津日神まがつひのかみ]の背中に呪符を貼り付けようと、手を伸ば……『プークスクス。バーカ、なのです』……何っ!?


『はう!?』


 なんと、伸ばした[シン]の手が、突然消え……っ!?


『アアアアアアアアアッッッ!?』

「うわあああああああッッッ!?」


 [シン]の右腕……肘から先がなくなり、それと同時に俺の右腕にも激痛が走る。

 それに合わせ、右手が全く動かなくなってしまった。


『痛いのです!? 痛いのです!?』

「グギギ……ッ!?」


 痛みのあまり、のたうち回る[シン]。

 俺も、なんとかこの激痛に耐えるため、歯を食いしばる。


「っ!? 【カイロス】!」


 中条が慌てて[デウス・エクス・マキナ]のスキル、【カイロス】を発動すると、[シン]の頭上に歯車が現れ、カチリ、と巻き戻した。


『っ! ……マキ姉さま、ありがとうなのです……!』

「中条……助かった……」


 ついさっきまでの、右腕を失ったことによる激痛で脂汗びっしょりになった俺と[シン]は、二人に礼を言う。


「はは。中条シドって、戦ってみると面倒な奴だなあ……つーか、藤堂サクヤと同じ準ラスボスのくせに、なんでこんなクソザコモブに加担してやがるんだよ」


 そう言うと、賀茂がヘラヘラしながら肩をすくめる。


 すると。


「クク……なんで我が望月ヨーヘイに加担するか、だと?」


 中条は賀茂を見据えながら、不敵な笑みを浮かべた。


「決まっている。この男は……望月ヨーヘイは、我がただ一人認めたライバルだ! 友だ! そんな友が、大切なもの・・・・・を守るために戦うというのなら、共に戦うのが友というものだ!」

「中条……」


 何だよ……俺だけじゃなくて、お前も勝手に俺のこと、友達認定してやがったのかよ……つーか、重いんだよ。


 だけど……ありがとう。


「はは……そうだな……中条は全力で戦って、認め合った、俺の大切な友達だ。だから中条は、こんなクソザコモブな俺を助けてくれるんだ。本当に、お節介極まりないな」

「クク……貴様こそ、逆の立場なら同じようにするだろうに」


 俺と中条は、くつくつと笑い合う。


「なあ、賀茂。オマエには、こんな友達がいるか?」

「友達? なんだソレ。オレに必要なのは、ハーレム要員だけだよ」


 俺の問いかけに、賀茂は小馬鹿にするかのように嘲笑あざわらう。


「ふうん。そのハーレム要員も、キーアイテムを奪って服従させてるだけだよなあ?」

「ああ、そのほうが手っ取り早いだろ?」


 賀茂は悪びれもせず、そう言い放つ。

 はは……ヒロイン達も、完全にモノ扱いかよ。


「じゃあさ、オマエがつらい時、苦しい時、誰もオマエを支えてくれる奴もいないんだな。オマエが嬉しい時、楽しい時、だれもオマエと一緒に喜んでくれる奴がいないんだな」

「いや、そんな奴いらねーだろ。つーか、このオレがピンチになるなんてあり得ないし。だって、[禍津日神まがつひのかみ]は最強だぜ?」


 はは……その言葉を聞いて安心した。

 結局、賀茂カズマって奴はクソザコモブの俺なんかよりも、よっぽど弱い・・じゃねーか。


「ははははは! だからオマエは、モブ以下・・・・なんだよ!」

「っ! 調子に乗るなよ! クソザコモブ・・・・・・が!」


 俺が大声で笑ったことになのか、モブ以下・・・・と罵ったことになのか、賀茂は怒りで顔を真っ赤にすると。


「サッサとこの世界から消してやる!」

『はう! 【破敵剣はてきのつるぎ】!』


 賀茂の叫びに呼応し、[禍津日神まがつひのかみ]が右手の剣を振り上げ、襲い掛かる。


 その時。


「ハアアアアアアアアアアアアアッッッ!」

『っ!? ギャウッ!?』

「ぐあっ!?」


 突然、[禍津日神まがつひのかみ]が宙に弾き飛ばされ、遠く離れた部屋の壁に激突した。


「ふふ……待たせたな」


 はは……相変わらず、最高のタイミングで来るんだから……っ!


 現れたのは、俺が尊敬して……憧れてやまない、世界一大切な女性ひと


 ――藤堂サクヤさんだった。

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