第263話 軌道修正

※ 人物特定を避けるため、あえて一人称を『  』で、精霊の名前を[  ]で表しておりますが、ご了承ください。


■???視点


「さて、と……」


 『  』は部屋に帰るなり、ベッドに寝転がってスマホの画面を眺める。


「ウーン……だけど、今日はチョット失敗したなあ……なあ、お前もそう思うだろ?」


 そんなことを呟きながら、隣にいる『  』の精霊ガイスト、[  ]に問い掛けると、[  ]は首をコクコクと縦に振った。


「だけどさあ、ここまで上手くいかないと、『  』としても困るんだよなあ……」


 そう、『  』の計画は順調に進んでいたはずだったのに、気づいたら全部裏目に出てるんだよなあ……。


 それよりも。


「頼むからメインストーリーのイベントくらい、順調にこなせよなあ……」


 そう呟くと、『  』は思わず頭を抱える。


「大丈夫なのです! マスターならきっと、全て上手くいくのです!」

『はは……[  ]は優しいなあ……』


 そう言うと、『  』は[  ]の頭を優しく撫でた。


『えへへー、なのです』


 すると。


 ――ピリリリリリ。


「ん? 電話?」


 『  』はスマホを手に取り、画面を見ると……あー、アイツかあ……。


「もしもし」

『あ……今よろしいでしょうか……』


 電話の向こうで、アイツがおずおずと尋ねる。


「いや、というか用件があるから掛けてきたんだろ? それで、どうした?」

『あ、は、はい……その、今回の件ですけど……』

「あー……いや、正直お前に関してはよくやったよ。他の二人・・・・は駄目だったけどな」

『っ! あ、ありがとうございます!』


 はは、ちょっと褒めてやると、すぐにこうやって嬉しそうな声を出すなあ。

 まあ、そういうところはメインヒロイン。普通に可愛い。


『あ、それで本題なんですが、今回の一連のことについて、『  』さんのおっしゃっていたことといくつかずれ・・がありまして……』

ずれ・・?」


 妙に引っ掛かる言い方をするので、『  』は思わず聞き返した。


「はい……実は……」


 彼女が言うには、メイザース学園生徒会が学園長室へと侵入しようとした際、クソザコモブ・・・・・・の“望月ヨーヘイ”や、主人公・・・である“立花アオイ”、それにメインヒロインの一人である“アレクサンドラ=レイフテンベルクスカヤ”と、その妹の“プラーミャ”が待ち構えていたとのこと。


 それだけではなく、立花アオイとアレクサンドラに関しては、本来のものとは違う精霊ガイストだったらしい。


『……あの望月ヨーヘイもそうですが、『  』さんからお聞きしていた『ガイスト×レブナント』の世界とは、なんだか違うような気がするのですが……』

「はは、そんなはずはない。ここは間違いなく『ガイスト×レブナント』の世界だよ」

『っ!? も、もちろん『  』さんを疑っているわけではないんです!』


 はは、『  』がチョット低い声を出しただけで、彼女のこの慌てよう……本当に、イジメ甲斐・・・・・があるよ。

 だけど……『ガイスト×レブナント』のキャラが、ゲームと違う動きをして、さらに、精霊ガイストまでも違う、かあ……。


『そ、それと、近衛スミのクラスチェンジ後の精霊ガイストまでもが異なっていました』

「……へえ」


 それは興味深いなあ……。

 つまり、向こうが何かをした結果というわけではなく、何かしらの要因が絡んで、そういったことが起きているってことだからな……。


「これはすごい情報だ。よくやった」

『っ! あ、ありがとうございます!』


 さあて……だけどこれは、ちょっとプランを練り直さないといけないなあ……。

 なにせ、この『ガイスト×レブナント』の本編が終わった後の、この『  』がハピエンを迎えるためのプランを、な。


『そ、それで、私はこれからどうすれば……?』

「ああ……とりあえず、今しばらくは宿泊先のホテルにいてくれ。近々、別の住処すみか身分・・を用意しておく。なあに、来年の春・・・・には呼び戻すし、それに、遠距離のほうが恋愛は燃えるだろ?」

『は、はい! ……そ、それで、次はいつ逢えますか……?』

「そうだな……次は、お前の冬休みだな」


 定期報告をさせる上でも、そのくらいのタイミングのほうが、都合がいいだろう。

 何と言っても、この『  』の駒が二人もいなくなってしまったんだ。しばらくは、コイツに管理させないと。


 せっかくの実験場・・・であるメイザース学園を捨てるのは惜しいからな。


『冬休み……楽しみにしてますね……』

「ああ……おっと、大事なことを忘れていた」

『? 大事なこと、ですか……?』

「ああ……愛してるぞ、セシル・・・

『! わ、私も、です……』


 『  』は通話停止ボタンをタップすると、スマホをベッドに放り投げる……って。


「……なんだよ」

『……別に、なんでもないのです』


 あー……[  ]の奴、完全にヤキモチ焼いてるなあ……。


「全く……あの女は、ただのなんだぞ? お前のほうが圧倒的に大事に決まってるだろ」

『そ、それはそうなのですけど……』


 それでも機嫌が直らない[  ]を、『  』は後ろから抱きしめた。


『はう……』

「はは……ホラ、機嫌を直せ」

『相変わらず、マスターはワルイ男なのです……』


 そう呟くと、[  ]はもぞもぞとこちらへと向き直り、『  』の胸に頬ずりした。


 だけど。


「ハア……とにかく、ちゃんとゲーム本編通り・・・・・・・に軌道修正させないと、だな……」


 そう呟くと、『  』は深い溜息を吐いた。

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