第264話 メチャクチャにしてやる!

※ 人物特定を避けるため、あえて一人称を『  』で、精霊の名前を[  ]で表しておりますが、ご了承ください。


■???視点


『マスター、[  ]達は一体どこに向かっているのです?』


 土曜日の深夜、『  』の隣を歩く[  ]が不思議そうに尋ねる。


「はは、決まってる。新たな仲間を手に入れるためのアイテムを取りに来てるんだよ」


 そう……アイツを仲間に加えるためには、アレ・・が必要不可欠。

 これさえあれば、アイツは間違いなく『  』の仲間になるはずだ。


 そして。


「……ここに、その目的のアレ・・がある」

『っ!? で、ですけどマスター、ここに『私有地につき立入禁止』と書いてあるのです!』

「あー……まあ、今日『  』達は不法侵入をするんだ……」


 『  』は頭を掻きながら、[  ]にそう告げる。

 いや、『  』だってそんなことはしたくないが、ここにあるんだからしょうがないんだよ……。

 といっても、『まとめサイト』によれば、アイツの好感度が一定以上ある状態でメイザース学園のシナリオを進めていくと、自動的にここに侵入するイベントが発生するらしい。


「……なにせ、ここにはあの・・『藤堂家』に関する重要なものもあるからな」


 そう……この私有地は、学園長である藤堂マサシゲにとって大切な場所・・・・・なのだ。

 で、そのイベントを終えるとこの私有地に自由に出入りすることができるようになり、同じく敷地内にある“南山”領域エリアが開放されることになる。


『な、なら、そのイベントが発生してからここに来ればよいのです! わざわざマスターが犯罪者になる必要はないのです!』

「バカヤロウ。そんなのを待ってたら、アイツが『  』の仲間になることができなくなるだろ」


 そもそも、『  』はアイツがやって来るまで待ったんだ。このまま『ガイスト×レブナント』のストーリーが進行してしまうと、“南山”領域エリアが開放された途端に主人公・・・にアイツを奪われてしまう。


「とにかく、『  』は主人公よりも先回りしてここにあるアイテムを取りに来てるんだ。これくらいのリスクを冒さないと、仲間に引き入れることは無理なんだよ」

『で、ですが……』


 それでも納得がいかない[  ]は、上目遣いでなおも諫言かんげんしようとする。


『っ!? マ、マスター!?』

「なあ、[  ]……ただのモブ以下の『  』が仲間を手に入れようとするなら、こうするしかないんだ……」


 俺は[  ]を抱き寄せると、耳元でそうささやいた。


『んっ……マ、マスター……』

「だから……[  ]も協力して欲しい。『  』と[  ]の、最高の未来を迎えるために……」


 そう言うと、[  ]のその長い耳を甘噛みした。


『ん……は……マスターは、ズルいのです……』

「はは……」


 『  』は真っ赤になった[  ]からそっと離れる。

 はは……[  ]ときたら、本当に扱いやすい・・・・・


「さーて……それじゃ、サッサとお宝を手に入れて、さっきの続きしようぜ」

『っ! も、もう! マスターはワルイ男なのです!』


 [  ]は恥ずかしそうにポカポカと俺の肩を叩く。

 そんな[  ]を適当にあしらいながら、『  』達は敷地内に入り、“南山”領域エリアを目指した。


 ◇


『食らえ! なのです!』


 [  ]がこの“南山”領域エリアに多く出現する幽鬼レブナント、“ブロンズウルフ”を倒すと、幽鬼レブナントは幽子とマテリアルにその姿を変える。


『ですがここの幽鬼レブナント、全然強くないのです! 楽勝なのです!』

「はは、まあな」


 まあ、それも当然だ。

 この“南山”領域エリアの踏破に必要なレベルは三十。つまり、“グラハム塔”領域エリアと変わらないんだから。


 そうして『  』達は順調に進んで行き、とうとう一番奥である御殿へとたどり着いた。


『マスター、あそこにそのアイテムがあるのですか?』

「ああ……『揚羽蝶紋入り扇』がな」


 そう……これこそが、『  』が一番仲間に引き入れたいヒロインである“土御門シキ”のキーアイテムだ。


『……以前、仲間に入れたいとは聞いていたのですが、マスターはどうして、そんなにその“土御門シキ”にご執心しゅうしんなのです……?』


 [  ]が口を尖らせながら尋ねる。

 あー……[  ]の奴、ヤキモチ焼きやがって……。


「決まってるだろ……このクソゲーを終わらせて、ハピエンを迎えるためだよ。『  』と、[  ]が」

『っ! そ、そうだったのです……』


 はは、俺の答えを聞いて[  ]の奴、モジモジしてやがる。

 まあ、本音は土御門シキの精霊ガイスト、[導摩法師]のスキルの優秀さと、何より、土御門シキの容姿が『  』の好みなんだよ。


 ……いや、『ガイスト×レブナント』に出てくるヒロインは、この『  』が片っ端から食い散らかすつもりだけどな。


「はは」


 そう考えていると、思わず笑いがこぼれる。

 すると何を勘違いしたのか、[  ]が『  』にそっと寄り添った。


『……[  ]は、世界一幸せな精霊ガイストなのです……』

「ああ、『  』もだよ……」


 [  ]の頭をそっと撫でると、『  』達はいよいよ御殿の中に入る。


 当然、そこには領域エリアボスである“義貞”がいるわけだけど……。


『これで! トドメなのです!』


 所詮はレベル三十五の領域エリアボス。[  ]にアッサリと倒され、幽子と大量のマテリアルに変わる。


 そして。


「さあ……『揚羽蝶紋入り扇』は、この中に……っ!?」


 奥に鎮座されている木箱を開けた瞬間、俺は思わず息を飲んだ。


『……何も入っていないのです』

「バ、バカな!? 確かにここにあるはずなんだぞ!?」


 ど、どういうことだよ!?

 あの『攻略サイト』の情報がガセだっていうのか!?


 ……いや、これまで『攻略サイト』の情報は絶対だった。


 つまりこれは。


「誰かが、『  』より先に持って行った……?」


 そう呟いてから、『  』の中に黒い感情が芽生える。

 まただ! また、この『  』よりも先に持って行きやがった!


「望月、ヨーヘイ……!」


 そして『  』は確信する。

 アイツは『  』と同じく、この『ガイスト×レブナント』の全てを知っているのだと。


「……『  』と同じように『攻略サイト』を持っているのか、それとも、ラノベの主人王みたいに異世界転生してきた奴なのかは分からないが、間違いないだろう」


 まあいい。

 だったら、それはそれでやりようがある。


 そもそも、望月ヨーヘイはこの『  』が『攻略サイト』を持っていることを知らないが、『  』はアイツがこの世界の情報を・・・・・・・・知り得ている・・・・・・ことを知っている。これは大きなアドバンテージだ。


 その上で……アイツから何もかも奪ってやる!

 望月ヨーヘイの周りにいるヒロインも、何故か懐いている準ラスボスの生徒会長も!


「はは! 見てろよ望月ヨーヘイ! オマエは、この『オレ』が全部メチャクチャにしてやるよッッッ!」

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