“ご都合主義”中条シド

第265話 来年、一緒に

「くあ……!」


 俺はスマホのアラームを止め、大きくあくびをする……って。


「あー……いつまでたっても寝相が悪いなあ……」

『すぴー……すぴー……』


 気持ちよさそうに俺の上に乗っかって寝ている[シン]を見て、俺は苦笑する。

 全く……こんなちっこい身体のどこに、あんな根性とスピードの源があるのかね……。


 そんなことを考えながら[シン]の頭を撫でると、俺は[シン]を起こさないようにしながらベッドから出た。


「さて……これから二年生になるまでの五か月、どうすっかなあー……」


 カーテンを開けて窓から外を眺めながら、俺はポツリ、と呟く。


 というのも、本来だったら二年生い進級するまではメイザース学園の暗躍を阻止するイベントが目白押しで、それを初手で叩き潰したモンだからあまりイベントがないのだ。


「まあ、この余った時間で今以上に強くなって、二年生になってからも万全の体制でのぞまないとだけどな」


 確かにメイザース学園の脅威は去ったけど、だからといって先輩の結末が変わるってわけじゃないんだ。

 本当は、『ユグドラシル計画』そのものをサッサとぶち壊したいんだけど、さすがに国相手・・・に単身で戦いを挑んでも勝てるわけないしなあ……。


「だからこそ、計画自体が意味のないものなんだと知らしめることで、計画そのものを諦めるように仕向けてるんだけど」


 そう……先輩に“シルウィアヌスの指輪”をはめてもらうことで、必要な“ウルズの泥水”の吸収を半減させ、永遠にを芽吹かせないようにする。

 そうすれば、そもそも“ウルズの泥水”でを満たすことができないんじゃないか、又は、“ウルズの泥水”を与えてもは芽吹かないんじゃないかと、疑心暗鬼に陥るはずなんだ。


「後は、先輩の身体の中からを除去する方法なんだけど……ウーン……」


 さすがにを取り除く方法までは『攻略サイト』には載っていない。

 まあ、『ガイスト×レブナント』本編においては、最終決戦の場でが“ウルズの泥水”で満たされたタイミングで、先輩の父親である桐崎ライドウにはらを破られて無理やり取り出されるんだけど。


「……しっかし、本気マジでムカツクなあ」


 その結末を思い浮かべるだけで、俺の中でこれ以上ないほどの怒りがこみ上げてくる。

 亡くした最愛の奥さんを取り戻すために、大切な自分の娘を犠牲にして、挙句の果てに奥さんどころか最悪のラスボス・・・・を生み出すんだから。


「全部片づけて来年のクリスマスを超えられたら、絶対にぶん殴らないと気が済まねえ……!」


 俺は右の拳で左の手のひらをパシン、と叩いた。


『むにゃ……はう、おはようなのです……』


 すると、ようやく目を覚ました[シン]は、目をこすりながら挨拶をした。


「おう、おはよう」

『ところでマスター、窓の外を眺めて何をしてるんです?』

「ああ……ちょっと気合いを入れてたんだよ」


 そう言って、俺はニコリ、と微笑む。


『はう! じゃあ[シン]も気合いを入れるのです!』


 ベッドから勢いよく出た[シン]は、俺の隣に来ると。


 ――パシン。


『はう! 気合い注入なのです!』


 [シン]が自分の両頬を思い切り叩き、エッヘン、と胸を張った。


「プ、ププ……! [シン]、お前……鏡を見てみろよ……!」

『へ? 鏡、なのです?』


 [シン]はコテン、と首を傾げると、トコトコと鏡の前に向かう。


 そして。


『はうはうはうはう! 気合いを入れ過ぎたのです!』

「はははははははは!」


 なんと、[シン]は自分の頬を強く叩き過ぎたせいで、綺麗に小さなもみじが頬っぺたに出来上がっていた。


『はう! そんなに笑うなんて、ヒドイのです! ヒドイのです!』

「ははは! わ、悪い悪い!」


 頬をパンパンに膨らませて怒る[シン]にポカポカと叩かれ、俺は笑いながら謝った。


 すると。


「ヨーヘイ! [シン]ちゃん! 早くしないと、遅刻するわよー!」

「あ、ヤベ」

『はうはう!』


 母さんの声が家中に響き渡り、俺と[シン]は慌ててリビングへと向かった。


 ◇


「望月くん、おはよう」


 いつもの通学路のいつもの十字路。

 先輩は今日もソワソワしながら待ってくれていて、俺の姿を見るなりぱあ、と笑顔を見せてくれた。

 はあ……この先輩の笑顔だけで、今日一日戦える……。


「ふふ……そういえば望月くん、実は二年生の修学旅行が中止となってしまったのだ」

「えーっ!?」


 先輩の何気ない一言に、俺は思わず大声で叫んだ。

 いや、修学旅行が中止って何で!?


「まあ、領域エリアの外に“柱”……幽鬼レブナントが立て続けに二回も現れたら、学園としても大事を取って中止にする判断もやむを得ないだろうな」


 そう言いながらも、どこか嬉しそうな先輩。


 ちなみに、『ガイスト×レブナント』でハーレムを形成するためには、この修学旅行こそが重要だったりする。

 というのも、二年のヒロインが修学旅行に行っている間を利用して、一・三年やその他のヒロインとひたすら好感度を上げるからだ。


 まあ、時間を有効に使うという意味ではそうなんだろうけど……お、俺はそんなことしないからな!


「で、でも、せっかくの修学旅行なのに、先輩は行けないんですね……」


 学園生活で一度しかない修学旅行が“柱”のせいで……おのれ、“柱”!


「ふふ……だから、二年生は来年、今の一年生と合同で修学旅行に行くことになったんだ」

「ええっ!?」


 先輩の言葉に、俺はさっき以上に驚く。もちろん、嬉しさのあまりに。


「じゃ、じゃあ……!」

「ああ……望月くん、来年の秋は、その……一緒に修学旅行に行こう」


 はは……! なんだよそれ……最高かよ!


「はい! 一緒に行きましょう! はあー……来年が待ち遠しいなあ……!」

「あう……ふふ、私も楽しみだよ」


 それから俺と先輩は、修学旅行の行先を予想したり、修学旅行先の自由行動で一緒に散策する約束をしたりしながら、楽しく登校した。

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