第266話 次の目標

「ヨーヘイ! おはようなのですワ!」


 先輩と別れて教室へやって来ると、サンドラが笑顔で挨拶をしてくれた。


「おう、おはよう!」

「フフ……ところでヨーヘイ、メイザース学園との交流戦も終わりましたし、そろそろ次の領域エリア攻略を考えませんこト?」

「あー……」


 サンドラの言う通り、メイザース学園の野望を叩き潰したことだし、当面は“柱”が現れた場合の対処と『ユグドラシル計画』の阻止だけに集中すればいいからなあ。


 そうなると……後回しにしていたアレ・・に手をつけるか。


「よし! じゃあサンドラの提案に乗って、二学期が終わるまで領域エリア攻略を中心にするか!」

「エエ!」

「え? 領域エリア攻略?」

ヤーも混ぜなさいヨ」


 すると、俺とサンドラの会話を耳聡く聞いていた立花とプラーミャが会話に加わってきた。


「ああ。“アルカトラズ”、“アトランティス”、“葦原中国あしのはらなかつくに”と、領域エリアの踏破も終わったことだし、次の領域エリア攻略に乗り出そうと思ってな」

「! だったら今度こそ、ボクと一緒にチーム組んで行こうよ!」

「待ちなさイ、アオイ。ヨーヘイはサンドラとこのヤーと組むんだからダメヨ」


 お、おおう……まさか二人から、こんなに誘われるとは思わなかったぞ。


「ま、まあ落ち着け。とりあえずどんなチームで行くかも含めて、今日の昼休みにでもみんなで相談しようぜ」

「そ、そうネ」

「むー、分かったよ」

「仕方ないわネ」


 立花とプラーミャは口を尖らせて不服そうではあるけれど、とりあえずは了承してくれた。

 サンドラは安堵した様子ではあるものの、どこか不安そうにしている。


 はは……分かりやすい奴。


「ワッ!?」

「まあ、そんなに心配する必要はないんじゃねーの? ホラ、俺だって自分の背中を預けるのは、一番信頼できる奴・・・・・・・・にしたいしな」


 サンドラの頭をガシガシと乱暴に撫でながらそう言うと。


「フフ……モウ、仕方ないですわネ」


 サンドラは苦笑しつつも、嬉しそうに目を細めた。

 良かった、とりあえず不安は解消されたみたいだ。


 ――キーンコーン。


「お、チャイムだ」

「じゃあ昼休み、ですわネ!」

「はは、おう!」


 俺とサンドラはハイタッチをすると、それぞれ自分の席へと戻って行った。


 ◇


「ふむ……領域エリア攻略を、な……」


 昼休み、いつものように食堂に集まると、早速領域エリア攻略について提案した。


「それはいいですが、今度はどの領域エリアを攻略するんですか?」


 氷室先輩が表情を一切崩さずに尋ねる。


「はい。今までは学園の外でばかり領域エリア攻略をしていましたので、今度はいい加減、領域エリアの攻略をしようと思いまして」

……ということは」

「はい。二年生の必修課題である、“カタコンベ”領域エリアの攻略です」


 そう告げると、この学園のことをまだ詳しく知らない土御門さん以外、みんなが納得して頷いた。


「へへ! ようやくあそこを攻略できるのかよ!」


 そう言うと、加隈がパシン、と拳で手を叩いた。まあ、コイツは以前から“カタコンベ”領域エリアの攻略に行こうってやたらと誘ってたもんなあ。


「ホホ……別に構わんが、わらわはまだ一年生の必修課題の“グラハム塔”領域エリアを踏破しておらぬえ? ということは、わらわは留守番ということかの?」

「いや、もちろん土御門さんにも一緒に来てもらうよ。ただし、明日から・・・・

「ホ、明日から・・・・、とな?」


 俺の言葉に土御門さんがキョトン、とした。


「ああ。だから土御門さんには、今日中に“グラハム塔”領域エリアを踏破してもらおうと思ってる」

「なな、なんじゃと!?」


 はは、さすがに驚くよな。

 だけど、俺は土御門さんなら可能だと考えている。いや、むしろ土御門さんなら速攻で踏破だろ。


「そもそも土御門さんの精霊ガイスト、[導摩法師]には【式神】があるんだ。それさえあれば、“グラハム塔”領域エリアなんて散歩ようなものだし」

「じゃ、じゃが、領域エリアには罠や仕掛けがあるじゃろう!? それは【式神】だけでは防げぬぞ!?」

「もちろん。だから土御門さんにはこれ・・を」


 そう言うと、あらかじめ持ってきておいた一冊のノートを渡す。


「これは……?」

「ああ、そのノートには、“グラハム塔”領域エリアの各階層のマップと罠やアイテムの位置、それと、出現する幽鬼レブナントの情報が書いてある」

「っ!?」


 おずおずと尋ねる土御門さんにそう告げると、彼女は目を見開いた。

 といっても、『まとめサイト』を丸写ししただけだから、実際には大したモンじゃないんだけどな。


「こ、これをわらわに……?」

「はは、まあ俺達は踏破しちまったし、今必要なのは土御門さんだからな」


 すると。


「まこと……まっこと、お主は……!」


 何故か感極まった土御門さんが、そのノートをキュ、と抱きしめた。いや、ちょっと感動しすぎじゃない!?


「ハア……全く、ヨーヘイときたラ……」


 そう言って溜息を吐くプラーミャ。いや、俺は何も悪くないだろ!?


「……これは」

「エエ……少し、ヨーヘイに聞きませんト」

「ですね……」


 え、ええと、先輩もサンドラも氷室先輩も、なんでそんなジト目で見るんですかね?

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